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公道レース実現へ。古屋圭司議員に訊く“モータースポーツ推進法案”

2015年06月19日 12:20  AUTOSPORT web

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自民党のモータースポーツ振興議員連盟会長を務める、古屋圭司衆議院議員
間もなく国会に提出され、今開催中の成立が目指されている「自動車モータースポーツの振興に関する法律」。成立すれば、日本国内での公道レース開催に大きく近づくと言われていて、大きな注目を集めている。この法律案を取りまとめているのが、自民党の「モータースポーツ振興議員連盟」。その会長を務める古屋圭司衆議院議員に、「自動車モータースポーツの振興に関する法律」について話を聞いた。

 古屋議員は学生時代、学内のレースチームでレースやラリーに出走するなど、元来モータースポーツに親しんでいたという。

「富士フレッシュマンレースにも何戦か出ましたけど、レースでは僕はあんまり根性なかったな。団子状態で(コーナーに)入ると、(スピードを)緩めちゃうんだよね。ラリーの方が自分のペースで走れるから合っていたと思う。ラリーは6~7年ほどやりましたよ。国内の公認レースで入賞したこともあるし、全日本ラリーにも補欠で出たことがある。まぁ、ビリから数えて何台目かだったけどね……」

「国会議員っていうのは、クルマの後ろに乗っていることが多い。私が大臣の時、何が辛かったかというと、自分でハンドルを握れなかったこと。だからその時は、サーキットに定期的に走りに行っていました」

 そう語る古屋議員が中心となり、成立が目指されている「モータースポーツの振興に関する法律」の目玉は、なんといっても日本国内での公道レース開催が明記されていることだ。

「この法律は、モータースポーツ産業・文化の振興、観光資源の開発、技術の革新、青少年の健全育成とか、地域創世などが目的なんです。その目玉が、公道レースができるということなんですよ。それを、法案でもしっかりと謳いました」

 これまで、日本国内でも公道レースを実施しようという動きがいくつかあった。最近では沖縄でのスーパーGT、以前には小樽でチャンプカー(現在のインディカー)のレースを行おうという話もあった。また、東京・お台場でのF1開催という話も噂されたことがある。しかし、いずれも実現には至っていない。その最大の原因は、警察からの許可が下りなかったからだ。古屋議員は言う。

「今まで、公道レースを実現する際にもっとも高いハードルだったのは、警察の許可だったんです。『レースは危険』だということで。しかし、JAFにしてもFIAにしても、安全性の基準はものすごく高い。車両も、コースも、そして装備も、徹底してますよね。私が国家公安委員長をやった時に、警察の交通局のみなさんとじっくり話し合って、世界の流れとか、安全対策とかを理解してもらいました。それで、『モータースポーツは安全なんだ』という意識を持ってもらったんです。そこはもう納得してもらいました。法律に記された手順を踏んでいけば、警察は許可を出します。私のようにクルマを知っていて、モータースポーツをやったこともあって、しょっちゅう自分でもクルマを運転している人間が、たまたま公安委員長に就けたからできた仕事だと思います」

 公道レース開催にあたっては、各イベントごとに組織される“協議会”が中心的な役割を担うことになるという。

「協議会を作って、様々議論をしていくことになります。ここには、もちろんレースの関係者も入ってくるし、警察も入ってくる。その中で、安全対策についての話し合いなども行います。また、道路管理者である国土交通省だとか、県の関係者も加わることになります」

 法案には、さらに住民の代表者も加わると記載されている。市街地でのレースとなれば、当然地域住民に対しての騒音の問題なども解決しなければならない。その点も、この協議会が解決向けて動くことになるはずだ。

 ところで、日本で公道レースを開催するメリットについて、古屋議員はどう考えているのだろうか?

