2015年06月24日 10:51 弁護士ドットコム
「ゴルゴ13」などで知られる漫画家さいとう・たかをさんの長編コミック「ブレイクダウン」が、さいとうさんに無断で、約400ページを間引いて編集・発行されていた。出版した「リイド社」(東京都)は6月中旬、自社ウェブサイトに読者への謝罪文を掲載し、割愛した部分を無料公開した。
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「ブレイクダウン」は20世紀末、小惑星が衝突した世界を舞台にしたストーリーで、1995年から97年にかけて雑誌に連載された。今年5月、上下巻で計約1400ページのコンビニ限定販売のコミックとして発売された。
報道によると、同社はこのとき、著作権を持つ「さいとう・プロダクション」に無断で400ページを間引いたという。その結果、下巻の冒頭から何の説明もないまま新しい人物が登場したり、主要な人物が突然いなくなるなど、意味が通じなくなっていた。
リイド社は「大がかりな省略は、著作権者の了解を受けなければならなかった」と謝罪しているというが、400ページも間引くとなると、「省略」どころではなく、作品の内容を大きく損なうのではないだろうか。作者に無断でページを間引くことは、著作権侵害にあたるのだろうか。井奈波朋子弁護士に聞いた。
「著作物は、著作者にとって、自分の『人格の発露』。ですから、作者は著作物にこだわりをもっています。
著作権法は、このような著作者のこだわりに対して法的保護を与え、著作者の意に反して変更や切除などの改変を受けない権利を認めています。この権利を『同一性保持権』(著作権法20条1項)といいます」
つまり、作品を変える場合は、著作者の了解がいるということか。
「はい。同一性保持権が意味するのは、著作者だけが、著作物を改変することを決めることができるということです。著作者の許諾を得ないで、漫画の一部を省略してコミックス出版することは、著作者の意に反して著作物を切除する行為に該当します。つまり、同一性保持権の侵害です」
著作者のこだわりがそこまで保護されるとなると、文章や映像など著作物を使用する側は、安心して使用できなくなるのではないだろうか。
「ただ、著作者のこだわりに絶対的な保護が与えられるかというと、そうではありません。著作権法は、やむを得ない改変については、同一性保持権の侵害に該当しないと定めています(同条2項4号)。
たとえば、コミックスを発行する場合には、雑誌のサイズからコミックスのサイズへと縮小する必要があります。
このような場合、著作者が許諾をしていなくても、やむを得ない改変に該当するといえますし、著作者が黙示的に許諾しているとも考えられますので、同一性保持権の侵害にはなりません。映画では、テレビのサイズに合うようにトリミングしたことを、やむを得ない改変と認めた裁判例があります」
しかし、今回の間引きは、サイズ縮小などではなく、度を越しているのではないか。
「到底、やむを得ない改変とは認められません。この問題は、著作者と出版社の話し合いにより、割愛した箇所を期間限定で無料公開する方法で解決されています。しかし、出版社としては、たとえ1頁やひとコマの削除でも、あらかじめ著作者の許諾を求めるべきでした。
まして、出版社が、コミックスの発行に際して、著作者に無断で400ページも割愛するというのは、理解に苦しみます。出版社が著作者に無断で既存の漫画を大幅にカットして発行すれば、意味が通じなくなるのは当然で、一漫画愛好家としても、やめてもらいたいと思います」
井奈波弁護士はこのように話していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
井奈波 朋子(いなば・ともこ)弁護士
出版・美術・音楽・ソフトウェアの分野をはじめとする著作権問題、商標権、ITなどの知的財産権や労働問題などの企業法務を中心に取り扱い、フランス法の調査、翻訳も得意としています。
事務所名:聖法律事務所
事務所URL:http://shou-law.com/