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海外と日本のバンドの「ドラムの違い」とは? 元アマチュアドラマー兵庫慎司が考える

2015年06月16日 18:51  リアルサウンド

リアルサウンド

海外と日本のバンドの「ドラムの違い」とは?

 もうすぐフェスのシーズンが始まる。というか、一部ではもう始まっていますね。6月16日現在の段階で、私も既に3つ行きました。JAPAN JAM BEACH、METROCK、TAICO CLUBです。


(関連:なぜ人はイベントをやるのか? 音楽ライター・兵庫慎司が考える


 で。ご存知のように、洋楽アーティスト主体で邦楽アーティストも出るフェスの代表は、フジ・ロック・フェスティバルとサマーソニックであって、よって現場では洋邦両方観て聴くことになるわけだが、そのたびに毎年思い知ることがある。


 海外のバンドと日本のバンドのライヴ・パフォーマンスにおいて、もっとも違うのはドラムだ、ということだ。


 海外のバンドの方が圧倒的にいいのだ。日本盤も出ていないようなバンドであっても、作品では打ち込みでライヴでのみ生ドラムを入れているようなバンドであっても、ドラムはすごくよかったりするのだ。会場を歩いていて、遠くのステージから知らない曲のイントロがきこえてきた場合、そのドラムの響きだけで日本のバンドか英米のバンドか判断できるほどだ、と言っても過言ではない。


 たとえばBoBoとか、ZAZEN BOYSの松下敦とか、detroit7の山口美代子とか、あらきゆうことか、川西幸一とか湊雅史とか伊藤大地とか古田たかしとか(後半奥田民生関係を並べてみました。しかしつくづくOTっていいドラマーとしかやってないですね)、国内にもすぐれたドラマーは何人もいるが、日本のロック・フェスに呼ばれる海外のバンドの場合、ほとんどのドラマーがそのレベルであると言っても過言ではない。


 いや、過言か。それはさすがに言い過ぎだが、フジやサマソニでよく知らない英米のバンドを観ていて、「知らないバンドだけどドラムはBoBoレベルだよなあ」とか思うことが、実際に私、よくあります。


 そして、これ、「ロックってそもそも英米のものだから、やっぱり英米のミュージシャンのほうがすぐれてるんだよ、リズム感が日本人とは違うんだよ」という理由では、必ずしもないと思うのだ。確かにそれもあるだろうが、それだけではないのではないか。


 なぜか。昔は英米のバンドだからって、必ずしもドラムがいい、というわけではなかったからだ。


 僕が東京に引っ越してロッキング・オン社に入り、川崎クラブチッタや渋谷クラブクアトロで英米のアーティストの来日公演を頻繁に観ることができるようになったのは1991年からなのだが、当時「うわ、このドラムすごい! やっぱ外人は違う!」と思った記憶、正直、そんなにありません。


 というかむしろ、ドラムに限らず演奏においては、全体的に「えっ!? 外人てこんなにしょぼいの?」とびっくりすることの方が多かった。ただ、ロッキング・オンが推していたバンドがそういうのばかりだった、という可能性はあるが。もしBURRN!編集部に入っていたら全然違ったかもしれない。


 ともあれ、当時、ライヴを観て演奏いいなと思った、当時人気のあったバンドは、THE STONE ROSES(これは東京に行く前ですが。大阪で観ました)、HAPPY MONDAYS、THE CHARLTANS、WONDER STUFF、MANO NEGRA、あとその数年後に渋谷クラブクアトロで観たRADIOHEADくらいだ(これはほんとにすごかった)。


 じゃあ当時の日本のバンドはどうだったんだ、ということをスルーするのはよくないか。えーと、はっきり言って、ひどかったです。具体例を出すのは差し障りがありすぎるのでやめますが。僕が高校時代をすごした80年代中期の広島は、今思うとどうもいいアマチュアミュージシャンが多かったらしく(まあ、奥田民生とか川西幸一とか、プロデューサーの島田“CHOKKAKU”直とかが普通にライヴハウスでやってたわけだし)、のちに有名なプロの人気バンドのライヴを観て「ええっ、こんなに演奏ペラペラなの!?」とびっくりすることがたびたびありました。


