2015年06月22日 15:31 弁護士ドットコム
この数年来、「ニューバランス」製スニーカーが人気を集めるなか、ネットストアやオークションサイトでは、本物か偽物かわからない「格安製品」が売られている。そんな時代を象徴するかのように、今年5月のはじめ、偽「ニューバランス」製スニーカーを売ったとして、詐欺罪と商標法違反に問われた男性の裁判が、東京地裁で開かれた。
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被告人の男性(逮捕当時31歳)は、Yahoo!オークションでニューバランス製と偽り、多数のスニーカーを販売したとされる。今年2月、警視庁板橋署に逮捕された際には、自宅に433足を所持していた。この日、法廷で明らかにされた被害金額は約2900万円とみられる。
起訴事実を争っていない事件なので、第1回公判で、起訴状朗読から論告求刑、最終意見陳述まで一気に進む。1時間30分ほどで結審し、検察側の求刑は、懲役2年6月、罰金150万円。そんな法廷の見所は、同居する義母が情状証人として独白を始め、被告人がむせび泣き始めたシーンだった。(傍聴ライター/高橋ユキ)
裁判所の傍聴では、この日どんな裁判が行われているかを知るにはロビーに陳列されている「開廷表」をチェックする必要がある。傍聴人の数も多く、法廷数が多い東京地裁の開廷表は、地方と比べ物にならないほど分厚く、それだけに時間もかかる。
開廷表をチェックしてめぼしい裁判をメモしたあと、偽スニーカー事件の法廷に入った。そのときには、もう人定質問と冒頭陳述は終わっていた。弁護人の机の前に置かれた長椅子に座る被告人はほっそりとしたアラサー男子で、なんということのない長袖Tシャツもなぜかオシャレに見えた。
傍聴席に座ったとたん、検察側の証拠調べが始まった。検察側の証拠(甲号証)によれば、被告人は代理出品者にオークションサイトでの出品作業や落札者とのやり取りなどを頼んでおり、一定の報酬を渡していた。
以前、中国に語学留学していたという被告人。中国語に明るく、直接向こうの業者と交渉して、コピー品のニューバランススニーカーを仕入れるという、なかなかやり手の人物だったようだ。
被告人と代理出品者のLINEのやりとりの履歴によって、被告人が代理出品者から『偽物だというクレームが入った』と相談を受けると『速やかに返金処理するように』と指示を出すなど、主体的に動いていることが分かったという。
検察側が証拠として提出した「売上額を特定した報告書」によれば、売上総額は2887万1184円。ちなみに、何足売ったかは証拠として出ていない。しかし、一足につき4000~6000円で売っていたということだから、5000足近くを売ったのだろうと推測できる。
この日、「情状証人」として証言台に立ったのは、実父母でも、妻でもなく、なんと義母。その義母によると、被告人とその妻子は、義母の住む家の敷地内に居を構える「敷地内同居」をしていたのだという。「個人の仕事について聞くことはなかった」というが、「今後は遠慮なく監督していく」と勇ましい。
なぜ妻が情状証人として出廷しないのかは、明らかにされなかった。そして最後に、義母は被告人のほうを向き、おもむろに被告人に語り出したのだ。
「あなたは幼いころからお母さんと二人で、食べるものもなく、苦労したのを聞いています。その後、両親と会えないことも知っていました。そして結婚のとき、(実の両親に)連絡をしても返答がなく、今回の件で証人をお願いしようと連絡したけれど・・・」
義母の独白に感極まったのか、被告人はいきなり激しく泣き出した。まさかこんな小さな裁判で涙の展開になるとは・・・。
だが、そんなことは関係なく、裁判は続く。起訴状に書かれていることを認めつつも、検察側の被告人質問では、被告人がいつ自分の売っている物をニセモノだと認識したか、これに集中して質問が繰り広げられた。被告人は関西弁で語る。
被告人「税関通って大丈夫や、正規品やろう、という考え方。税関での検査してます、ってシールが(荷物に)貼ってて、これはニセモノ売ってるのとは違うかなと思ったんです」
検察官「ニューバランスは世界的なブランド、とあなたも言っていましたね、個人が扱えると思ってたんですか?」
被告人「最初は買ってみないと分かんないので。そういうことも実際あるんです。正規品の工場から買えるってことも中国ではあるので、それを信じて買ってました」
随分とまどろっこしい展開になってきた。で、被告人は結局ニセモノと認識していたのか? ここは裁判官がバシッと聞いてくれた。
裁判官「起訴されている被害品や、家に持っているニセモノとされる靴、これらはニセモノと認識してたと思っていいの?」
被告人「クレームがあったり、不良品が多かったりというので、おそらく正規品ではないなと感じてました」
中国での仕入れはニセモノをつかまされることもあり、ホンモノとニセモノが入り交じる世界・・・。そんな弁明をしながらも、「社会復帰後は語学を活かして輸出入の仕事をしたい」とも言っていた。大丈夫だろうか? うっかりニセモノを扱っちゃって「まあいっか~」と、また同じことを繰り返すのではないか。ちょっと心配になった。
後日、懲役2年6月、罰金150万円、執行猶予4年の判決が言い渡された。
ところで、この時期の法廷は、傍聴人にとって過酷な環境だ。冷房の設定がとても高温なのか、5月から9月くらいまで、やたらと暑いのだ。この日も、満席に近い法廷で傍聴していたら汗ばんできた。7月は例年、裁判が多い時期となる。東京地裁での傍聴が、今から憂鬱になっている。
(弁護士ドットコムニュース)