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「18、19歳」は刑法か少年法かを選択――自民「年長少年」導入案は厳罰化への道?

2015年06月24日 12:21  弁護士ドットコム

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来年夏の参院選から、選挙権年齢が「18歳以上」になる。従来の20歳以上から、引き下げられた。改正公職選挙法が6月中旬に成立したためだが、少年法にも動きがあるかもしれない。少年法の適用年齢を20歳未満から18歳未満に引き下げ、18~19歳を「年長少年」とする案が検討されているという。


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日経新聞の報道によると、成人年齢などの引き下げを議論する自民党の特命委員会が討議中。「年長少年」とは、ドイツですでに実施されている制度で、刑法と少年法のどちらを適用するのかを、本人の精神の成熟度などに応じてその都度、決めるのだという。日本でも、ドイツのケースを参考にして検討するようだ。



少年法の適用年齢の引き下げには、慎重な意見もある。それに対する配慮もあるようだが、「年長少年」が設けられた場合、どのような影響があるのだろうか。厳罰化の流れが進むことになるのだろうか。星野学弁護士に聞いた。



●ドイツは、罰ではなく「更生」のための制度


「少年犯罪に関しては、現在も『検察官送致(逆送)』といって大人と同様に刑法が適用される場合があります。ですから、特に『年長少年』制度が導入されても、目立った影響はないように見えます。



実際に我が国で『年長少年』制度が導入された場合、その影響は不透明といわざるを得ません」



どうして影響を見通しにくいのだろうか。



「そもそも、ドイツと日本は、年長少年制度の議論の背景が、異なるように思います。



ドイツでは、『刑罰は、犯罪を抑止するため、犯罪者を教育し、更生させるためのもの』と捉えられています。年長少年制度も『犯罪者を教育して更生させるため』という観点から、少年法と刑法のどちらを科せば良いかという考えが、背景にあります。



ドイツでは、単純に重い刑を科せば犯罪を抑止できるとは考えられていません。死刑制度も廃止されています。刑務所は『更生』のための施設です。受刑者はジムやプールなど充実した設備の刑務所で過ごし、一時帰宅したり旅行をすることさえできます。



統計を見た場合、たとえば殺人の件数は、日本に比べれば多いものの、『先進国内で低水準を維持している』と評価されています」



●刑罰に対する考え方を再確認するきっかけに


日本は、どう考えればいいのだろうか。



「日本では、選挙権年齢・成人年齢の引き下げと一緒に、年長少年制度が議論されています。そのため、少年を社会で『大人』として扱う以上は、刑事罰の場面でも『大人』としての責任を果たさせるべきであるという方向で、考えている人がいるようです。



おそらく、その背景には、悪いことをした人は相応の報いを受けるべきだという考えがあるのでしょう」



ドイツの年長少年制度は「更生」のためだが、日本の場合は「罰」のためにあるということか。



「そうですね。日本で導入した場合、厳罰化の傾向を補強するおそれがあります。少年にも大人と同じ重い刑罰を科すべきだという議論の流れです。けれど、もともと少年保護を大事にしてきた少年法の考えや、少年にとって適切な法律を選択するドイツの路線が維持される道もあります。



国民の議論の中で日本人の刑罰に対する考えを再確認し、どちらの方向性が適切なのか考えるきっかけには、なるのではないでしょうか」



星野弁護士はこのように話していた。少年犯罪の厳罰化か更生重視か。新しい制度を導入するためには、社会の認識を改めて問う議論が必要だろう。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
星野 学(ほしの・まなぶ)弁護士
茨城県弁護士会所属。交通事故と刑事弁護を専門的に取り扱う。弁護士登録直後から1年間に50件以上の刑事弁護活動を行い、事務所全体で今まで取り扱った刑事事件はすでに1000件を超えている。行政機関の各種委員も歴任。
事務所名:つくば総合法律事務所
事務所URL:http://www.tsukuba-law.com