抜群のスタートを決めたニコ・ロズベルグが勝利を収めたオーストリアGP。これでロズベルグは今季3勝目。ルイス・ハミルトンの4勝に肉薄し、ドライバーズランキングも10点差まで縮めてきました。
今回のロズベルグの最大の勝因は、そのスタートだったことは間違いありません。土曜日の予選で、ほぼ自分の手中にあったポールポジションの座を、自らのミスで手放してしまったロズベルグ。決勝に懸ける意気込みは、並々ならぬモノがあったことでしょう。
不利と言われた偶数グリッドからのスタートにもかかわらず、絶好の蹴り出しでハミルトンの前に立ち、そのままレースを逃げ切ってみせました。このシーンが、今回のレースの勝敗を左右した最大のポイントではあるものの、ロズベルグが高い集中力をもって今回のレースに臨んだということが、随所に見て取れました。
ロズベルグとハミルトンのペースはほぼ互角。つまり両者にとって今回のレースは、一瞬たりとも気を抜けない、非常に厳しいものだったということができます。その過酷なレースで、ハミルトンに隙を見せなかったことこそ、実はロズベルグの最大の要因だったと言うことができるかもしれません。それが最もよく見えたのが、ピットインの前後でした。
33周目を走り切ったところで、ロズベルグはタイヤを交換するためにピットに入ります。その時の彼は、ピットロードを非常に速く走り、速度制限区間に入る際にタイヤをロックさせるほど攻めます。そしてコースに戻った次の周、ロズベルグは1分11秒235を記録します。これは、このレースのファステストラップ。つまりロズベルグは、ピットストップのタイミングでハミルトンに逆転させじと、自分ができる限り最大限の仕事をしてトップをキープしたと言うことができます。逆にハミルトンは、ピットアウト時にミスを犯します。ピットレーン出口のホワイトラインをカットしてしまい、5秒のタイムペナルティを課せられてしまうのです。
今季ここまで、無線でライバルの動向を気にするなど、どうも集中力に欠けるようなシーンが目立ったロズベルグ。終盤、フラットスポットを作ってしまったのか、フロントタイヤのバイブレーションを心配する無線はありましたが、今回のレースではそれ以外は常に集中していた印象です。完璧なレースだったと言えるでしょう。こういうドライビングをされてしまえば、いくらハミルトンと言えども、攻め入ることはできませんでした。
強く、速いロズベルグが戻ってきたように感じさせた、今回のオーストリアGP。今年の中盤も、昨年と同じくロズベルグとハミルトンによる、熾烈なチャンピオン争いになっていきそうです。今後のレースが、実に楽しみになって参りました。
さて、メルセデスAMGを追う立場のはずのフェラーリは、今回ミスやトラブルが目立ちました。金曜日にはセバスチャン・ベッテルにギヤボックスのトラブルが発生し、予選ではキミ・ライコネンへのコースインの指示が遅れてなんとQ1敗退。決勝では1周目にライコネンがマクラーレン・ホンダのフェルナンド・アロンソと大クラッシュしてリタイアし、ベッテルはピットインの際にナットのトラブルが生じて表彰台を逃してしまう……散々なレースになってしまいました。
ベッテルもライコネンも、フリー走行から非常に良いペースで走行していました。特にベッテルは、前述のナットのトラブルがなければ、少なくともウイリアムズのフェリペ・マッサの10秒前でフィニッシュし、表彰台は確実だったはずです。そういう意味では、非常に勿体ないトラブル(ミス?)だったと言えると思います。ライコネンは、クラッシュの際のマシンの挙動が気になるところ。彼は、前戦カナダでもピットアウト直後に不可解なスピンを喫しています。今回のクラッシュ前の動きも非常に不思議なモノで、この2件の因果関係が心配されます。
カナダに続き、またもマシンのパフォーマンスを決勝結果に繋げることができなかったフェラーリ。数字の上では、マシンのポテンシャルは確実にメルセデスAMGに近づいてきているだけに、ミスやトラブルの発生を減らすことが急務となるでしょう。
ウイリアムズもこの2戦、確実に上昇傾向を見せています。前戦カナダはバルテリ・ボッタスが、今回はマッサがフェラーリから表彰台を奪ってみせたのですから。マッサは、実質的にはベッテルのピットイン時のタイムロスが大きく影響し、3位を得ることができたのですが、ペース自体はベッテルからほんの少しだけ劣る程度という非常に優秀なモノでした。そのポジションにいることができたからこそ、表彰台のチャンスが転がり込んできた際にしっかりと確保することができたわけです。エンジンパワーがモノを言うサーキットだったとはいえ、シーズン序盤と比較すれば、大きな進歩と言えるでしょう。
ウイリアムズの1台、ボッタスを苦しめたのはフォース・インディアのニコ・ヒュルケンベルグでした。フォース・インディアは今回、それほど高い戦闘力を示していたわけではなく、上位3チームに大きく離されていました。それでも、レース序盤にボッタスを抑え込み、今望み得る最大限以上の6位という結果を持ち帰っています。
ヒュルケンベルグは、ル・マンを制した腕を、いかんなく発揮したと言うことができそうです。チームメイトのセルジオ・ペレスも、9位でフィニッシュ。昨年マシンのアップデート版で今季のレースに臨んでいるフォース・インディアですが、ドライバーふたりの高い能力により、そのハンデを補っている印象です。火曜日から行われる合同テストでBスペックマシンをシェイクダウンさせ、イギリスGPからは実戦投入すると言われています。これにより、トップ3チームに挑むことができるようになるのでしょうか? フォース・インディアは今後、要注目のチームと言えそうです。
ロータスは、マシンのポテンシャルを最大限に発揮できていない印象です。特にパストール・マルドナドは、タイヤ交換を行った後、メルセデスAMGの2台、マッサ、ベッテルに次ぐペースで走行できていたにも関わらず、7位がやっと。スタートで後方に下がってしまったこと、レース中にマックス・フェルスタッペン(トロロッソ)らを抜くのに手間取ってしまったことにより、多くの時間を下位争いに終始してしまったのが、その要因です。本来ならば、ボッタスとヒュルケンベルグの5位争いに加わってほしかったところ。今のロータスには、十分にその力があるように思います。
2015年のF1グランプリは、火曜日からレッドブルリンクで合同テストを行い、7月3~5日に開催されるイギリスGPへと向かいます。合同テストの結果、急上昇を見せるチームがあるのか? そして、ハミルトンとロズベルグの頂上争いも熾烈、さらにここにフェラーリやウイリアムズが加わってくることができるのか? 中盤以降も、目の離せないレースが続きそうです。