大企業や官公庁を中心に、朝早く出勤して仕事を始める「朝型勤務」が普及し始めている。始業を早めることで遅い時間の残業を減らし、ワークライフバランスの向上につなげるというものだ。
しかし働く人たちからは、「早出をしたからといって定時に帰れるとは限らない」など長時間労働につながるという反発の声もある。そんな懸念が実現してしまったかのような、ある過労死裁判の判決がネットで話題となっている。
認められたのは夜間残業のみ「それほど長時間労働とはいえない」
6月16日付産経新聞の「報われぬ『朝型勤務』に警鐘」という記事には、定時前出勤を繰り返した末に心を病んで過労自殺した男性の話が紹介されていた。
男性は金融機関に勤務していた2005年、38歳で自殺。四国の支店から九州に転勤した後のことだった。四国時代は朝6~7時台に出社し、難しい融資案件や本店の指示に対応していた。
だが男性の上司は転勤後も残業の抑制を指示しただけで、仕事量を減らすことはなかった。男性は早出の分を残業として申告していなかったが、死後、遺族が早出分を算出。時間外労働が最長で月109時間あったとして労災認定された。遺族も会社を提訴し、2013年に1審の大阪地裁は会社に9000万円の賠償を命じている。
しかし、これが2審で覆される。大阪高裁は、早出分を除くと夜間の残業は最長月72時間にとどまり「それほど長時間労働とはいえない」と判断。早出は「恒常的」なもので業務の過重が理由ではなく、あくまで個人の生活スタイルだとみなされた。
この逆転敗訴に遺族は当然憤り、最高裁に上告しているという。この内容に対し、ネットには遺族に同情し、判決を批判する声が相次いだ。
「早出は仕事じゃないんですね」
「朝も早出して『夜も』残業しているじゃねぇか…」
「司法はブラック企業の味方なのか?」
「恒常的な深夜残業」も生活スタイルというのか
ネット上には「残業って呼ぶからこうなる。時間外労働で統一すべき」という声がある。残業というと「職場に残る」というイメージがあり、早出の負担が軽視されがちだというのだ。
また、判決で残業が「個人の生活スタイル」とされた点についても、「無償の早出出勤なんて自ら望んでするわけないだろ」と呆れる声も。もしも恒常的な早出が生活スタイル扱いになるなら、恒常的な深夜残業だって生活スタイルになりかねない。
はてなブックマークでは、実際に過去に早出をしていた人が「おれもこれやってたなあ。結局適応障害になってヤメた。健全じゃねーわな」と明かしている。定時に帰れたとしても他の人より1~2時間多く働くわけだから、疲れるのは間違いない。
今回の判決を受けて、「早朝勤務を推奨するやり方はある意味とても卑劣」と主張する人も。上司や同僚からすれば「自分たちが忙しい時に先に帰る人間が存在すること」が気に障るのであって、「早帰り」は許されるものではない。
長時間労働を是正しようと思ったら早出を推奨するのではなく、労働時間全体を規制する必要があるはずだ。ネットでは「最高裁ではまともな判決がでることを望む」と期待する声が多い。
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