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元ニートの億万長者が「世の中がよくなることをやりたい」 地方を豊かにするビジネスに目覚める

2015年06月15日 11:40  キャリコネニュース

キャリコネニュース

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夏目漱石の小説「坊ちゃん」にも登場した愛媛・松山市の道後温泉。その一角に、温泉もないのに楽天トラベルアワードを4年連続受賞の「道後やや」がある。2015年6月11日放送の「カンブリア宮殿」は、この宿を仕掛けたエイトワンの大籔崇社長(35歳)の驚きの成功人生と経営術を聞いた。

広島県生まれの大藪氏が愛媛大学に入学し、唯一真剣に取り組んだのがパチンコだった。毎日通いつめて勝てる傾向を分析し、1000万円を稼ぐ。卒業後も就職せず、本人いわく「ニート生活」をしながら株取引に挑戦。元手の35万円を15億円に増やすとビルやアパートを取得し、家賃で安定した収入を得るようになった。

高級旅館の経営引継ぎ、著名な料理人を呼び寄せてみたが…

しかし大藪氏は「何か違う」と思い始める。おいしいものを食べたり好きな服を買ったりしたが、心は満たされない。「そのお金を使って、もっと世の中がよくなることをやりたい」と考えていた頃、客足が伸び悩んでいた高級旅館「道後 夢蔵」の経営を引きつがないかと知人から持ちかけられた。

「愛媛のために何かしたい」と引き受けた大藪さん。東京から著名な料理人を呼び寄せメニューづくりを任せたが、客足は戻らず。やがて厨房スタッフのほぼ全員が辞めてしまう事態に陥る。

料理人たちは、全国から取り寄せた高級食材を言われるままに調理するだけだったのだ。総料理長の篠宮さんは、当時の心境をこう明かす。

「心の中では『愛媛の食材を使ってほしい』という気持ちがあっても、すごい先生のメニューなので、それに捉われながら料理をしていた」

大藪さんは「愛媛のためになっていない」矛盾に気づき、外部の料理人との契約を打ち切り、「食材は愛媛産にこだわりましょう。メニューは皆さんが考えてください」と厨房スタッフに告げた。

雰囲気は180度一気に変わり、「自分たちの料理が出せる。『料理人として勝負したい』という気持ちがみんなに芽生えたと思う」と篠宮さんは振り返る。

経営方針を「スタッフのやる気」に切り替え

今では、とことん愛媛を堪能できるメニューに生まれ変わった。客室も愛媛づくしで、藍色が美しい砥部焼のタイルで作った風呂は特に好評だ。スタッフ全体の意識も向上し、仕事が「愛媛に貢献している」という充実感につながっている。

客室係の女性スタッフは「その意味で、やりがいがかなり出てきました」と語る。客足も回復し、3年で人気の宿となった。村上龍が、「モチベーションをみんなが持ってくれたことが、経営者としての第一歩でしたか」と尋ねると、大藪さんはうなずき「それが今でも僕の軸になっています」と経営方針を語り出した。

「経営していると日々判断の連続で、迷うこともたくさんある。迷った時は『スタッフのモチベーションが上がって、やる気が出るほう』を選ぶようにしています」

会社も社員90人、年商11億円を稼ぎ出すまでに。現在は、今治タオルや砥部焼き、農園など、愛媛の特産品を扱う10以上のビジネスを行っている。さらに愛媛に限らず、香川県の特産である手袋など、優れた全国各地の工芸品をモダンなデザインにするなど見せ方や形を変えてその売上を伸ばしている。

若いうちに、ほとんどギャンブルで富を手に入れた大藪氏。たいへんな強運の持ち主だが、たぐい稀なる分析力や、冷静な判断力があってのことだろう。そして「自分の欲望のためだけに働くのではない」姿勢が、人を動かし、成功を呼び寄せる鍵となっているように見えた。(ライター:okei)

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