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浜端ヨウヘイが語る、“大きな音楽”が生まれる場所「旅を続けるなかで新しいテーマに出会う」

2015年06月10日 20:01  リアルサウンド

リアルサウンド

浜端ヨウヘイ

 シンガーソングライターの浜端ヨウヘイが、1stアルバム『BIG MUSIC』を6月10日にリリースした。プロデューサーに江川ゲンタを迎えた同作は、ラグタイムやロカビリー、フォークといったルーツ・ミュージックから、ビートルズ的なエッセンスまで消化し、浜端らしい大らかな歌声と豊かなメロディで奏でた、まさに“BIG MUSIC”と呼ぶにふさわしい作品だ。地元の京都・鴨川から宮古島、果てはボルネオ島の原生林まで、各地を旅した経験を軸に紡ぎ出したという楽曲たちには、どんな思いが込められているのか。そして本作の制作を通じて見えた、シンガーソングライター・浜端ヨウヘイの音楽的展望とは。『BIG MUSIC』にまつわる話を、たっぷりと語ってもらった。


(参考:30歳で本格デビュー、浜端ヨウヘイが音楽を通して目指すことは?


・「ずっと丼ものが出続けるコースみたいなアルバムになった」


ーーこれまでシングルで浜端さんの音楽を聴いてきましたが、アルバムとなると印象が違ってきて、サウンド全体に奥行きや幅広さを感じることができました。今作をどんなコンセプトで制作したのか、改めて教えてください。


浜端:シングルの時から、1枚を通して聞いた際に、僕の音楽が全体的に伝えられれば……というコンセプトでやってきたんですけど、それをもっと凝縮して、より具体的に伝わるようにしたのが今回のアルバムです。ひたすら自分の音楽を詰め込んだ、ずっと丼ものが出続けるコースみたいな勢いですね(笑)。結果として、キャラクターが強い曲ばかりになりました。とはいっても、ライブではお馴染みのずっと歌い続けてきた曲が半分くらい、書き下ろした曲が半分くらいで、そういう意味ではバランスよくまとまったと思います。これまでずっとやってきたことの到達点であり、これからの出発点でもあるというイメージですね。最初はもうちょっとさらっと聞ける曲があってもいいかなと思ったんですが、結果としてベストアルバムを聞いているようなボリューム感で、聴きごたえのあるものに仕上がって良かったと思っています。


ーー全曲がメインディッシュみたいなアルバムであると。もともと200曲近いストックがあるということでしたが、そこからどういうプロセスで曲を選んだのですか。


浜端:ライブでやってきた曲を中心に組み立てていったので、スムーズに決まりました。曲順もライブに沿う感じで、冒頭から徐々に盛り上がって、そこでいったんトーンを落として、もう一度盛り上がりの曲があって、そしてフィナーレに流れ込んでいくという構成になっています。だから必然的に1枚を通して聞くと、ライブをひとつ見終わったくらいの満足感になっていると思います。


ーー今回のアルバムには、ブルース的な曲もあれば50年代のロックンロールっぽい曲もあるし、アコースティックな曲もあります。改めて浜端さんの音楽ルーツについて聞かせてください。


浜端:こういう風に並べると、僕は本当になんでもありなんやなという感じです。「BELONG-BELONG」とか「スーパーマン」、あとは「限りなく空」、「ノラリクラリ」、「大男のブルース」なんかは、ラグタイムやロカビリー、あるいはフォークといった音楽と通じていますし、一方で「群青ホライズン」とか「結-yui-」みたいな王道J-POPもあって、“俺にはこういうのもあるんだ”という発見になりました。でも、やっぱり根幹として、僕の真ん中にはビートルズがあると思います。


ーー「MUSIC!!」はまさにそんな曲ですね。


浜端:「MUSIC!!」は、ビートルズへの思いを全部出したという感覚がありますね。ビートルズの楽曲って、どんなシチュエーションにも必ず合うと思っていて、大きいことを言うようですが、そんな風に人々の暮らしとか生活の中に馴染む音楽が作れたらいいなと思っています。


