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UNCHAINが楽曲リメイクで追求した、本場のグルーヴ『人を踊らすためには「音を抜いてナンボ」』

2015年06月18日 12:21  リアルサウンド

リアルサウンド

UNCHAIN【左から】谷浩彰(Ba./Cho.)、吉田昇吾(Drums)、谷川正憲(Vo./Gt.)、佐藤将文(Gt./Cho.)

 カバー・アルバムの連続ヒットで、新たなファン層を開拓しつつあるUNCHAINから届いた、デビュー10周年記念アルバム。『10fold』は、ロサンゼルス録音、代表曲の再アレンジ、新曲も2曲収録、グラミー賞受賞プロデューサーを迎えた最新型ダンス・グルーヴの追求……と、野心的な試みをたっぷりと詰め込んだ初の“リメイク”ベストだ。日本はもちろん世界中の人を踊らせたいという強力なモチベーションが生んだ、“ほぼ洋楽”な意欲作について、メンバー全員がアツく語ってくれた。


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■“今のUNCHAIN”でレコーディングしたら、絶対にいいグルーヴが出せるという確信


--近年はカバーでもすっかりおなじみのUNCHAINですが。あれ、いいシリーズですね。評判もすごく良くて。


谷川正憲(以下、谷川):ありがとうございます。最初は配信だけで、その次のオリジナルアルバムまでのつなぎのつもりだったんですけど。カバーのほうが話題になっちゃって、あれよあれよという間にもうアルバム3枚(笑)。3年連続3枚出して、カバーバンドになっちゃったねとか言われて。


谷浩彰(以下、谷):でも、そのぶん、オリジナルアルバムも出してるんですよ。


谷川:そう。3年連続、オリジナルとカバーアルバムを出しているので。今回のやつを合わせたら、3年で7枚。たぶん、そんなに頑張ってるバンドはいないんじゃないか?と書いておいてください(笑)。


佐藤将文(以下、佐藤):「頑張ってるバンド」とは書いてほしくないけど(笑)。


谷:つい最近まで、カバーだけのツアーをやってたんですけど……。


--どうですか、お客さんの雰囲気は。


谷:それが全然違うんですよ。普段ライブハウスに来ない感じの人が大半を占めていて。


谷川:カバーをやってるUNCHAINしか知らない人も、たぶんいるんでしょうね。


吉田昇吾(以下、吉田):カバーを3枚出して、ツアーをできるぐらいの曲数があって。そんなバンド、なかなかいないと思うので、うちらの強みになったと思うし、勉強することも多かったし。1年でカバーとオリジナルを出し続けるのは、正直キツかったんですけど、やって良かったなと思います。これでまた、オリジナルがガッと売れてくれれば。


--新作の『10fold』は、初のリメイク・ベスト。これは、そもそも、デビュー10周年の作品を出そうというところから始まってるんですか。


谷川:そうです。10周年だからベストを出したいけど、普通のベストじゃなくて……UNCHAINは10年間でいろんなことをやってきたし、それを今のUNCHAINでレコーディングしたら、絶対にいいグルーヴが出せるという確信があったので。それと同時期ぐらいに「Sadaharu Yagiさんという人がいるんだけど」という話を持って来ていただいて、Yagiさんがロスに住んでるので、じゃあロスでやりましょうと。だったら日本だけじゃなくて、どこの国でも通用するようなものをちゃんとやりたいという、最初からそういうコンセプトがあって、リメイクもそういう方向のアレンジに持っていきました。歌詞も全部英語にしましたし。


--すべてのピースが、いいタイミングで揃ったと。


谷川:そうですね。プロデューサーのYagiさんは去年グラミー賞を取って、次のプロジェクトとして「日本人のバンドをやりたい」と言っていて。いくつか日本のバンドを聴いていたみたいなんですけど、その中になぜかUNCHAINも入っていて(笑)。