 今の日本のバンドの演奏技術、よくこんなにも進歩したなあと本当に思う。ONE OK ROCKなんて日本人とは思えない、演奏。若いのに。


 ドラムのよしあしの話から、昔のバンドの演奏はしょぼかった、という話にそれてしまった。戻します。


 つまり、90年代初頭に僕が観た洋楽バンドで、今フジやサマーソニックで観て「ドラムすげえいいなあ」と思うのと同じレベルでよかったのは、THE STONE ROSESのレニくらいだったわけです。あ、レニの後任のロビー・マディックスもよかったです、レニほどではないけど。


 もちろん僕は当時の洋楽アーティストの来日ライヴをすべて網羅していたわけではないし、さっき書いたように当時ロッキング・オンで推していたバンドがそういうのが多かったんだろ、という可能性も大いにあるが。


 ざっくり言うと、要は洋楽の(ロキノン系の)バンドのドラムも、日本の(ロキノン系の)バンドのドラムも、その大半が、あんまりよくはなかった、と僕は思っているわけです。


 それがこの20余年で、こんなに差がついてしまったのはなぜなのか。


 90年代中盤~後半の、ダンス・ミュージックのポップス化のせいではないか。という仮説はどうだろう。


 ハウスとかテクノ等の、いわゆるエレクトリック系のダンス・ミュージックが、そのあたりの時期から急速に一般化した。UNDERWORLDやCHEMICAL BROTHERS、PRODIGYやFATBOY SLIMなどなど。なお、ヒップホップやR&B系は、それ以前から一般化している。音楽ユーザーの耳がそれに慣れて、普通のロック・バンドのリズムでは物足りなくなる、だからそれらに対抗できるくらい、生のリズムのレベルをあげていくしかない。


 そういえば、ミクスチャー・ロックやヘヴィ・ロック、いわゆるラウド系的なジャンルはそれ以前からあったが、すばらしいバンドがいくつも台頭して、本格的に市民権を獲得するようになったのも、この時期からだったかもしれない。


 RAGE AGAINST MACHINEとかKORNくらいの音圧でぶちかましてくれないと、ダンス・ミュージック勢のリズムに太刀打ちできない。そしてそれはやがてラウド系だけでなく、ギター・バンド系にも、それ以外にも伝播していった、だから総じてロック・バンドのリズムが強化されていった──という。


 ドラムだけでなく、それまでは一部のベーシストしか使っていなかったスラップ奏法(昔でいうチョッパー奏法)がさまざまなジャンルに広がっていったのも、それと同じ理由なのかもしれない。


 という変化が、日本にはあまり訪れなかった、だから英米のロック・バンドのドラムが進化していく(そして進化できないドラマーは振り落とされる)のに対し、それがなされなかった──ということなのかもしれない。


 という意味では、実は僕は、今年のフジ・ロックに期待している。


 先ほど僕はONE OK ROCKを例に出して「今の日本の新しいバンドは本当によくなっている」と書いたが、フジってそういう日本の新しいバンドはあまり出演させないフェスだったからだ。それが今年から大きく方針を変えたラインナップに変わった。去年までよりも「やっぱ外人のドラムすげえなあ、それに引き換え……」と感じることが減るのではないか、と思うのだ。


 そろそろ、おまえは何を基準にしてドラムがいいとかよくないとか判断してんだ、何様なんだ、と言われそうな気がしてきた。言われてもしょうがない気もしてきた。


 というのもですね。私、このテキストの頭からこの時点までで、「いい」「よくない」という書き方をしていて、「うまい」「下手」とは一度も書いていないのは、必ずしも「うまい」=「いい」ではないからです。