・「旅先で見たものを書くのは、僕にとって揺るぎないもの」


ーー「MUSIC!!」は、浜端さんのメロディメーカーとしての良さが出ている曲だと思いました。この曲はいつ頃、作ったのでしょう。


浜端:2、3年くらい前です。会社を辞めて音楽だけでやっていくことを決心した時期で、セカンドシングルの「無責任」を書くちょっと前くらいですね。1曲目の「Starting over」もそうなんですけど、僕はこれまで“命”とか“音楽”とか“愛”みたいな、大きいテーマから逃げてきたところがあるんです。そういうのを歌うのは、ちょっと気恥ずかしくて。でも、その時期は「そんなこと言うとる場合じゃないやろ」と思って、頑張って書いたんですが、やはりやりきれる自信がなくて、なかなかライブでは出来なかった。今は頼りになる先輩やバンドメンバーがいて、ようやく形にすることができたという感じです。


ーー浜端さんの中でようやく、機が熟したわけですね。「これから自分は音楽をやっていくんだ」という宣言文のような曲でもあります。


浜端:そうですね、本当にそう思って書いた歌だったので。ボルネオで書いた「Starting over」も、僕にとっては“命”という大きなものをテーマにした新しいアプローチの曲でした。


ーー「Starting over」はどんなシチュエーションで書いたのですか。


浜端:環境問題をレポートするという招待でボルネオ島に行ったんですけど、その滞在期間中に作りました。ボルネオ島のダナンバレーという原生林の中を、夜明け前から歩き始めて、そこから二時間、ガタガタの道をバスで走って、また日が沈むまで歩いて……。日付が変わるころに寝たら、次の日はまた早朝から起きるっていうスケジュールの中で、だんだんみんな口数が減っていくんですよ。最後はみんな白目をむきながらバスに揺られている感じで(笑)。でも、夜明け前には素晴らしい光景にも出会えました。ジャングルにはキャノピーウォークっていう、10数メートルもある木の真ん中にかかった吊り橋があって、その吊り橋をわたっている最中に、夜がどんどん明けていくんですね。夜中にはずっと虫の声が大きくて、星があって、それは美しい夜なんですけど、だんだんと日が昇るに連れて、空が白んで、虫の声が小さくなっていって、今度は鳥とか動物たちの声に変わっていくんです。何かが変わっていく瞬間の光景で、これをちゃんと歌にできたら、それは“命”というものに目を向けることになるじゃないかと感じました。これまで書けなかったテーマに挑戦するきっかけになる、すごく有意義な体験で、やっぱり「旅せなあかんな」と思いましたね。


ーー浜端さんの楽曲は、訪れた土地ごとに作られるものが多いですね。


浜端:旅先とかで見たものを、写真のように切り取って書くというのは、僕にとって揺ぎないものだと思うので、旅をしながら歌を書いて、それを聞いてもらう旅をして、その旅の中でまた歌を書く、ということを続けていきたいと思っています。「旅」は大きなキーワードで、きっと僕の足が動かなくなるまではずっと旅を続けていくんでしょうね。


ーー実際の体験を通して、何かを生み出すタイプなのかもしれませんね。作ってから時間が経っている曲もあると思いますが、それぞれに思い出はありますか?


浜端:あります。どこで書いたとか、全部覚えていますよ。たとえば「BELONG-BELONG」は僕が今、暮らしている近所の焼き鳥屋さんで書いたんです。上京してきてそれほど用事もない時に、日が暮れるまで部屋にいて、夜になったら焼き鳥屋に行って、ごはんを食べさせてもらうという生活が毎日続いていて。ママから「あんたそろそろうちの歌書きなさいよ」って言われて書いた曲です(笑)。「鴨川」もそんな感じで、地元の街を出歩いた時にできた歌ですね。7曲目の「群青ホライズン」は、宮崎県の雲海酒造さんのタイアップで書き下ろしたんですけど、日向灘っていう宮崎の海をテーマにした歌です。実際に山さんの前座で宮崎に連れて行ってもらった時に、朝ひとりでジョギングして海の前に立って、その時のことを思い出したりしながら書きました。僕、海や空の曲がすごく好きなんですよ。


ーーたしかに海や空がいくつか出てきますね。空はその時々の心境によって、映すものも違うでしょうし。


浜端:そうですね。ほんまモヤモヤしてる時に見る空は濁って映ったりもするし、逆にどうしようもないほど落ち込みきった時は、すごく救われるような色にも見える。いろいろな空を思い出しますね。


ーーアルバムを作り終えた今は、空を見上げてどんな風に思いますか?


