2015年06月12日 11:51 弁護士ドットコム
日本音楽著作権協会(JASRAC)は6月9日、音楽著作権の手続きをしていない飲食店など258の施設にBGMの使用料の支払いなどを求め、15都道府県の簡易裁判所に民事調停を申し立てたと発表した。
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JASRACによると、全国の支部が一斉に法的措置をとるのは初めてだという。繰り返しの催告にもかかわらず、手続きに応じない施設が多いため、今回の措置に踏み切ったということだ。JASRACは「お店などの施設がBGMを適法に利用するための活動を推進していく」としている。
ネット上では、JASRACに対して「街角から音楽をなくすのか」などの批判の声が続々と書き込まれているが、今回の措置には、どんな意図があるのだろうか。エンターテインメントの問題にくわしい高木啓成弁護士に聞いた。
「著作権には『演奏権』という権利があり、飲食店などの施設でCD音源をBGMで流すことは、この『演奏権』の侵害になります。CDを再生しているだけでも、法的には『演奏』していることになるんですね。
ですので、本来、施設が『CDをBGMで流したい』という場合、その楽曲の著作者である作詞家・作曲家の許諾を取らなければなりませんし、使用料を交渉して決めなければなりません」
しかし、施設としては、BGMで使用するCDの楽曲の作詞家・作曲家を探し出し、全員に連絡を取って交渉するのは困難ではないか。
「そのとおりです。それに、作詞家・作曲家としても、日本全国の施設からの連絡に対応することは困難ですし、自身の楽曲が無断利用されていないかチェックすることもできません。
そこで、JASRACのような著作権管理事業者が存在するわけです。作詞家・作曲家は、JASRACのような著作権管理事業者に著作権を預けて、窓口を一本化し、著作権使用料を徴収してもらっています。
このように、JASRACの業務は、作詞家・作曲家の著作権使用料をきちんと徴収することであり、今回の法的措置も、そのためのものです」
インターネット上では「JASRACは日本中の街角から音楽を消し去ろうとしている」という批判を目にするが・・・。
「JASRACの業務は、作詞家・作曲家の著作権使用料をきちんと徴収することですので、音楽の無断利用を黙認してしまっては、業務懈怠(けたい)になってしまいます。
たしかに、僕個人としても、これだけ音楽が豊富な時代ですし、BGMは音楽を買ってもらうための絶好の宣伝ですので、無償でのBGM利用は認められるべきだと思います。しかし、そのためには著作権法の改正を求めるべきであり、この点でJASRACを批判するのは的外れです」
飲食店などの施設は、どのような計算方法で、JASRACに使用料を支払っているのだろうか。
「JASRACは、BGM使用については、CDの再生時間や曲数を問わず、店舗面積などによって一律に月額の使用料を決めています。いわゆる『包括契約』です。包括契約により、施設は、月額使用料さえ支払えばJASRACが管理している楽曲を自由に使用することができます」
店側にとっても、権利者側にとっても、便利な仕組みということだろうか。
「そのとおりです。ただ、包括契約には問題点もあります。
著作権管理事業者はJASRACだけではなく、他にも『JRC』や『イーライセンス』などがありますが、JASRACは圧倒的なシェアを誇っています。
ですので、施設は、JASRACとの包括契約さえ行えば、世の中にある大部分の楽曲を使用することができてしまうため、わざわざお金を支払ってまで、他の著作権管理事業者が管理している楽曲を使用しようと思わないのです。
要するに、JASRACの包括契約のせいで、他の著作権管理事業者が事業活動することが非常に困難な状況になるというわけです。
放送分野に関するものですが、今年4月の最高裁の判断により、『JASRACの包括契約は他業者の参入を妨げている』とする高裁判決が確定しました。現在、公正取引委員会において、独占禁止法違反になるかどうかの再審理中です」
JASRACから、権利者(作詞家・作曲家)への著作権使用料の分配は、どのように行われるのだろうか。
「本来であれば、JASRACは、日本全国でBGMとして使用された全楽曲の再生回数を調査し、再生回数に応じて著作権使用料を分配すべきでしょう」
だが、日本全国の全ての施設に対して報告を求めて、楽曲の利用状況を集計するのは現実的ではないのではないか。
「そこで、JASRACは、『サンプリング調査』といって、ごく一部の施設の利用楽曲を調査して、全体の利用状況を推定する方法を採っています。
しかし、近年、サンプリング調査で全体の利用状況を推定するのは不正確ではないか、ということが問題視されています。著作権使用料を適正に分配することもJASRACの重要な業務ですので、この問題は早く改善されるべきです。
たとえば、スマートフォンアプリの『SHAZAM』のような音楽認識技術をもつ機器を各施設に設置して、楽曲の利用状況を正確に把握することもできると思います」
「このように、JASRACにはいくつかの問題があり、今後の公正取引委員会の判断によっては包括契約という徴収方法自体の見直しが迫られます。
ただ、包括契約により、できる限り音楽の無断利用を防ぎ、多額の著作権使用料が権利者に還元されてきた点は否定できません。
実際、音楽CDの売上は全盛期の半分になっていますが、JASRACの著作権使用料の徴収額は、90年代よりもむしろ上昇しているのです。
『Apple Music』『AWA』『LINE MUSIC』などの音楽配信ストリーミングサービスが普及すれば、音楽CDはさらに売れなくなり、相対的に、音楽ビジネスにおけるJASRACの存在意義はますます大きくなるでしょう。
今回、JASRACが一斉に法的措置を採ったのは、このようなJASRACの存在意義をアピールする意図があったのかもしれません」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
高木 啓成(たかき・ひろのり)弁護士
福岡県出身。2007年弁護士登録(第二東京弁護士会)。ミュージシャンやマンガ家の代理人などのエンターテイメント法務のほか、IT関係、男女関係などの法律問題を扱う。音楽事務所に所属し作曲活動、ロックドラマー、DJとしても活動し、「hirock’n」名義でiTunes等にて自らの楽曲を音楽配信している。
Twitterアカウント @hirock_n
SoundCloud URL: http://soundcloud.com/hirock_n
事務所名:アクシアム法律事務所
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