 これを言い出すと「どんな楽器だってそうだよ」という話になってしまうか。でも、たとえば、ロック・バンドのドラマーでも、ジャズとかフュージョンとかの基礎からしっかり学んでいて、ルーディメンツとかみっちり練習していて、技術的にはもう大変に高度なことができる、でもビートが気持ちよくない、ということもある。逆に、スティックの二度打ち(一度のスティックの振り下ろしでスネアを二度打つ奏法。これを細かく左右の手で連打するとドラムロールになります)もキックのダブルアクション(ドドッと踏むことです)も、ヘタするとハイハットをきれいに16ビートで刻むことすらできない、ただキックとスネアを♪ドンタンドンタンと鳴らすことしかできない、なのにすんげえかっこいい、ということもある。


 というか、先に僕が名前を挙げたいいドラマーはみんなそれだ。いや、細かいテクがないってことではなくて、「まず♪ドンタンドンタンの時点ですばらしい」ことが前提になっている、ということだ。


 ハイハットを8分音符で打ちながら、キックとスネアを「♪ドンタンドンタン」って鳴らすこと自体は簡単だ。ドラム未経験者でもできる。ただ、それが気持ちいいかよくないかは、もう感覚の問題でしかない。どうすれば気持ちいいビートを叩けるのかは、正直、私もわかりません。どう音楽と向き合ってきたのかとか、どう生きてきたのかとか、つきつめればそういう問題まで行き着くのでは、という気もする。


 そしてまた、その「気持ちいい」の基準もよくわからない、自分でも。タメが気持ちいいドラマーもいれば、単にモタってるとしか思えないドラマーもいる。前につっこみ気味なビートで、「ヴォーカル、歌いづらそうだな」と思わせるドラマーもいれば、バンドの勢いを牽引してるなあと思わせるドラマーもいる。リズムマシンのようなジャストなビートでも、「タイトだなあ、いいなあ」という人もいれば「打ち込みみたいでつまんない」という人もいる。いや、その打ち込みですら、今はそれこそ何十分の1秒単位でタメたり前につっこませたりできるわけで……そう考えてみると、打ち込みでリズムを作るエキスパートの人の方が、その「♪ドンタンドンタンの気持ちよさ」を科学的に証明できるのかもしれない。「スネアは30分の1秒タメて、キックは45分の1秒前につっこませると、このジャンルにおいては最適な心地よさを持つリズムになるのです」とか。誰かいないだろうか、そういう解説をしてくれる人。


 さらに言ってしまうと──これはあくまでも私個人の感想ですが、そして一部に思いっきり反感買いそうですが、まあいいや。80年代~90年代に、ドラム雑誌でしょっちゅう特集が組まれていたような海外の名ドラマーの来日公演を観て、「ええっ!? 全然よくないじゃん!」と驚いた経験、私、あります。いや、確かにうまい。手も足も信じられないような動きをしている。でもビート自体が全然気持ちよくないし、音もちっちゃい。そんなにそっと叩くなよ! スネア打つ時は左腕は耳の後ろまで振り上げろよ、モトリー・クルーのトミー・リーみたいに! と思うものの、でもその人は、ドラム雑誌とかでは神のように崇められている。ということは、それをいいと思えない俺の方がおかしいのか?と悩んだりしたものです。


 かように、ドラムって本当に不思議な楽器だなあと思う。


 たとえば、ギターがいないバンドやベースがいないバンドと、ドラムだけいないバンドの数を比べてみていただきたい。あきらかにドラムのいないバンドが多い。キーボードがサポートのバンドも多い? あれはデビュー時はいなかったけど「やっぱ鍵盤もほしいよね」ってことになってあとからサポートで入っているケースがほとんどであって、ドラムの場合はデビュー前までいた、あるいはデビュー後も途中までいたんだけど脱退、という例が多いのではないか。