「スポーツでも音楽でも、生で見た方が圧倒的に良いんです。でも、テレビと生とで迫力の差を一番感じるのは、実はモータースポーツなんじゃないかと思います。それを、サーキットでしか見れないというのはもったいないですよね。例えばスーパーGTには、何万人もの観客が集まります。でも、それを公道でやったら、何十万人もの人が観戦に来るでしょう。そうすれば、メーカーももっと力が入るし、結果として技術がどんどん革新されていくと思います」

 それだけの観客が集まれば、当然開催地は大きな利益を享受することができる。

「予選・決勝が別の日に行われれば、遠くから来る人は必ず泊まってくれます。そうなれば、例えば入場料がタダだったとしても、観光支援については、すごく役立つはずですよね」

 レースを身近に感じることで、モータースポーツの文化が社会に根付くこと、これも公道レースを開催することのメリットだという。

「たとえばイギリスでは、モータースポーツの文化が社会に根付いてます。だから、暴走族などはまずいない。クルマの挙動の恐ろしさをよく知ってますから、あえて“街中で暴走する”ということにならないんですよね。それが、青少年の健全育成ということに繋がる。そうすると地方公共団体の中には、『ちょっとレースに力を入れてみようか』という所が出てくるかもしれない。走る場とか、そういう所を提供することで、若者が技術を積んでいくこともできる」

 世界に繋がる才能を育むことにも繋がると、古屋議員は語る。

「小さい頃から英才教育を受けないと、なかなか世界のトップは狙えない。3~4歳くらいからカートに乗って、皮膚感覚でクルマの挙動を覚えないといけない。そういうこともやっていこうと考えています」

 この法案の成立については、様々なところから要望・問い合わせが寄せられているそうだ。

「色々なところから、『法律はいつできるんでしょうか?』ということを聞かれましたね。特に、(公道レースの開催に)関心がある首長さんからの問い合わせがいくつか来ています。例えば産業振興の視点から、沖縄の皆さんは非常に関心を持っておられて、私のところに相談に来られます」

 沖縄と言えば、前述した通りスーパーGTの公道レースを、豊見城市内で2014年から行う計画があった場所だ。しかしその計画は延期され、現在に至っている。

「それは私が、『我々がこの法案を作るから、それまで待った方がいいですよ』と言ったんです。2kmくらいのコースでは、大したレースはできません。そうすると観客も来ないし、赤字のまま終わってしまう可能性もあります。それでは長続きしません」

 もちろん、レースの主催団体からの話もあった。

「GTアソシエイションは一番熱心でしたね。ぜひ(公道レースを)やらせて欲しいと仰っていました。もちろん、フォーミュラEの話も来ています。以前FIA会長のジャン・トッドさんがいらした時に私も会いまして、色々とお話を伺いました。その時、『フォーミュラEを日本でやりませんか?』という提言をなさっていましたね」

 来週中には自民党内の了承を取り付け、国会に提出。今国会中の成立を目指すという。

「この国会中に成立させる予定ですよ。今国会は多分延長することになると思いますが、来週には党内の手続きを取って、国会に付託する予定です。歴史的な法案ですよ」

 最後に、古屋議員は次のように締めくくってくれた。

「今度8月に、モータースポーツ振興議員連盟として、富士スピードウェイで行われる軽自動車のレースにエントリーしようと思っています。タイムよりも、完走することを目指してね。レースをする雰囲気を味わってもらって、(公道レースの実現だけではなく)地方の小さいサーキットの活性化とか、底辺の部分もしっかりやっていきましょうということです。そして、スピードを出すのはサーキットで、街中では安全運転をしてくださいと訴えていきたい」

 日本での公道レースを実現し、そしてモータースポーツ文化を根付かせるための「自動車モータースポーツの振興に関する法律」。この法律が成立することで、モータースポーツを取り巻く環境が大きく変わることが想像される。そして、日本で最初の公道レースはどのカテゴリーで、そしていつ、どこで開催されるのか? 法案成立後早々に様々な候補が挙ってくることだろう。