谷:つなげてくれた人も、たまたまYagiさんに会って、たまたまUNCHAINを出したら、気に入ってくれたという。本当にそんな感じなんですよ。


谷川:最初にお話しした時に、「UNCHAINはこうしたらいいんじゃないか」という方向性について話してくれたんですけど。それが、メンバーの次に行きたい方向性に一致してたんですよ。「僕たちもそういうことがやりたいです」ということになって、晴れてロスに行くことになりました。


■「踊れるか踊れないか」ということを、今まで以上に追求した


--1曲目の新曲「Kiss Kiss Kiss」を聴いた瞬間から、え、これUNCHAIN?というぐらい、すごいインパクトありましたよ。完全洋楽志向のダンス・グルーヴになっていて。


谷川:考え方というか、今までのバンド感が変わったかなという感じがしてます。UNCHAINには、ツインギターのロックバンドというイメージがあったと思うんですけど、それとは違うものになっているんじゃないかな?と思っていて。


--というと?


谷川:ツインギターというと、ギターロックというイメージが浮かびますよね、普通は。でも今回は、「踊れるか踊れないか」ということを、今まで以上にすごく追求したんですね。その結果、「ギターって、そんなに入るもんじゃねぇな」と。


--ああ。なるほど。


谷川:人を踊らすためには、「音を抜いてナンボ」というところがあって、たまにギターが出てくることによって立体感を出すという、そういうグルーヴを出すことが、今回挑戦した部分の一つです。ディスコ・ソウル、ファンクとか、ダンス・グルーヴものを聴くと、「そもそもギター、あんまり入ってなくね?」って思うじゃないですか。やっぱりそれが正しいんですよ、踊らすということだけで言うと。それで今回は、リメイクも新曲も、音数の少なさにすごくこだわって、ベースとドラムでグルーヴをしっかり出してます。


佐藤:バンドの方向性として、前作の『N.E.W.S.』とか、カバーアルバムの数曲もそうですけど、音数を減らす方向には向いていて。でも作っている途中で「ここはやっぱり、ギターほしくね?」とか言って、細かく入れていったものもあったんですけど。今回は思い切って「入れない!」という。


谷川:大好きなジャミロクワイとか、最近で言うとダフト・パンクの「ゲット・ラッキー」とか、ファレルの「ハッピー」とかも、めちゃくちゃ音数が少ないんですよ。こんなんでいいの?というぐらい、スカスカなんですよ。それで完全に成り立たせてる。そこに今回は挑戦したという部分があります。音数が少ないメリットとして、一個一個の音が太く出せるという利点もありますし。ギターも、ずーっと入ってるよりも、たまに出てくるほうが目立つんですよ。


--確かに。


谷川:それで立体感が出るし、踊れるし。その感覚をつかんでくると、どんどん楽しくなってくる。そういうグルーヴの出し方をしてます。


--新曲「Kiss Kiss Kiss」の気持ち良さは、そこが肝だと思います。さっき「ゲット・ラッキー」の話が出ましたけど、この曲のベースライン、CHICの「おしゃれフリーク」っぽいし。


谷:もろですね(笑)。「Kiss Kiss Kiss」のベースはほぼループで、ただノリやすさを追求してます。


谷川:途中でフレーズを変えちゃうと、ノリが崩れちゃう。自分たちがそうなので、お客さんもたぶん一緒で、ずーっと同じことをやってても、それが気持ちよければ聴けちゃう。実際、ロスでも一回ライブをやってきたんですよ。レコーディング終わったあとに。そこで早速新曲「Kiss Kiss Kiss」をやったら、その曲でお客さんが一番踊ってくれた。


--おお~。そうなんだ。


谷川:それはバンドの自信にもなったし。ロスに行った意味がすごくあったんじゃないかと思います。レコーディング・スタジオと同じ、ハウス・オブ・ブルースという名前のバーでやったんですけど、PAさんが最初「ふーん、日本人か」みたいな感じで、たぶんナメてかかってたと思うんですよ(笑)。それが音を出した瞬間に態度が180度変わって、「GREAT! GREAT!」ってハイタッチを求めてきたりして。


吉田:モヒカンで刺青入りまくりで、俺らみたいなバンドは全然好きじゃなさそうな感じなんですけど(笑)。それが僕らで一番踊ってくれました。


谷川:そういう、いろいろ楽しい経験をしてきました。


--もう一つの新曲、「Come Back To Me」については?


