前戦カナダGPでトークンを使用したパワーユニットを投入しながら、2台そろってリタイアという屈辱を味わったホンダ。厳しい戦いは、2週間後のオーストリアGPでも続いている。
午前10時にスタートしたフリー走行1回目。開始から5分が経過したところでコースインしたフェルナンド・アロンソは、マシンに異常を感じてスタート/フィニッシュラインを通過することなく、ピットロードへ。原因は電源系のハーネスコネクターが接触不良を起こしていたためだった。
その不具合自体は深刻なものではなく、アロンソは11分後に再びコースイン。だが、今度はギヤボックスのソフトウェアに問題が発生して、早めに走行を終了しなければならず、わずか10周で1回目のセッションを終えた。
一方、ジェンソン・バトンは午前中30周を走行することができたが、ほとんど走れなかったアロンソのベストタイムとの差は、わずかコンマ3秒。「パワーユニット側のいろいろあるモードのひとつの設定が、きちんとしていなかったところがあった」(新井総責任者)ため、ベストな状態ではなかったのだ。セッション中に設定を修正して走行時間を失うよりも、ドライバーに我慢してもらって、走行を続けてもらったという状況だった。
午後のフリー走行2回目では、今度はバトンのほうにトラブルが発生する。「イグニッションプラグ問題の兆候が見えたため、ガレージにマシンを戻した」(新井総責任者)。さらに問題が出ていなかったアロンソのマシンも万全を期すため早めにピットに戻して、現在も調査中だという。すでにアロンソのパワーユニットは今回5基目のICE、ターボチャージャー、MGU-Hを投入しており、合わせて「20番手降格」のペナルティとなる。もしバトンのパワーユニットに6基目のコンポーネントを使用する事態になると、ふたりそろって重いペナルティを受けることになる。
信頼性だけでなく、レッドブルリンク特有のレイアウトもホンダの頭を悩ませている。
「ラップタイムが1分10秒前後で、あっという間に周回してしまう。2本のストレートがあって、そのストレートエンドはハードブレーキングだが、ブレーキング時間は決して長くないので、エネルギーの回生が難しい。にもかかわらず、上り坂があるのでパワーが欲しい。エネルギーのマネージメントが難しいコースなので走り込みしたかったが、やり切る前に走行を終えざるを得なかった」(新井総責任者)
満足な状態で十分に走り込めなかった2台のマシンは、車体のセットアップだけでなく、エネルギーマネージメントのセッティングも完了することなく、初日を終えることになってしまった。もちろん金曜日の夜にマクラーレンとホンダのエンジニアは少ない走行データを解析して、土曜日に向けて、できる限りの改善を行ってくるだろう。しかし、それはライバルたちも同じ。「初日フリー走行の順位は正直なポジション」だと、新井総責任者は厳しい戦いを覚悟している。
しかし、金曜日の午後からショートノーズの新空力パッケージをまとって走り始めたアロンソのマシンは、まったくセッティングできていない状態でレッドブルのダニエル・リカルドより速く、ロングランをチェックしていたウイリアムズ勢とコンマ5~8秒差。予選までに、どこまでタイムを伸ばせるか。厳しい状況下にも、期待を感じるオーストリアGP初日となった。
(尾張正博)