「失敗をあえて誉める」というマネジメント手法はあるが、賞金まで出す会社は珍しいのではなかろうか。2015年6月15日放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)は、ユニークな取り組みで成長を続けている町工場を紹介した。
大阪・堺市にある従業員200人の「太陽パーツ」は、金属部品の製造・販売を手がける会社。売上高は53億円で、創業以来34年間一度も赤字がないという。社長の城岡陽志さんは「右肩上がりですね。安定成長です」と笑う。
社長いわく「勇気と行動力をもった者にしか与えられない勲章」
この会社では頑張った社員を評価する様々な表彰制度を設けており、社長賞は5万円。努力賞2万円、縁の下の力持ち賞は5000円など、月1回朝礼で表彰される。さらに半年に一度、最も大きな失敗をした社員には賞金2万円の「大失敗賞」が授与される。
表彰されるのはやはり朝礼で、社長が失敗のあらましを読み上げる。この日表彰された営業部の井上さんは、「できれば社長賞のほうがよかった」と照れ臭そうに笑いつつ、受賞した心境をこう明かす。
「『あいつ、やりよった!』と大きな声で言ってもらって、それはそれ、『次もう一回頑張れよ』としてもらった方が、新たな仕事に着手するスピードが上がります」
高く評価されるのは、新たな分野に挑戦した結果だ。今回は中国で製造した部品に不良品を出したものの、海外での製造ノウハウを学んだことが評価された。
城岡社長は「大失敗賞は、自分の限界にチャレンジする勇気と行動力をもった者にしか与えられない勲章」と説明。専務や常務をはじめ、社長自身も何度かこの賞をもらっている。
創業時は金属部品のみを扱う会社だったが、「依頼された仕事は断らない」というポリシーで何でも引き受ける決まりになっている。営業部の三原さんは、扱ったことのないビニールハウスの天井カーテンの見積依頼を受け、悩んでいる時に「何しとんねん。探せばいくらでもある。行かんかい!」と社長から発破をかけられた。
失敗を許さない社風からは、新しいものは生まれない
城岡社長は「来た仕事を断ると、そこで線が引かれ、それ以上の進歩がない」と語り、「できない仕事でも『できます』と言って持って帰ってこい」と社員に諭している。
このチャレンジ精神が結果につながり、今では部品にとどまらず最終製品も手がけている。なかでも大ヒットとなったのが、キッチン用の昇降棚だ。
ふだんは手が届かない高い棚を、簡単に上げ下ろしできるというもので、他社製品は重さによって激しく落ちてくる課題があったが、独自の特許部品を生み出し常に緩やかな動作が可能になった。大手10社と契約し、国内シェアの50%を占めるまでに成長した。
「試行錯誤していく中で当然失敗するし、その中で何かが見えてくる。新しい業態に日々チャレンジしていきたい」
こう語る城岡社長の下で働く社員たちは、安心して新しい仕事に挑戦できることだろう。口で「イノベーション」を叫んでいても、失敗を許さない社風からは、新しいものは生まれない。停滞する大企業に向かって「逆の場合はこうですよ」と示しているような挑戦者の気概が伝わってきた。(ライター:okei)
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