 あと、ドラマーって後任を見つけづらい、ということでもあると思う。おそらくギターやベース以上に。思い出した。ZAZEN BOYSからドラムのアヒト・イナザワが脱退し、松下敦が加入して初めてのライヴを観たことがある。確か新宿ロフトで、複数のバンドが出るイベントだった。ZAZENのステージが終わり、向井秀徳が対バンを観にフロアへ出てきたので、「確かにすごいドラマーだけど、なんであんな忙しい人にしたんですか? スケジュール合わせるの大変でしょ?」と訊いた。当時松下敦は、YUKIやBaffalo Daugtherなどのサポートでひっぱりだこの存在だったので。


 その時の向井秀徳の答え。


「一緒にやりたいと思うようないいドラマーで、ヒマな人なんていないんですよ」


「失礼しました」と言うほかありませんでした。


 ただし、その後、ベースの日向秀和が脱退した時、その後任で「いいベースでヒマだった」吉田一郎を加入させた向井ってすごい、とも思う。自分で自分の言葉を覆している。鍛えまくっていいベーシストに育てていった、という側面も大きいのだろうが。


 もうひとつ例を挙げる。


 OASISのサポート・ドラムがアラン・ホワイトからザック・スターキーに替わった時、来日公演を観たファンの間では賛否両論だった。否のファンたち曰く、「あんな前のめりで激しくて重たいビート、OASISには合わない」。おそらく、ドラマーとしての世界的な評価はザック・スターキーの方が高いにもかかわらずだ。僕はザック・スターキーのプレイ、大好きなので肯定派だったが、アラン・ホワイトの方がいいというファンの気持ちも理解できた。


 それから、歌う側にしてもそういうものらしい。つまり、すぐれたドラマーであるかどうかと、自分が歌いやすいかどうかは、必ずしも一致しなかったりするらしい。
要は、慣れていないと歌いにくいようなのだ。有名な例としては、80年代中期、桑田佳祐が初めてサザン以外の音楽活動を行ったのはKUWATA BANDだったが、ドラマーはサザンオールスターズの松田弘だった。いや、松田弘、いいドラマーだけど、当時桑田はとうにスーパースターだったわけで、外の凄腕ドラマーもいくらでも呼べただろうに(現にその後のソロ活動ではそうしている)、せっかく初めてサザン以外で音楽をやるのに、ドラムだけは松田弘に声をかけたわけだ。なぜか。おそらくその当時は、松田弘のドラムじゃないと歌えない身体になっていたのではないかと思う。


 そういえばミック・ジャガーがチャーリー・ワッツのことを「俺のドラム」と発言し、それを知ったチャーリー・ワッツが「俺はおまえのドラムじゃねえ」と怒り狂った、というエピソードもある。


 そして、最近の例でいうと、6月17日に初めてのソロ・アルバムをリリースしたDragon AshのKjこと降谷建志、そのソロの時のバンドメンバーが先日発表になったが、ドラムだけはDragon Ashのサクだった。何か、大きくうなずけるものがありました。


 僕は中3くらいから大学を卒業するまでバンドをやっていた。特に大学以降はそれなりに真剣に、プロを目指していた。


 つくづく思う。やめてよかった。あのままやっていて、もし、何個目かのバンドに才能のある奴がいてプロになれることがあっても、デビューの時点でクビになっていただろう。


 実際、僕が高校生だった頃の広島でも、大学生だった頃の京都でも、そういう例をいくつも見た。先輩のバンドがデビューしたらドラマーが代わって見知らぬギターがひとり増えていたとか。対バンのヴォーカルがMCで「東京に行きます! プロになります!」と宣言していて、すごいなあと思ったものの、いざデビューしたらバンド名とヴォーカルだけ残っていてメンバー全員セッション・ミュージシャンになっていた、とか。


 ひでえなあ、音楽業界って恐ろしいなあ、最悪だなあ、と当時は思っていた。しかしその数年後、ロッキング・オン社に入って1年経つか経たないかのうちに、レコード会社からデビュー前の新人バンドのプロモーションを受けてライヴを観たあとに、「これドラム弱くないですか? 今のうちに替えるか切るかしたほうがいいんじゃないですか?」などとのたまっている自分がいた。


 はい。最悪です。(兵庫慎司)