浜端:空を飛びたいですね(笑)。前は下を向いて歩いてたんですけど、今はちゃんと見上げられた気がするので。手を広げて高く飛んでいけるようなイメージです。


ーー浜端さんは開放的というか、おおらかな感じがするから、「無責任」のような繊細な曲を書いていた時代ってあまり想像がつかないんですが、それはだんだんと乗り越えてきたものでしょうか。


浜端:乗り越えたというよりは、その時代の上に立っているという感じです。今になって、すべてが糧になっているのではと思います。当時はきっと、ひどい顔をしていたと思いますよ(笑)。


・「今作のレコーディングで一発録りが好きになった」


ーー先ほど話に出ていたように、大きいテーマが歌われているのも、このアルバムの特徴ですね。こうした歌を歌えるようなきっかけは?


浜端:それはやっぱり、音楽だけでやっていくんだと決めて、環境も大きく変化したからだと思います。上京したこともそうですし、オフィス オーガスタに所属したことも、山崎まさよしさんの前座を務めるようになったことも、すべてが影響していますね。そうした環境の変化があったからこそ、歌ってもええんやぞと、背中を押されたというか。


ーー共演している熟練のメンバーによるアンサンブルも、浜端さんの歌を前に押し出していく力になっていると思います。レコーディングはどんな様子だったんですか?


浜端:基本的には、一発録りに近い状態で、そこに西慎嗣さんのギターを重ねてもらったりしています。「ラブソングみたいに」では、ヴァイオリニストの金原千恵子さんに入ってもらっていますが、これも一発録りですね。「BELONG-BELONG」と「スーパーマン」の2曲はライブハウスで「せーの」で録っていて、笑い声とかもそのまま入っています。よく聞くと、お店の電話の音が鳴っているんじゃないの?っていうところもあるんですけど、そういうのも全部含めて、宮古島の空気感の構成要素なので、あえてそのままにしています。たぶん東京のスタジオでセッションしても、この雰囲気は出なかったんじゃないかな。僕はもともと、一発撮りは間違えたりするから苦手だったんですけど、今作のレコーディングを経てからは、むしろみんなで一緒に音を出すほうが好きになりましたね。


ーープロデューサーの江川ゲンタさんとはどんなやり取りがありましたか。


浜端:リーダーシップを発揮してみんなを引っ張ってくれて、メンバーをきちんと同じ方向に向けてくれたのが素晴らしかったですね。「Starting over」の時はスタジオに入ってから「どうする、どうする」って言ってたんですけど、3回目くらいの合わせで、ちゃんと同じ着地点をイメージしながら音を出せた気がします。クリックを外れたところで鳴らすギターも、西さんと僕のギターはバッチリ揃いましたし。


ーー浜端さんとみなさんが共通して目指していた音楽というのは、言葉で表現するとどういうものでしょう。


浜端:今作では「BELONG-BELONG」のように、ほぼ一発録りの曲がある一方、「ノラリクラリ」などは、実はすごく作りこんでいるんですね。そのコントラストははっきり出したいと思っていました。そのため、録るまでにいろいろと試行錯誤をしているのですが、逆にマイキングなどの細かいところが決まれば、プロフェッショナルな方々が揃っているので、録音自体は早かったです。アコースティックギターの音色ひとつ取っても工夫を凝らしていて、そうしたことが思った以上の効果を生んだのは良かったですね。僕自身が目指していたところでいうと、今回はビートルズというテーマがあって、このギターを使うと近い音が出るよとか、この曲はジョンのこんな弾き方で……といったコツを、西さん達に教えてもらいました。


