埼玉・所沢市で「育休退園ルール」が言い渡され、保護者に不安が広がっていることを6月15日のテレビ朝日が報じました。2人目以降を産んで育児休業を取得している間、上の子が0~2歳児の場合には原則退園しなくてはならないというものです。
これに対し、ネット上では「少子化推進策だ」として批判の声があがっています。
「うちの市でそれやられたら、私は第2子諦めたなぁ。少子化を助長しちゃうね!」
「0~2歳と、更に新生児なんてキツイ! その状況で『よーし、産んじゃうぞー』ってなる? 待機児童対策を市民に押しつけないで欲しい」
市長も火に油「子どもは保育園に入りたいと思っていない」
さらに悪いことに、先月24日には藤本正人市長が保護者らを前に、火に油を注ぐような説明をして、働く母親たちを一気に敵に回しました。
「子どもは保育園に入りたいと思っているでしょうか? きっとそうじゃない。子どもはお母さんと一緒にいたい。特に小さいころはきっとそうだろう」
ツイッター上では、「昔の子育ての押し付け」「これじゃ、働くママは産めないね」という怒りの声があがっています。すでに妊娠し、育休退園の可能性がある母親たちも「妊娠した時期を間違えちゃったな」と戸惑いを見せました。
所沢市は去年9月に在園児に通知したとしていますが、保育園や保護者側に説明会があったのは今年3月。対象年齢の拡大も検討中とのことでした。
市によると「育休退園」の可能性がある子どもは約90人。その空いた枠に、待機児童を入れるというわけです。保護者たちは反対の要望書を提出し、300人規模の集会などを開いて抗議していますが撤回はされていません。
ただし中には「仕方ない」と諦める人もおり、「育休とって暇なら預けなくてもいいのでは?」という声も。「0~2歳の園児の保育はものすごくカネがかかる」「3~5歳児は保育を継続するんだし」と行政の判断に理解を示す声もあります。
復職する際の「再入園」も確実に保証されていない
その一方で「母親はむしろ生まれたばかりの子供を抱えて忙しいんだよ。ヒマじゃないんだよ」と強い反発も。「育児休暇をいまだに『暇』と解釈する人がいる事にビックリだよ」など抗議は止まるところを知りません。
ふたり同時の育児も大変ですが、保護者たちが一番心配しているのは、仕事に復帰する際の「再入園」が認められるかどうか。市は他の入園希望者よりも優先順位を上げると言っているようですが、確実に約束されているわけではありません。
市は、再入園を担保するため兄弟とも大幅に優遇するとのことで、それでも再入園できない子ども用に「特別預かり事業」も打ち出しました。しかし、その枠はたった4人分です。
所沢市内の認可保育所を運営する牧裕子園長も「完全に入れるなんてお約束できるんだろうか」と不安を漏らしました。運よく預けられても、以前と同じ園に入れない、兄弟で違う園になるという恐れもあります。
市民の「2人目を産む選択」に悪影響を及ぼすおそれ
所沢市が定義する「待機児童」は約20人。しかし実際には、認可保育所などに入れない子どもの数は約100人に及び、大きな開きがあります。少ないパイの奪い合いに打ち勝ち、やっと2人目を考え始めた矢先にこの制度を知らされた人は、子どもを産むのを躊躇しかねません。
実際に2人目を産む選択をすれば、復職を諦めなくてはならない人もいるでしょう。「働きながら安心して子育て」はできない状況になります。それでも子どもを預けて働きたいと待っている人は大勢いるのです。
もしかすると市長も心からそう思っているわけではなく、待機児童の「数を減らす」対策がそれだけ迫られていて、説得が求められている現れなのかもしれませんが…。しかしお役所仕事的な説明不足と、精神論を持ち込んだ市長の発言が火種となって、逆に「所沢バッシング」状態になったようです。(文:篠原みつき)
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