トップへ

BiSHの現場が動物化!? 熱狂と波乱のギュウゾウ主催フェスを徹底レポート

2015年06月22日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

エレクトリックリボン。

 一時期からBiSの熱狂的な研究員(BiSファンの総称)になり、周囲から心配されるほどだった電撃ネットワークのギュウゾウ。すっかりアイドルに目覚めてしまった彼が主催しているアイドルイベントが『ギュウ農フェス』だ。2015年6月14日に、第2回目である『ギュウ農フェス vol.2 羽田空港アイドルフライトだっぺ!』が開催された。


 そう、タイトルにもあるように、なぜか会場は羽田空港の一角にあるTIAT SKY HALL。国際旅客ターミナルを通過して会場に向かうのだが、うっかり出国してしまったヲタが数人いても不思議ではない空間だ。


 イベントは、ギュウゾウの前説からスタート。「下の階から怒られるので、とにかくジャンプだけはしないでほしい」と伝えられて本編がスタートした。


 トップバッターのエレクトリックリボンは、すべての楽曲のソングライターでありトラックメイカーであるasCaを中心とした5人組テクノポップグループ。前回の『ギュウ農フェス』(2015年2月27日)では、5人体制のお披露目も行った。


 しかし、登場してみるとなぜかひとりだけビキニの水着のメンバーがいた。そのericaは「指原莉乃がAKB48総選挙で1位になったら自分も水着でライブをする」という公約を掲げていたため、それを実行することになったのだが、その公約を知らない観客は「メンバーのひとりがビキニ姿で缶ビールを飲んでいる」という不可解な光景を目にすることになった。


 「steal me」からキックの音がいきなりフロアの熱気を上げ、夏の楽曲である「波音チューニング」では、たわわに揺れる胸(のような気がした)で踊るericaの姿も印象的だった。最後の「クリームソーダ」は、asCaのポップセンスが発揮されたキャッチーな配信シングルだ。


 二番手のガールズq/bは、栃木県の4人組グループ。巫女のような衣装である。1曲目の「JUMP!!」では、まずイントロの音を下げて自己紹介をして、それから音量を上げて歌に入るという珍しい展開をしていた。「JUMP!!」はロックだったが、2曲目の「ナイトエクスプレス」でエレクトロなダンスチューンに急に変わったのにも驚いた。


 3組目のアイドルネッサンスは、過去の名曲を歌う7人組で、登場とともに熱い歓声が湧きおこった。ユニコーンの「PTA~光のネットワーク」のカバーでは、原曲がTM NETWORKのパロディーであったことを忘れるほど、ダンスのキレやヴォーカルの安定ぶりに魅了された。木村カエラのカバーである「BANZAI」でのダンスパフォーマンスも見事。煽りをしなくても、自然発火的にフロアが盛りあがってしまうのだ。以前見たときよりも一段とブラッシュアップされた印象だ。フジファブリックのカバー「夜明けのBEAT」での、縦一列になって描いた円を一気に崩すような動きや、THEイナズマ戦隊のカバー「手を打ち鳴らせ!!」でのフォーメーションの美しさも特筆したい。UNISON SQUARE GARDENのカバー「ガリレオのショーケース」はロックだが、激しい動きでもメンバーのパフォーマンスはブレることがなかった。そして、これまでのシングル表題曲をセットリストに入れなくても、1セットを構成できてしまう現在のアイドルネッサンスの実力を見せつけたステージだった。


 4番目に登場したのは、BiSの最初期の制作チームが「BiSをもう一度始める」と宣言してスタートさせた4人組、BiSH。1曲目の「MONSTERS」から激しいリフトやジャンプ、クラウドサーフが起き、現場は動物化。「スパーク」を聴きながら、「パフォーマンスの方向性がまだ明確になっていないし、かといってジャンクな方向にも振りきれておらず、楽曲の良さに依存している面は否めない」などと真面目に考えていたところ、靴を投げる清掃員(BiSHファンの総称)を目撃。靴を投げるなよ、ジャンプでもう禁止事項を破ってんだから! しかし、そうした清掃員ばかりではなく、消臭剤を噴出させまくって、結果的にスモーク効果のような演出を生み出している清掃員には妙に感心させられた。パフォーマンスという点では、「ぴらぴろ」の振りきれた路線が今のBiSHに一番ふさわしいだろう。


 また、このあたりからは清掃員がジャンプしなくても、暴動のような盛りあがりで床が揺れ続け、「下の階からの苦情待ったなし」の状況となった。「サラバかな」ではリフトの嵐となったが、とにかくサイリウムを投げるな! 「TOUMIN SHOJO」では、ヲタをステージ上に引っ張り上げて踊らせるという恒例の行事が行われた。


 転換中に登場したギュウゾウは「苦情来てまーす!」とMC。「このイベントは最後まで続行できるのだろうか」と不安さえ抱く状況になった。


 5番目はおやすみホログラム。サウンドにUSインディーやオルタナの影響が濃い2人組だ。また、元研究員が多数流入したグループとしても知られている。


 おやすみホログラムの現場については、自嘲を込めて羊(おやすみホログラムファンの総称)も「きったねぇ現場」と呼ぶが、実際のおやすみホログラムのステージとフロアはむしろ美しい。ギターの一音が鳴りだした瞬間に、あらゆるものが崩れだす。脈絡なくリフトやクラウドサーフが続き、ときにメンバーがフロアにダイブしていく。そこには何の予定調和もなく、混沌の美だけがある。


 1曲目の「machine song」では、望月かなみに余裕すら感じた。そう、この日は元研究員つながりでBiSHとおやすみホログラムの対決が注目されていたが、当のおやすみホログラムの八月ちゃんと望月かなみは、そんなことをまったく意識していないかのように飄々とステージを展開していた。


