今宮純氏が独自の視点でドライバーを採点。F1第8戦 オーストリアGPの週末を通して、20人のドライバーから「ベスト・イレブン」を選出。レース結果だけにとらわれず、3日間コース上のプレイを重視して採点する。(最高点は星5つ☆☆☆☆☆)
☆ フェリペ・ナッセ
コース図の上では9つのコーナーしかないが、微細なうねりや隠れたバンプが続く現レッドブルリンクは難易度の高い“クラシック・レイアウト”だ。初日FP1では、ほとんど全員がコースオフ。そのなかで新人ナッセはリズム感をつかみ、5番手発進。シャシーもパワーユニットもアップデートが停滞気味なだけに、現場スタッフワークに応える走り。予選9位は自己ベストタイ、繰り上がりで8番手グリッドは自己ベスト。決勝でブレーキに苦しむも入賞まで、あと一歩の11位。新人では、ただひとり全戦完走中だ。
☆ ダニエル・リカルド
グリッド降格の嵐が吹いた第8戦、ルノー5基目ICE投入で覚悟の10グリッドダウン。その目的は新パワーユニットの実戦テスト。18番手から10位入賞の結果より、レース最速タイム5位(!)に意味がある。
☆☆ フェルナンド・アロンソ
衝撃映像だった。5速スピードで蛇行するキミ・ライコネンの左側にしか行き場がなく、追突したままクラッシュ。コース脇にカメラマンがいて心配だった。さすがチャンピオン同志、冷静な瞬間判断行動によって“暴走マシン”をなだめるように止めると、互いに事後確認。このスポーツのリスクを知るふたりならではの、レーシングアクシデント時の「エチケット」──。
☆☆ バルテリ・ボッタス
今年とくに感じるのは何らかの要因によってポジション後退しても受け入れ、あせることなく挽回に徹する彼の信念。フェアなバトルをニコ・ヒュルケンベルグ相手に展開、ブレーキ変調を克服しながらの5位にメンタルの強さがにじむ。
☆☆ ルイス・ハミルトン
やってしまった3つのミス。1:予選Q3アタックでの1コーナー。7速“ロックン・ロール・スピン”は彼でしか、ありえない場面(生で目撃できた、あそこのファンが羨ましい)。2:スタート加速失敗。珍しいが、年に一度くらいはルイスも人間だから。3:ピット出口の白線カット。その手前から、ややオーバースピードでリヤがちょっと滑りラインがふくらんだ無意識のハッスルプレー。10点差になっても、まだ余裕はある。
☆☆☆ マックス・フェルスタッペン
まったく結果に反映されなかった激走、土曜FP3後半のウエット・ドライビング。「先輩どいてください」と言わんばかりにライコネンを3コーナーでパス、他でも何台かに左右から仕掛けていた。あえて言わせてもらうと、トールマン時代・雨のセナにそっくり。コース幅を広く使いきる才能だ。決勝では「崖に来たタイヤ」で粘って8位、レッドブル自社コースで陣営4人のベストリザルト。
☆☆☆ セバスチャン・ベッテル
36周目のピットストップ。じっと右のミラーで、はまらないリヤタイヤを見つめていた。13秒。この10秒ロスは日常時間の何分間にも相当する。よく耐え、それから最後までマッサを追いかけた。今年のベッテルの「強きメンタル」が、あの場面に象徴されていた。
☆☆☆☆ フェリペ・マッサ
3位を授かってからはフェラーリ時代のようなタイトなドライビングに徹し、しつこく迫るベッテルを断ち切った。年長組、上から3人目の34歳。表彰台でゲルハルト・ベルガーに冷やかされていたが、ベテランは「やる時にはやる」。晩年のベルガ―も、そうだった。余談だが、いつも来ているお子さんは、ちゃんと学校に行っているのだろうか?
☆☆☆☆ ニコ・ヒュルケンベルグ
ル・マン24時間レース優勝後に中4日での連戦、きついスケジュールが先月から続いているだけに初日はスイッチが入っていないように思えた。だが、予選は今季ベストの5位、重いWECポルシェから軽快なF1のリズムに自己修正できていた。決勝では戦況を読み、早めの25周目にソフトタイヤへ交換、6位フィニッシュも今季のベスト。フォース・インディアのランキング5位浮上に貢献した。かつては多くのF1レーサーが両方に参加、好成績を収めていたものだ。
☆☆☆☆ パストール・マルドナルド
モナコからスーパーソフトタイヤでの予選アタックが好調、E23マシンにはフィットするようだ。ここでも粗削りながら攻め込み、10番手グリッドから派手な攻守走法を貫いて連続7位入賞。しっかりFP1からセットアップできる立場を(ロマン・グロージャンは走れず)活かしきっている。
☆☆☆☆☆ ニコ・ロズベルグ
エンジニアに頼る、相手のミスを待つ……他力本願ではいけない、自分から思い切り行動しなければと予選Q3アタック最終コーナーに挑み、曲がりきれなかった。まっすぐなブラックマーク。一直線、逃げずに攻めた末の“痕跡”にロズベルグの烈しい意地を見た。スタートをハミルトンがミスったのはラッキー、これまでのニコなら「もらった」と安心したが、今回は違った。1~2~3コーナーと、しっかりインを締めて防衛。リスタート後も完璧にマージンを増やした。この勝ち方は“ハミルトン・パターン”そのもの、やり返した満足感が喜びいっぱいの表彰セレモニーにあふれた。ここから15年シーズンいよいよセクター2へ。この自力で挙げた今季3勝目を、どうつないでいくか。五つ星の、その次は──?