トップへ

木村カエラが行き来するロックとポップの両極 ライブハウスツアーで見せた最新モードとは?

2015年06月19日 08:21  リアルサウンド

リアルサウンド

木村カエラ

 木村カエラが6月13日にZepp TOKYOで開催した、5年ぶりとなる全国ライブハウスツアー『MITAI KIKITAI UTAITAI』のセミファイナル公演は、彼女のライブアクトの実力を存分に堪能することができる熱気に満ちたものだった。同ツアーは、昨年6月からスタートした10周年企画の第5弾として行われ、昨年12月にプライベートレーベルELAからリリースした通算8枚目のアルバム『MIETA』を携えて、今年の3月から全国17箇所21公演をまわってきた。


 満員の観客の前に、10年間ともに歩んできたバンドメンバーに続いて、ステージ上をゆっくりと舞いながら登場した木村カエラは一転、ハードなギターリフから始まる英語詞のロックチューン「c'mon」を披露。トレードマークのボブヘアをグリーンに染め、カラフルな水玉で彩られた白のワンピースという姿はまさにポップアイコンそのものだが、パフォーマンスはとてもパワフルだ。「RUN」「BEAT」とハイテンションなナンバーを続け、早くもZepp TOKYOを熱気に包んでいく。昨年10月に横浜アリーナで行われた『GO! GO! KAELAND 2014』は華やかなステージ演出も話題となったが、今回のステージはシンプルそのもの。歌声と生バンドのパフォーマンスから圧倒的な気迫が伝わってくるステージだ。


「今日は『MIETA』の世界に私がご招待します。最後まで楽しんでいってね!」とのMCの後は、グルーヴィーなリズムが心地良い「Satisfaction」で、観客たちを踊らせる。さらに「Circle」「eye」と洒脱なナンバーを続け、アコギサウンドで伸びやかなボーカルを聴かせるポップバラード「Wake up」へと繋げていく。前半のロック色の強いステージから、“ポップな木村カエラ”を楽しめるパフォーマンスとなった。


 その後、『MIETA』には収録していないが、木村カエラが「どうしてもセットリストに入れたかった」という楽曲「STARs」を披露。ステージ上部に設置された星型のオブジェが光り、カラフルに彩られたステージングに。さらに「OLE! OH!」や「リルラ リルハ」といったハッピーなテンションの楽曲を続けて演奏。観客たちは手拍子を叩き、踊り、飛び跳ね、会場が大きな一体感に包まれていく。木村カエラは今回のツアーを行うに当たり「距離の近さを大事にしたい」という旨の発言をしていたが、ライブハウスならではの熱狂が、たしかにそこには存在した。ハッピーな4つ打ちのダンスチューン「sonic manic」のサビでは大合唱が巻き起こり、圧倒的な祝祭感さえ感じられた。


 このオーディエンスの反応には木村カエラ自身も満足感を覚えたらしく、その後のMCでは「最高だね、みんな。ガチアガリしたわ!」と語り、『ストリートファイターII』のキャラクターであるダルシムのモノマネを披露するなど、観客を笑わせる一幕もあった。


 ライブ後半では、改めてその楽曲のクオリティの高さを実感させるセットリストに突入。木村カエラの楽曲は、メロディラインのキャッチーさ、カラフルでポップなサウンド、伸びやかでポジティブな響きを持ったボーカルなどに耳を奪われがちであるが、アレンジや構成もまた凝っている。後半で披露された「one more」や「Yellow」「TREE CLIMBERS」などは、そうした木村カエラのエッジーな側面が垣間見える楽曲で、彼女がこの10年間、ポップアイコンとしてだけではなく、熱心な音楽リスナーにも支持されてきた理由が伺える作品たちだろう。本編最後には『MIETA』より、疾走感溢れるロックアンセム「TODAY IS A NEW DAY」を高らかに歌い上げ、ステージを去った。


 アンコールで再びステージに戻った木村カエラは、9月2日にニューシングルをリリースすることを発表。「タイトルはまだ決まっていません。歌詞を書いております」と語り、さらに9月9日に渋谷公会堂にて購入者特典のフリーライブを開催することも告げると、ファンから大きな歓声があがった。そして、ライブの定番曲「You bet!」「Magic Music」で再び会場を熱気に包む。バンドメンバーとともに挨拶をした後は、木村カエラがひとりでステージに残り、アルバム表題曲である「MIETA」を披露。「たとえばこの音で一年が過ぎる」というナレーションから幕を開ける同曲は、□□□の三浦康嗣との共作で、大胆なサンプリングを多用した実験的な楽曲だ。まるで歌劇を観ているようなステージングは、ポップアイコン・木村カエラの次なるフィールドを期待させるものだった。


 木村カエラは、同アルバムをリリースした際のリアルサウンドのインタビューで「ロックとポップの境目が見えたこともあって、それをもっと突き詰めていきたい、私にしかできないことがあった、ということで、この先の自分が楽しみになりましたね」と語っていた。ライブハウスの熱狂の中でロックとポップの両極を同時に見せ、オーディエンスとの化学反応の果てに演劇的な世界観までも展開した今回のライブ。モッシュを巻き起こすパワフルさがありながら、ポップでどこか不思議なステージングは、たしかに木村カエラにしかできない表現だったのではないだろうか。


 なお、同ツアーはこの後、6月23日に下北沢Shelterでファイナルを迎える予定だ。(文=松田広宣/撮影=ミヨシツカサ)