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ライブシーンは1年でこれほど動いた KEYTALK、[Alexandros]、BLUE ENCOUNTらの大躍進

2015年06月14日 14:01  リアルサウンド

リアルサウンド

04 Limited Sazabys『CAVU(通常盤)』(日本コロムビア)

 音楽雑誌やウェブサイトを中心に活躍するライター、高橋美穂氏による連載企画「ライブシーン狙い撃ち」が今回からスタートする。当連載では、ライブハウスを主な取材対象としてきた同氏が、リアルタイムで注目するライブバンドやシーンを紹介。一児の母でもある同氏らしい視点で、ライブやバンドの新たな楽しみ方を伝えていく。(リアルサウンド編集部)


(参考:フェスシーンの一大潮流「四つ打ちダンスロック」はどこから来て、どこに行くのか?


 はい、浦島太郎です! ……そう、恥ずかしくも言わざるをえないくらい、1年振りの現場復帰で目が回っている。そもそも「若手バンドを追い掛ける」、「ライブハウスに通う」というスタイルで築いてきた私のライター人生。そのスタイルを変えなければならない事情が、1年前に起きた。子供を授かったのだ。どんな仕事をしていたって、女性ならブチ当たりがちなこの現実。しかも音楽業界の流れが早いことは、身をもってわかっている。子供を産み育てることは夢だったし、三十路半ばだし、ずっと覚悟は固めてきた。少し立ち止まってみて、そこから見えるもの、聴こえるものも、面白いかもしれない。そう気持ちに落としどころをつけて、出産後は子供が寝た後で細々とディスクレビューを執筆し、音楽シーンの流れはどうにか把握。子供が起きている時間は音楽と言えばEテレ。『ブンバ・ボーン!』を歌い踊りながら子供をあやし、こんな人やあんな人が子供番組に音楽を提供しているのね!?と驚いたり、歌のおねえさんとおにいさんの上手さやパフォーマンス力に感動したり……と、刺激はめいっぱい受けていた、一応。そして、赤ちゃんの成長の早さに合わせて、私自身もすんなりと変化出来てしまった。今まで居場所だったライブハウスの酒臭さや汗臭さではない、赤ちゃんの石鹸の匂いやウンチの臭いを嗅ぐ日々に慣れ、ライブをやっている時間に寝てしまう生活が、すっかり居心地良くなってしまったのだ。


 しかし、4月を迎えて、そうは言っていられなくなる。子供を保育園に預けて、ライターに復帰しなければならなかったからだ。訊きたい書きたい欲がウズウズしていたというのもあり、育児、家事、仕事、フル稼働しないと生活していけない状況というところもあり。じゃあ、片足母ちゃん、片足ライター、二足のわらじをはいてガツガツ走っていきますか!と意気込んでみたものの……はっ! 最近のライブハウスはどうなってるんだ!? とキョロキョロ。そうしたら、あんなバンドがこんなに成長していて、こんなバンドが世の中に出てきている!と、驚きのオンパレードだったのだ。


 まずはKEYTALKの大躍進。ダンサブルなサウンドとテクニカルなプレイが魅力的な彼らはインディーズ時代から取材してきたけれど、こんなにフェスの申し子のようになり、今秋の日本武道館公演まで決定しているとは! 音楽バカでピュアなキャラクターであるが故に(もちろん褒め言葉)、ここまでのし上がるとは思っていなかったけれど、時代と見事にシンクロした結果だと思う。また、いよいよ“スター”と呼びたくなるような存在になってきたのが、[Alexandros]。ちょうど[Champagne]から改名する頃に産休に入った身としては、メジャーデビューが似合う華やかさをまとっている今の彼らは、本当に別バンドのように見えてならない。いや、元々実力派ではあったけれど、ビジュアルもサウンドも、改名後にぐっと色気が増した気がするのだ。お茶の間まで、世界じゅうまで、オーバーグラウンドにロックを届ける際には、色気は必須。これからが楽しみでしかない。そして、最初の「これは何と喩えていいのやら!?」という印象のままで、ズンズン名と音を広めてしまっているのがBLUE ENCOUNT。ラップに速弾き、ストリングスから真っ直ぐな歌詞まで、全てをブチ込んでスマートにまとめてしまっている、まさに現代版ミクスチャーバンド。“●●系”とかどうでもよくなった時代の象徴的存在だろう。あと、何よりもライブが重要な今の時代において、いちバンドなのにいろいろな角度で楽しめるところも魅力なのかもしれない。さらに、違った方向性で、現代版ミクスチャーバンドと言えるのが、WANIMA。産休中に取材した数少ないバンドなのだが、レゲエやメロディック・パンクというジャンルだけではなく、エロに郷愁に熱いメッセージまで、感情もミクスチャーして放出しているところが彼らの特徴だ。そこが格別に人間臭くて気持ちいい。最後に、最も驚いたのが04 Limited Sazabys。昨年のPIZZA OF DEATH主催イベント『SATANIC CARNIVAL 14'』に出演してから、どんどん評判が評判を呼ぶようになっていったと思うのだが、ちょうどその時期から産休に入っていたため、かなり彼らからは浦島太郎感を食らわせられた。クセのあるボーカル、ポップなメロディ、心弾む疾走感、メロディック・パンク育ちのヤンチャな空気感……惹かれる要素が満載。しかも、瞬く間にメジャーデビューを果たすとは、追いかけないと置いていかれそうになるくらい、意志を持ったバンドなのだと思う。ぜひ、何処かで出会いたい。


 今度いつライブハウスに行けるかはまったくわからない。でも、今まで磨き上げてきたアンテナは、1年くらいで錆びちゃいないはず。私のような母ちゃんに限らず、なかなかライブハウスに行けない人たちも多いはずだから、そんな状況でも音楽は楽しめるのよ、新しいバンドを知れるのよ、そしてライブハウスに行っている感覚に近付けるのよ、というような連載にしていけたらと思っています。これから、どうぞよろしく。(高橋美穂)