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チャットモンチーからShiggy Jr.に受け継がれたものとは? ガールズロックの系譜をたどる

2015年06月17日 10:41  リアルサウンド

リアルサウンド

Shiggy Jr.。

・『共鳴』に見るチャットモンチーの進化


 5月22日のミュージックステーションにて、AKB48やE-girlsに混ざってパフォーマンスを披露したチャットモンチー。恒岡章(Hi-STANDARD、CUBISMO GRAFICO FIVE)と下村亮介(the chef cooks me)という昨年から時間を共にするサポートメンバーを従えてダイナミックなロックナンバー「こころとあたま」を演奏する橋本絵莉子と福岡晃子の姿は、もはや「えっちゃん」「あっこちゃん」と気安く呼ぶのをはばかられるような神々しさに溢れていた。


 「こころとあたま」も収録されているチャットモンチーの最新アルバム『共鳴』には、ヒップホップ調の「ぜんぶカン」や、「バスロマンス」あたりでも垣間見せてきた歌謡曲的なセンスをより前景化させた「最後の果実」、シャッフルのリズムに可愛らしいコーラスワークと鍵盤が印象的な「いたちごっこ」など、ロックバンドという枠には収まり切らないバラエティ豊かな景色が広がっている。「徳島出身のキュートな女の子」というプロフィールで世の中に登場した彼女たちは、この作品で「性別も年代も関係ない音楽家」としての地位を明確に獲得したと言えるのではないだろうか。


 本作をリリースするまでの数年間は、チャットモンチーにとって激動の季節だった。メンバーの脱退、2人だけでの再出発、橋本の入籍・妊娠による活動ストップ・・・チャットモンチーはどうなってしまうのか、多くの人が不安に思ったはず。ただ、『共鳴』を聴く限りでは、一時的な活動の停止がちょうど良いリセットになったのかもしれない。様々なサポートメンバーとの化学反応が楽しめる今作からは、「2人だけがチャットモンチーだ」というプライドの裏側にある意固地さではなく「2人がいれば誰と何をしてもチャットモンチーだ」という軽やかな開き直りが感じられる。『共鳴』を作り終えた現在の心境について、福岡はこう語っている。


 「今は、周りの人にも「こんなことやれば?」とかいろいろ言ってほしいなって思います。そしたら「おっ、それいいね」って思える感覚が、昔は絶対になかったけど今ならある。「3ピース以外でやりません!」って感じのときもありましたからね。今は楽しそうって思ったらなんでも食いつくし、なんでもやってみたい。」(CINRA 2015/5/30 チャットモンチー、バンド消滅の危機もあった10年を振り返る)


 おそらく、今作を経てチャットモンチーは「狭義のロック」に縛られない様々な形のポップミュージックのあり方を提示し続けるアーティストになるのだろう(くるりやクラムボンのあり方に近いのかもしれない)。この進化は非常に頼もしくわくわくするものだが、少し見方を変えると彼女たちがこれまで担ってきた「ガールズロック」の中心地にぽっかり空洞が生まれることを意味している。


・拡散するガールズロックの系譜


 チャットモンチーのメジャーデビューは2005年、「シャングリラ」でブレイクを果たしてロックバンドとして、もしくは可愛いポップアイコンとして大きな人気を得たのは2006年。当時の彼女たちの年齢は20代前半。その頃の受容のされ方は「可愛らしい女の子ボーカルで、ポップだけど本格的なバンドサウンド」というようなものだった。


 チャットモンチーが獲得したこの立ち位置は、90年代以降のJ-POPの隆盛において「ガールズロック」という概念のもとで着実に耕されてきた場所である。最も偉大な先人は、90年代半ばからゼロ年代初頭にかけてヒット曲を連発したJUDY AND MARY。「本格的なのに難解ではないバンドサウンド」「覚えやすい=歌いやすいキャッチーなメロディ」「フロントマンの稀有なキャラクター」という三拍子そろったこのバンドは、性別を問わず「かっこいい!」「かわいい!」という両方の感情の受け皿となった。特に、年頃の女の子にとってはYUKIのことを「ああいうふうになりたい」という憧れの対象とすることもできる。幅広い層からの支持を集めた彼らは、文字通りの国民的バンドとして音楽シーンに君臨した。


