オーストリアGP2日目、レッドブルリンクに八郷隆弘ホンダ新社長が到着した。3日前の6月17日に開かれた株式総会で、正式に8代目の社長に就任。社長として最初の外遊の地として選んだのがF1だった。
「この業界は社長が変わると『ホンダどうなんだ?』と思われるので、この先もF1をやっていくよという意味で来ただけ。他意はない」と説明するのは、研究所で一緒に仕事をした経験もある新井総責任者だ。八郷社長はフォーミュラワン・グループのモーターホームを訪れ、バーニー・エクレストン代表に挨拶。「ホンダのF1活動に変更はない」という姿勢を明確に示した。
しかし、マクラーレン・ホンダは土曜日も苦戦が続いていた。まず、金曜日のフリー走行2回目でイグニッションプラグに問題の兆候が発見されたジェンソン・バトン。マシンを確認したホンダは、ICE、ターボチャージャー、MGU-H、MGU-Kの4つのコンポーネントを新たに投入した。
バトンのターボチャージャーとMGU-Hは6基目、ICEは5基目。あわせて25グリッド降格となる。
フリー走行3回目で、今度はフェルナンド・アロンソのマシンにギヤボックストラブルが発生。チームは予選までに交換作業を終えたが、ギヤボックス交換によって、アロンソもバトンと同様、合計25グリッド降格のペナルティを受けることになった。
それでも新井総責任者は「今回の交換には戦略的なものも含まれている」と説明する。「(現状を考えれば)どこかで4基を超えて、トークンを使用したパワーユニットを投入しなければならなくなる。その場合どこでペナルティを受けておくのがいいのかをマクラーレン側と協議した上で、今回の変更に至った」
この言葉の裏には、アロンソもバトンも今回交換された4つのコンポーネントをすべて変えなくても、オーストリアGPは戦えたはず──という意味が隠されている。ホンダは、しっかりと先を見ている。トークンを使用した改良型パワーユニットを、どのグランプリに投入するかという直近の問題だけでなく、来年のパワーユニットをどのように開発していくかというテーマでもある。
2台そろって25番手降格というペナルティは、数字だけを見れば、悲惨な結果に思える。しかし、そこにホンダがF1で戦い続ける決意を感じとることもできる。
「いつも頑張ってもらっているけど、ありがとう」──八郷社長は、そう言って現場のスタッフたちを激励した。
(尾張正博)