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「週60時間以上」働く人を5%以下にーー厚労省「過労死防止法」大綱の意義は?

2015年06月20日 12:51  弁護士ドットコム

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厚生労働省は、過労死や過労自殺を防止する対策を国の責務とした「過労死防止法」(過労死等防止対策推進法)の基本方針となる大綱の案を発表し、6月11日からパブリックコメントを受け付けている。この案には、2020年までに週60時間以上働く人の割合を5%以下にすることや、有給休暇取得率を70%以上にすることなどの数値目標が盛り込まれている。


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大綱の案は、過労死遺族や労働組合、経営者、学識者などで構成される過労死等防止対策推進協議会が昨年12月から検討を進めてきた。今後、パブリックコメントの結果を踏まえたうえで、閣議決定される予定だ。過労死をめぐっては、人権問題などを扱っている国連の社会権規約委員会が、日本政府に対策を講じるよう勧告するなど、その対策が世界的にも注目されている。



今回の大綱は、過労死を防止するうえで、どんな意味があるのだろうか。長年、過労死問題に取り組むとともに、過労死防止法の制定に尽力し、過労死等防止対策推進協議会の委員も務める岩城穣弁護士に聞いた。



●「国民自身が自らの職場・意識を変えていくことが重要」


「大綱は、過労死防止法に基づき、過労死防止対策を総合的に推進するために、政府が作成する政策文書です。



今後数年間、国はこれに基づいて防止対策を推進し、毎年その結果を『過労死白書』のような形で国会に報告することになります」



岩城弁護士はこのように述べる。政府の打ち出した数値目標は、現実的なのだろうか?



「政府が具体的な数値とその期限を掲げる以上、国はその達成のために具体的な取り組みを行うとともに、毎年その進捗状況を確認していくことになります。『絵に描いた餅』にならないよう、国民もしっかり監視していく必要があります」



過労死をめぐる現状は変わるのか。



「過労死の現状が変わる可能性は十分にあると思います」



なぜ、そう思うのだろう。



「(1)まず、国がこのような過労死に関する詳細な政策文書を作成し、普及させること自体が画期的であり、影響は大きい。



(2)また、現行法令や通達の遵守・徹底なども『啓発』の一環として進めていくことになっていますので、監督指導が強化されることになります。



(3)さらに、過労死防止対策は、省庁の壁を超え、官民が協力・連携しあって、いわば国民的な運動として進めていくことになっています。



そうした運動の中で、労使を含めた国民全体の意識も変わっていくと期待されています」



岩城弁護士はこのように期待を込めた上で、次のように語っていた。



「過労死防止法は理念法です。一日の労働時間の上限など、具体的な労働条件を直接規制するものではありません。この大綱も、そうした意味で限界があります。



それでも、今回の大綱には、大きな効果が期待されていると言えるでしょう。何よりも、労働者・国民自身がこの法律や大綱を学び、自らの職場・意識を変えていくことが重要です」



厚労省は、電子政府サイトで、過労死防止法の大綱について、7月10日までパブリックコメントを募集している。意見がある人は、コメントを書き込んでみてもいいかもしれない。



http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495150049&Mode=0


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
岩城 穣(いわき・ゆたか)弁護士
1988年弁護士登録、大阪弁護士会所属。過労死問題をはじめ、労働・市民事件など幅広く活躍
する「護民派弁護士」。
事務所名:いわき総合法律事務所
事務所URL:http://www.iwakilaw.com