谷川:これも「Kiss Kiss Kiss」と同じで、ほぼ同じことしかやってないですけど。たぶん一小節に音が二発か三発しかない(笑)。


谷:ベースに関しては、その時のテンションでフレーズを録ったんですけど、今ライブの練習をしてると、またノリが変わって来て。ちょっと違うフレージングになったり、そういうのが面白いなと思って。


谷川:遊びができるんですよ。音数が少ないぶん、足すことがすぐにできちゃう。


谷:今までと真逆ですね。今まではレコーディングで音を入れすぎて、ライブで抜くみたいな作業だったんですけど。


佐藤:どの曲もそうですけど、レコーディングは意外とざっくりしてるんですよ。今までやってきた緻密なグルーヴじゃなくて、もっと大きなグルーヴを意識して演奏したので、気持ち良くレコーディングできました。


谷川:Yagiさん、本当にざっくりしてて。テンションが上がると、コントロール・ルームでめちゃ踊ってて、あんまり細かいところを聴いてないというか(笑)。聴いてるんだけど、OKかOKじゃないかの判断のものさしがちょっと違うんですよ。今の演奏で踊れるかどうか、それだけで判断してる。


--なるほど。


谷川:だから、すごいスピーディーなんですよ。3回ぐらい演奏したら、もうOK。それがだんだんわかってきて、「チャンスは3回しかない」ということが(笑)。それで集中できたと思いますし、ライブ感がすごくありました。


佐藤:それがすごく、自分らの自信になりました。確実に、これからのUNCHAINの音の作り方は、変わっていくんだろうなと思います。


--これはもう、普通に洋楽です。


谷川:ありがとうございます(笑)。10年前に、「CD屋さんの洋楽コーナーにUNCHAINのCDが並ぶことが夢」とか、語ってたことがあるんですけど。まさに今、このアルバムで、それに近いようなことが起きてるんじゃないかと思います。英語の発音も、日本にいる間もアメリカ人のネイティブの人にレッスンしてもらって、むこうに行っても、リセルという、J-WAVEでナビゲーターもやってた人にずっと横についてもらって。今回は発音も、洋楽だと言ってしまってもいいぐらいのクオリティらしいです(笑)。


■代表曲のタイトルを変えるほどの覚悟でリメイク


--新曲以外で、リメイクした曲の中から、それぞれの推し曲というと?


谷川:3曲目の「Get Ready」は、「Show Me Your Height」のリメイクなんですけど。たぶんUNCHAINで一番有名だと言ってもいいこの曲を、タイトルまで変えちゃうというぐらいの覚悟でやりました。そもそもこの曲をYagiさんが聴いてくれて、「UNCHAINとやりたい」と言ってくれた曲なので、この曲の力を今回あらためて感じました。


佐藤:この前、地元のお祭りみたいなイベントで演奏したんですよ。京丹波の、“黒豆ロック”というフェスで。そこに見に来た近所のおっちゃんおばちゃんとか、絶対にこの曲知らないんだけど、どのカバー曲よりもこの曲の反応が良かったので。「この曲、マジ強い!」と思いました。


谷:僕は「Super Collider」。リメイクのリード曲を、「Get Ready」か「Super Collider」で迷ったぐらい、気に入ってます。この曲はベースラインでギリギリまで迷って、2小節のワンパターンのフレーズをずっとやるんですけど、一部だけ変えようか、いや変えないほうがいい、みたいなやりとりが何度もあって。Yagiさんが「ノリやすいほうでいいよ」と言ってくれて、こういう感じになりました。踊れる感じになりましたね。


谷川:原曲には同期のテーマが入ってて、さらに16分音符のギターのバッキングがあって。リメイクでは同期をなくして、ギターも交互に弾いて、音数が少ない中でグルーヴが出ることを考えました。


谷:聴き比べたらわかるんですけど、元バージョンはイントロが長いんですよ。そこもごっそり削って、まさに削ぎ落とした感じ。


--佐藤くんの推し曲は?