 おやすみホログラムは、Have a Nice Day!とのコラボレーションによる「エメラルド」という楽曲をリリースしており、それは東京のアンダーグランドの傑作にして金字塔だ。そのHave a Nice Day!のカバー「forever young」では、完全に会場がダンスフロアと化し、おやすみホログラムのふたりがハモりはじめると、その熱はさらに増していった。「drifter」で男性ヲタ同士が抱き合い、キスをしていたのは何だったのだろうか。最後の名曲「note」では、メロディーの美しさに比例するかのようにフロアは荒れ狂っていく。おやすみホログラムは、アコースティック編成やバンド編成でのライブも行っているが、この日は通常の編成で肩肘張るところもなく演者としての実力で爪跡を残していった。


 BiSHとおやすみホログラムによって、もはやぺんぺん草も生えない焼け野原となったTIAT SKY HALL。そこに、セルジオ越後やSKE48の福士奈央などからの応援ビデオメッセージが上映される光景はシュールでもあった。


 6番目はT!P。栃木県の4人組グループだ。突然正統派というか普通のアイドルが健気なステージを見せる光景には、それまでとの落差が大きすぎて内心でやや戸惑った。


 終盤の2組は、赤坂BLITZでのワンマンライブを成功させているグループだ。


 7番目はゆるめるモ!。本来は6人組だが、現在ライブに登場しているのは、けちょん、しふぉん、ようなぴ、あのの4人だ。ビースティ・ボーイズへのオマージュである「Majiwaranai Cats」では、最近のヴォイストレーニングの成果を感じさせる。「虎よ」ではしふぉんが煽り、あのはフロアへとダイヴ。MCでは、けちょんが栃木県出身であることがカミングアウトされた。なお、あのはアフリカ大陸出身ともパプアニューギニア出身とも言っていたが、わりと距離が離れている気がしなくもない。


 「たびのしたく」は、ポップ・グループとアニマル・コレクティヴを混ぜたというスケールの大きなサウンドだ。一時期は8人がステージにいたゆるめるモ!だが、4人でもこのスケールを表現できたことには少なからず驚いた。この日のライブで、4人がそれぞれの力を出しきっていたのは間違いない。


 「なつ おん ぶるー」ではゆるヲタ(ゆるめるモ!ファンの総称)が激しいジャンプをしはじめた。さまざまなメンバー変遷を経てきたゆるめるモ!が、「なつ おん ぶるー」のような陽性の楽曲を歌う姿には、赤坂BLITZでのワンマンライブ(2015年5月2日)でも感動したものだ。この日は、プロデューサーの田家大知がビニールボートを持ちこむと、それにメンバーが乗船してフロアを航行。クラウドサーフしながらそれに群がるヲタたちは、さながら餓鬼道に落ちた餓鬼のようで、まさに天国と地獄が同居するかのような光景であった。最後の「逃げろ!!」は、ゆるめるモ!というグループの思想的な根幹を体現する楽曲であり、それを4人で歌いきる姿に再び感動した。落ちサビを歌ったしふぉんは、そのままフロアにダイヴして、ファンに支えられながら歌い続けていた。


 大トリである8番目に登場したのは妄想キャリブレーション。でんぱ組.incも輩出した秋葉原ディアステージから生まれた6人組だ。「いつだって世界にファイティングポーズ」では、この日もっとも激しいMIXが会場に響いた。ヲタが一斉にジャンプする瞬間も圧巻で、ジャンプは禁止事項だった気がするが、もうここまで来たらどうでもいい。「たとえもう一人の私を見ても…」では、ジャンプがもはや「ドゴッ」という感触で響いていた。さらに「人生はいじわるなの…かな?」では、フロアの前方で豪快なサークルモッシュが展開され、逆回転までしていた。その光景を見た瞬間、同じ会場で6月28日に開催される予定の『ギュウ農フェスvol.3 羽田空港アイドルフライトだっぺ!』の中止すら覚悟したものだ。


 この日も、妄想キャリブレーションのライブを常に見ているサウンド・プロデューサーの利根川貴之の姿があった。彼によって対バンライブに必要な楽曲が隙なく用意されおり、妄想キャリブレーションは大トリにふさわしいステージを見せた。


 最後の挨拶に登場したギュウゾウは「次回ここでできるか怪しい状況」と言っていたが、終演後に話を聞いたところ、本当にギュウゾウとスタッフはたんまり怒られたそうで、憔悴を隠せないスタッフすらいた。


 東京のライブアイドルシーンで動員力のあるグループだけではなく、栃木県のグループも迎えた『ギュウ農フェス vol.2 羽田空港アイドルフライトだっぺ!』は、なんとか中断に追い込まれることなく無事終了した。ライブ自体はほんの4時間程度だったが、非常に疲れたのは見応えのあるグループが多くて休む暇がなかったからだ。


 6月28日に開催される『ギュウ農フェスvol.3 羽田空港アイドルフライトだっぺ!』では、GO-BANG'Sや元ホワイトベリーの前田由紀も出演し、アイドルたちと共演する。また、栃木県産コシヒカリ米一俵を賭けたアイドル腕相撲大会も開催される。東京と栃木を結ぶこのイベントが、一体どこへ向かうのか、ぜひ注目してほしい。


 さらに、2015年7月12日には新宿スタジオアルタで『ギュウ農フェスvol.4&5 ~笑っていいかも! ~増刊号』が開催され、NegiccoやPASSPO☆も登場するなど、もはや引くに引けない状況になっている『ギュウ農フェス』。内心でハラハラしつ見守っていきたい。(宗像明将)