今シーズン初めて、ウイリアムズのバルテリ・ボッタスが表彰台に上がった。ボッタスの前を走っていたのは母国フィンランドの先輩でもあるキミ・ライコネン。速さに見合う成果を手に入れられなかったフェラーリと、ワンチャンスを逃さなかったウイリアムズ。同じポジションを争った、ふたりのカナダGPを無線とともに振り返る。
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レースを終えて表彰台に立った、ボッタスの表情は晴れやかだった。彼にとってもチームにとっても今シーズン初の表彰台なのだから、当たり前だ。
昨年あれだけ快走を見せたウイリアムズが、今年まだ一度たりとも表彰台を獲得していなかった。前戦モナコに至ってはタイヤに苦しみ、2台ともに下位に低迷するほどだった。
「タイヤのフィードバックを頼む。どのくらいライフは残っている?」
「トラクションが少し落ちてきているから、15~20周くらいだと思う」
上位勢が予選で使ったスーパーソフトタイヤで快調に走り続ける15周目に、ボッタスとレースエンジニアのジョナサン・エドルズの間で、そんな無線交信が交わされていた。
路面が粗くないジル・ビルヌーブ・サーキットで、従来よりも硬くなった今季のスーパーソフトタイヤは大きな摩耗もグレイニングもなく安定した性能を発揮。多くのチームが1ストップ作戦を想定していた。しかし、タイヤの使い方でライバルに後れを取るウイリアムズの「プランA」は、2ストップ作戦だった。
3番手を走るキミ・ライコネンが26周目にピットイン、4番手のボッタスはライコネンの動きに呼応する。28周目、ボッタスがピットに向かうタイミングで、ピットアウトしたばかりのライコネンがスピンを喫し、ボッタスのもとに労せずして3位が転がり込んできた。
ここからはボッタスとライコネンの、DRSゾーン1秒差をめぐる争いが続いた。この膠着状態が生んだのは、両者のレース戦略変更という皮肉だった。
ボッタスはフェラーリのペースを見て、1ストップで前をキープする作戦に。ライコネンは2ストップに切り替え、タイヤを気にせずプッシュする作戦に。両者の戦略は、まるっきり入れ替わった。
「最初は2ストップを予定していたけど、フェラーリのタイヤのもちが予想より良いのを見て、僕らは戦略を大きく変えたんだ。ダイナミックな変更だったけど、チームはとても素晴らしい仕事をしてくれた」と、ボッタス。
「キミは非常に良いペースで走っていたし、途中までは1ストップで走り切るつもりだった。しかしスピンをしてしまったので、2ストップに切り替えてハイペースで走り、ボッタスを捕まえる作戦に切り替えたんだ」とフェラーリのマウリツィオ・アリバベーネ代表は説明する。
しかし2ストップ作戦による「17秒」というピットタイムロスが、ライコネンに大きくのしかかった。
「このまま走り続けてくれ。いまのペースなら、ライコネンが追いつくのはレース後だ!」
ボッタスの3位は安泰、さらにエドルズは前にいるニコ・ロズベルグのブレーキが予断を許さない状態であることをボッタスに伝え、あわよくば2位を奪えるチャンスすらあると示唆した。
さすがにそれは現実とならなかったが、ウイリアムズとボッタスは1ストップでタイヤをもたせて、3位を守り切った。
ライコネンは自身のスピンについて「みんな、スピンのことはすまなかった。僕には、あれ以上どうすることもできなかった」と素直に謝った。レースエンジニアのデイブ・グリーンウッドは「くわしいことは調査中だが、こちら側の責任でもある。すまなかった」と返し、ヘアピン立ち上がり途中からの奇妙なスピンがパワーユニットの制御系トラブルによるものである可能性を含ませた。
「キミのスピンに助けられたことは確かだけど、それほど離れたところにいなかったからこそ、3位をつかみとれたことも事実だ。彼に少しでもプレッシャーをかけることが常にできていたからだ」
3位でチェッカーを受けたボッタスは、すぐに無線でチームスタッフ全員にねぎらいの言葉をかけた。久々の表彰台に駆け寄る彼らの表情も輝いていた。
これが、ウイリアムズにとってターニングポイントになるのだろうか。
「次のオーストリアでもすべてがうまくいけば、今週末と同じか、それ以上の走りができるはず。シルバーストンだって悪くないはずだ。とにかくプッシュし続けて、もっともっと表彰台をつかみとっていきたいと思っているよ」
(米家峰起)