2015年06月14日 11:21 弁護士ドットコム
ツイッターに自分のアカウントをもっている場合、個人名や会社名を明記しないで、つぶやく内容にも注意して「会社バレ」を回避している人は多いだろう。東京都内のデザイン関連事務所に勤めるY子さん(30代)もそんな一人だったが、ツイッターを使っていたことを理由に「降格」される不運に見舞われてしまった。
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投稿内容は、日常生活のささいなことが中心で、仕事の愚痴はほとんどない。「今日も朝から牛丼です」「忙しすぎて昼休みがとれなかった・・・」「部長のせいで、残業がつづいて最悪」などと書き、友人らとつながっていた。
しかし、ある日、上司から「誰が見ているかわからないところで、会社の『悪口』を言えてしまうツイッターを使うのは問題だ」という理由で、配置転換と降格を命じられてしまった。どうやら、Y子さんのツイッターアカウントを知っていた元同僚が面白がって別の同僚に教え、そこから上司に告げ口されたようだ。
「『悪口』となる種のものは一度も書いていないし、会社名も自分の名前も書いていない中で、特定されるはずがありません。そもそも勤務先では、社員のTwitter利用に関してはルールも定められず、禁止もされていなかった。あんまりだと思います」
はたして、Y子さんの「降格」は問題ないのだろうか。大山弘通弁護士に話を聞いた。
「『降格処分』というのは、会社が労働者に何らかの制裁を加える懲戒処分の一種です。
このケースでは、会社がY子さんに『降格処分』をおこなったことは妥当ではなく、無効であると考えられるでしょう」
大山弁護士はこう述べる。そもそも、どのようなときに、会社は「降格処分」などの処分をおこなうことができるのか。
「会社は『企業秩序の維持』のために、労働者に業務指示をすることができます。これに違反する場合、つまり労働者に企業秩序に違反する行為があった場合、会社は制裁のための懲戒処分をおこなうことができます(最高裁1977年12月13日判決や1979年10月30日など)。
もし、SNSの利用が、Y子さんの会社の『企業秩序に違反する行為』にあたる場合は、Y子さんを懲戒処分できます。会社がSNSの利用ルールを特に明記していなくても、一般的な懲戒規定から処分は可能です」
社員のツイッター利用は「企業秩序の維持」という点から、どう判断されるのだろうか。
「会社は、労働者の私生活などを一般的に支配できるものではありません。会社の愚痴を言うことは、世間一般に当たり前に行われていることです。SNS利用の影響力を考慮しても、直接、『企業秩序の違反』になるとまではいえません。企業秩序の違反となりうるのは、たとえば、会社を名指しして、事実と異なることをつぶやくような場合が考えられます」
Y子さんの場合、名前や勤務先を出さず、業務内容も明かさないよう細心の注意を払っていたという。
「そんな内容では、Y子さんのつぶやきを見た人は、Y子さんの勤める会社を特定できませんよね。そもそも『企業秩序の違反』にあたる行為はないといえます」
そうなると、降格処分は行き過ぎだということか。
「はい。企業秩序の違反がないのに懲戒処分をおこなった場合はもちろん、懲戒処分が客観的に合理的でないとか、社会通念上相当でなければ、その処分は無効となります(労働契約法15条)。
『降格』は比較的重い懲戒処分です。仮に勤務先が分かってしまうようなつぶやきをした場合でも、その内容と処分との釣り合いがとれていない場合、社会通念上相当でないとして、その処分は無効となります。
なお、企業がSNS利用に関してルールを設けるにあたっては、労働者の私生活への不当な干渉とならない程度にとどめるべきことに注意が必要です」
大山弁護士はこのように話していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
大山 弘通(おおやま・ひろみつ)弁護士
労働者側の労働事件を特に重点的に取り扱っている。労働組合を通じての依頼も、個人からの相談も多い。労働事件は、早期の処理が大事であり、早い段階からの相談が特に望まれる。大阪労働者弁護団に所属。
事務所名:大山・中島法律事務所
事務所URL:http://on-law.jp/