ーー目指したのはいつ頃のビートルズのサウンドですか。


浜端:僕は初期の頃、いわゆる赤盤のサウンドが好きで、先ほども言いましたが、それは暮らしのどのシチュエーションにも合う音楽だと思っていて。歌の内容ももちろんですけど、サウンド面においてもそれは言えて、鳴っているだけで体が動いてくる感覚というか、大きい意味での“音楽”という感じがします。そうやって目指したものは、最後の「MUSIC!!」という曲に全部詰め込むことができた感じで、思った以上の仕上がりになりました。


・「30代のシンガーとして等身大で歌える歌を増やしていきたい」


ーー以前のインタビューで、宮古島で一緒に暮らしている人たちや、数人のお客さんの前で歌っていたのが原点だと言っていましたが、今は多くの人の前でライブを行ったりしているので、かつてとは異なる感覚もあるのではないかと思います。


浜端:そうですね。たとえば「鴨川」とかは、僕の言いたいことはひとつも入ってない。「Starting over」もそうですけど、「だからこうしようぜ」とか、「こう思うよ」みたいなことってほとんどないんですよね。見たままをそのまま書くとか、あとは全然関係ない物語を書くとか、そういうのは山さんの前座をさせてもらう中で「こうやっていきたいな」と思えたテーマだったし、そこにちゃんと挑戦して、うまく形にできてきたと思います。


ーーさきほど、J-POP的なルーツも持っていると言っていましたが、そういう意味で“みんなが口ずさめる歌”というのは、目指していくもの?


浜端:僕はそこが大前提というか、根幹にそれがありますね。もちろん、それ以外の歌も歌っていきたいと思うんですけど、基本的にはみんなで歌える歌がいいですね。ひとりで色んなところを回っていた頃から、日本中に知り合いとか、応援してくれる人がいるし、そういう人たちがふと入ったコンビニで聴いたりとか、ラジオで聴いたり、テレビで聴いたりできるような、広く受け入れられる音楽を作りたいと思っています。山さんの前座で見てくれた人たちも、1年以上経って自分のライブで行っても、「楽しみにしてました」って言って来てくれるようなお客さんたちいっぱいいるし。早くそういう人たちのところに歌が届いたら嬉しいですね。僕が現地に行って歌うのももちろん大事なんですけど、そんな風にしてその人たちの耳に僕の歌が届くっていうのは、良い報告というか、「頑張ってるで」っていうのを見せられるひとつの手段やと思うから。そういう意味で一番挑戦したのは、やはり「MUSIC!!」で、これまでで最も大きなテーマの歌です。なにしろ「僕は音楽が好きやねんで」「いいやろ音楽」っていうだけの歌ですから。


ーーなるほど。いい意味で夢がある曲ですよね。今後、浜端さんはシンガーとして、こうした方向性を目指すのでしょうか。


浜端:そうですね、自分の思っていることを素直に吐き出すということは、これまでずっとやってきたのですが、今後はそれを超えていって、30代のシンガーとして等身大で歌えるような歌を増やしていきたいと思っています。今回、課題としたところでいうと、物語を書くことだったり、写真を見てそれを歌にすることだったり、歌に温度感を出すということですね。それと、今後はもうちょっと大人な恋愛の歌も歌ってみたいです(笑)。「ラブソングみたいに」みたいなストレートな歌もあるんですけど、結局これもね、ほんまのことを言うと女の子じゃなくて、音楽に対してラブソングを書いたという感じがあるので。そうじゃなくてもっと、大人の恋愛の曲(笑)。僕の歌はちょっと日記的な部分があったんですけど、そこからもう少し、年を重ねたなりの表現の工夫をしたいと思いますね。今回の「MUSIC!!」みたいに単純なことをでっかい声で、小さなことを大きく歌っていけるようになりたいと思います。でも、体はこれ以上大きくならないですよ(笑)。


(取材=神谷弘一/構成=松田広宣)