 90年代後半以降から今に至るまでのJ-POPには、「ジュディマリが作ったこのポジションを巡るいろいろな人たちの争い」という側面がある。ジュディマリの活動期間中には、Hysteric BlueやWhiteberryといったフォロワーが現れた。2001年にデビューしたZONEは早々に「secret base ~君がくれたもの~」をヒットさせている。そして、彼女たちに代表されるいくつかのバンドが定着しきれずに迎えた2005年という年は、前述のとおりチャットモンチーのメジャーデビュー年であると同時にYUKIが「JOY」をリリースした年でもある。ダンサブルなポップスに振り切った「JOY」で新たなアイデンティティを獲得したYUKIは、この曲でいよいよ「ジュディマリのボーカルだった人」という看板を下ろすことができた。つまり、「ガールズロック」の主役はこの年にジュディマリからチャットモンチーに継承されたのである。


 チャットモンチーが登場したゼロ年代後半から現在までを振り返ると、この「ガールズロック」の系譜は純粋なロックバンドとは異なる文脈で広がりを見せている。「けいおん!」のブームにせよ、AKB48「ヘビーローテーション」の大ヒットにせよ、ジュディマリを源流としたJ-POPの中の大きな流れに位置付けることができる。そして2015年、チャットモンチーは『共鳴』で「可愛くてポップなロックバンド」というカテゴリーとは異なる場所に歩を進めた。


 空席となったガールズロックど真ん中のポジション。もちろん女性ボーカルを主体としたロックバンドは今でもたくさんいるが、どのバンドも「本格感と可愛らしさを併せ持ちながら、大きな間口へ届ける」というアプローチとは微妙にギャップがある。そもそも、今の時代に「幅広い層から支持を得る」こと自体が難しいという部分もあるかもしれない。ポテンシャルの大きい場所でありながら、おいそれとは近づきづらい立ち位置。そんなスペースに、果敢に飛び込もうとするバンドが現れた。それが、Shiggy Jr.である。


・統一王者候補としてのShiggy Jr.


「高3の途中まで音大受験用の対策をしっかりやってたんですけど、そこから進路を変えたきっかけがチャットモンチーなんです。チャットモンチーをテレビで見て、全てを捨ててバンドをやろうと思った」(レジーのブログ 2014/2/1 Shiggy Jr. インタビュー(前編) 2014ブレイク候補のルーツを紐解く 池田智子の発言を一部要約)http://blog.livedoor.jp/regista13/archives/1025117462.html


 6月24日に「サマータイムラブ」でメジャーデビューするShiggy Jr.。チャットモンチーが人生を変えた、いわば「チャットモンチーチルドレン」のひとりでもある池田智子をフロントに擁するこのバンドは、「ガールズロック」を巡るJ-POPのストーリーに新たなに名を刻む存在になるかもしれない。


 2013年末に「Saturday night to Sunday morning」でネット上の音楽好きコミュニティを席巻したこのバンドは、2014年リリースのアルバム『LISTEN TO THE MUSIC』で着実に支持基盤を広げ、今年満を持してのメジャーデビューとなる。メジャー初作品となる「サマータイムラブ」は、腰にくるビートを備えたバンドサウンドと華やかなストリングスやホーンが絡んだポップチューン。ブラックミュージックのようでもありアイドルポップスのようでもあるハイブリットな感触は2015年の空気を的確に切り取っているとともに、濃い音楽ファンからお茶の間のJ-POPリスナーまでを等しく満足させる可能性を秘めている。


 全ての作詞作曲を手掛けるギターの原田茂幸、ボトムを支えるベースの森夏彦とドラムの諸石和馬と同様に、ボーカルの池田智子が果たす役割も非常に大きい。すでに「オールナイトニッポン」でパーソナリティーを務めるなど、ライブのMCからSNS上のやり取りまであらゆる場面でバンドのスポークスマンとなっている。このバンドが掲げる「グラミー賞」という途方もなく大きい目標に向けて、Shiggy Jr.の存在を伝えるために何でもやるという徹底した姿勢。自由で破天荒な感じが魅力になっていたYUKIとは全く異なるが、「ゴールを定めて、やるべきことをブレイクダウンし、愚直に遂行する」という池田のスタンスこそ、今の時代の生き方として「憧れ・ロールモデル」になり得るものではないだろうか。


 「本格的なのに難解ではないバンドサウンド」「覚えやすい=歌いやすいキャッチーなメロディ」「フロントマンの稀有なキャラクター」。この3つを兼ね備えたShiggy Jr.がメジャーデビューする2015年は、このバンドの結成に大きな影響を及ぼしているチャットモンチーが活動の転換点となるであろう作品をリリースした年となった。もちろんそこには何の因果関係もないが、こういう偶然の積み重ねで時代は動いていく。ロックバンドの枠を越えていくチャットモンチーと、「ガールズロック」の系譜を新たに紡いでいくShiggy Jr.。異なるフィールドでのこれからの活躍と、いつか起こり得るだろうこの2つのバンドの邂逅を楽しみに待ちたい。(レジー)