「明日は必ず表彰台に登ります」
松下信治はF1オーストリアGPと併催のGP2決勝レース2で、見事に有言実行を果たしてみせた。
雲が多くなり雨が降りだしそうなコンディションの下、松下は5番グリッドから無難なスタートを決めたが、スタート直後の1コーナーでアクシデントが起きた。リオ・ハリアントが好加速でトップに立った横で、ポールポジションから出遅れたニック・イエロリーとアレクサンダー・ロッシがサイド・バイ・サイドになり接触。ハーフスピンを喫したロッシの直後にいた松下は、すばやくアウト側のランオフエリアに逃れて、4番手でコースに戻った。
松下自身は、この接触を予期していたと言う。
「見ていてスピンするだろうなというのはわかっていたんですよ。だからビックリはしなかったし、最初からアウト側のランオフエリアに行くつもりだった」
レース序盤は首位ハリアントをアルテム・マルケロフが果敢に攻め立てる展開。イン側から1コーナーの事故をすり抜けたストフェル・バンドーン、松下と続く。後方にはセルゲイ・シロトキン、ミッチ・エバンスら強豪が秒差で迫っていた。
ストレートが短いためDRSの効果も十分でなく、ほとんどオーバーテイクできない膠着状態が続いたが、14周目のターン3でブレーキングを遅らせたマルケロフが止まり切れずにコースオフして8番手までポジションを落とす。
ハリアントはマルケロフと接触した右フロントウイングの翼端板とアッパーフラップにダメージを負ったが、2番手に浮上してきたバンドーンを巧みに抑え込む。バンドーンは攻略を試みるが「セクター2が遅くて抜けない!」と訴える。松下も後方でチャンスを窺っていたが、背後にはシロトキンがぴたりとつけ、上位4台が抜け出した状態で戦いが続いた。
松下は落ち着いて状況を見据えて走っていたという。
「完全に僕たちのほうがペースが速かったので、抜かれないだろうなと思っていました。たぶん僕とストフェルが単独で走れば、結構速かったと思いますよ。DRSゾーンが短すぎるので抜くのは本当に難しかったし、ずっとくっついて走っているとダウンフォースがないからタイヤが滑って熱がこもってしまう。でも、離れるとDRSが使えなくなってしまうので」
結局そのまま28周を走り切ってチェッカーを受け、ハリアントがバーレーンに続く今季2勝目。松下は3位で自身初の表彰台を手にした。
「何戦か、ここに来られるポテンシャルがあったのに、ようやく今回できたという感じですね。ちょっとホッとしました。それだけのペースがあることは証明できたし、あとはいかに速くコースを習熟するかが課題。今後もコンスタントに表彰台に乗っていきたいです」
ぐっしょりと濡れたレーシングスーツからシャンパンの香りを漂わせながら、さわやかな笑顔。激しいバトルが展開されるGP2の世界で、堂々と渡り合う強さを証明した松下の今後に期待したい。
(米家峰起)