佐藤:「The Sun And Iris」です。日本語の歌詞を英語にしたのが、ものすごくしっくり来ました。そもそもこの曲のデモを初めて聴いた時、つーっと涙がこぼれてきたぐらい、いい曲だと思ってたんですよ。その感じを思い出しました。英語になったおかげで、メロディラインがよりグルーヴィーに聴こえる気がしました。ダンスミュージックではないけれど、こういう曲でも踊れるんだということが、また新しい発見でしたね。より優しく、強くなったと思います。


吉田:僕は「Movin'My Soul」ですね。今回は全曲、せーので録ってるんですけど、これは本当にほとんど直してないと思う。それが本来あるべき姿だと思うし、今の姿がぎゅっと詰まってる感じがします。そこを聴いてほしいです。


■いろいろできちゃうからこそ、「媚びないでいこう」


--そしてアルバムタイトルが『10fold』。


谷川:“fold”は倍という意味で、つまり10倍。10周年で、いろんなことが10倍なんでしょうね。たぶん。……そんなに深い意味はないです(笑)。


--最後に聞きたいことが一つあって。UNCHAINは結成から考えると10年どころじゃなくて、20年近いわけじゃないですか。


谷川:19年ですね。


--時代の流れを横目で見ながら、いろいろ変化しながら、本当にタフに活動してここまで来たと思うんですけど。どうですか、今のバンドの現在位置とか、これから先に見えているビジョンとかは。


谷川:そうですね……今思うと10年前には、the band apartの周りにいるバンド、みたいな位置づけにUNCHAINはいて。ほかにもいっぱいバンドがいたんですけど、最近はもうみんな解散しちゃったりバラけちゃったりして、ずっと同じメンバーでやってるのは、UNCHAINとあと1~2個ぐらいしかいないんですよ。当時あったシーンも枝分かれして、それぞれがそれぞれの道を進んで……UNCHAINも独自の道を見つけて進んできたと思うんですけど。昔もそうだったんですけど、群れたくないんですよ。シーンはあってもいいと思うんですけど、馴れ合うのは好きじゃなくて。日本の音楽シーンは、いっぱい人がいるところにみんな行きたいみたいな傾向が強くて、フェスもたぶんそうだと思うんですけど。UNCHAINはそういうものとは関係なく、自分たちの道を進むのがいいのかなと思ってます。今回あらためて感じたことがあって、ロスでライブをした時に、初めてステージに立った時の気分になったんですよ。ここからまだスタートできるんだなって思ったし、まだ伸びしろはあると思ってます。


--そう思います。


谷川:いつまで伸びしろがあんねんっていう話なんですけど(笑)。今回の新曲もそうですけど、これからも、今あまり日本にないようなもので勝負していけたらいいんじゃないかと思ってます。


谷:こういう感じを続けていけたら、自然に広がると思うんですよ。僕らはいろいろできちゃうというか、カバーもできるし、アコースティックもできる。さっき言った“黒豆ロック”の時も、いつもと客層と全然違うから、「カバーを増やす?」という話をしたんですよ。スピッツをやろうとか、久保田利伸をやろうとか。でも結局こいつ(谷川)が、「媚びないでいこう」と言って、そういうことだなと思ったんで。いろいろできちゃうから、今まではそれが逆に余計だったのかな?という感じもするので。今の感じで続けていけたら、それでいいんじゃないかと思います。(宮本英夫)