2015年06月22日 12:21 弁護士ドットコム
東京都港区で開業する、ある歯科クリニックには「上司に『銀歯がみっともない』と言われたので、歯をセラミックにしてほしい」という患者がときおり来院するそうだ。患者たちは、外資系企業の社員や、外国人と取引する部署の日系企業社員で、20~40代くらいの男女だという。
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彼らは、上司に「外国、とくに欧米では銀歯があると貧しい人とみなされる。商談やビデオ会議で笑ったとき、銀歯が光るのは好ましくない」「銀歯を隠そうとして、口をひらかずに笑うのは、日本人っぽいので、それもダメ」などと指摘されて、来院してくるそうだ。
外資系メーカーに勤務するO子さん(30代女性)も「直接『直せ』と言われたことはないのですが、社会人になってから1本ずつセラミックに変えていきました」と話す。なぜだろうか?
「欧米のビジネスパーソンは男女ともに、当たり前のように歯の矯正をして、真っ白な歯です。彼らと接する機会が多かったり、住んでいた経験がある人には『銀歯は恥ずかしい』という意識が芽生えるのだと思います。歯の治療も、身だしなみの1つという感覚です」
しかし「郷に入っては郷に従え」とはいえ、セラミックは1本あたり5万円前後はかかる。自分自身で「恥ずかしい」と思って治療するならともかく、上司の命令によって複数の歯を処置するとなれば、懐は相当に痛むだろう。
上司に「みっともないから」といわれたら、社員は「白い歯」にする必要があるのだろうか? 河野祥多弁護士に聞いた。
「会社は、一定の服務規程を策定したうえで、社員をそれに従わせることができます。
ただし、社員の歯の治療方法などの『身だしなみ』を規制することは、社員個人の自由に制限を加えるものです。規制は、業務遂行上の必要性が認められ、社員の自由を過度に侵害しない合理的な内容でなければなりません」
銀歯の治療には「業務遂行上の必要性」が認められるのだろうか。
「欧米では、日本よりも銀歯に対するマイナスイメージが強いため、外国人との取引がある業種・職種の場合には、会社側が、社員に対してセラミック治療を要望することについて、業務遂行上の必要性が認められやすいかもしれません。
しかし、セラミック治療は、日本では1本あたり数万円と高額であるだけでなく、どんな医療をうけるのかを社員が決定する自由を制限することにもなります。会社が社員に対してセラミック治療を矯正することは『合理的な制約』とは言えないでしょう」
では、上司は「白い歯」にするよう強制することはできないのだろうか。
「『合理的な制約』と認められない以上、上司が『セラミック治療をしろ』『みっともない』などとして、事実上セラミック治療を強制することは、パワハラに該当することになります。
会社側としては、冷静にセラミック治療の必要性をきちんと説明をし、場合によっては、補助金の支給等も検討したうえで、社員の自主性に委ねるべきでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
河野 祥多(こうの・しょうた)弁護士
2007年に茅場町にて事務所を設立以来、個人の方の相談を受けると同時に、従業員100人以下の中小企業法務に力を入れている。最近は、ビザに関する相談も多い。土日相談、深夜相談も可能で、敷居の低い法律事務所をめざしている。
事務所名:むくの木法律事務所
事務所URL:http://www.mukunoki.info/