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AKB48『選抜総選挙』は“変化の季節”を迎えた? 各メンバーの参加スタンスから考える

2015年06月09日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『41thシングル選抜総選挙』開票結果

 AKB48グループの『41thシングル選抜総選挙』は6月6日、福岡・ヤフオク!ドームで開票イベントが行われた。今年の総選挙に関して特に注目すべきは、この恒例となった一大イベントに対する個々のスタンスが、例年にもまして多様化してみえたことだろう。その兆候はまず、松井玲奈や小嶋陽菜らの「不参加」という選択にうかがえた。彼女たちは、戦いから「降りる」という選択肢が、「戦う」という選択肢と同等に存在することを、自らの不在をもって提示した。もちろん、過去にも辞退したメンバーはいたし、今回の不参加者も松井や小嶋ばかりではない。しかし、とりわけ通常なら選抜入りが確実視された松井と小嶋の軽やかな離脱は、48グループの外にも広い世界があること、どのメンバーも永遠にこの組織内で戦い続けるわけではないことを示すものだった。それは、すでにグループ外でも地歩を固めつつある二人だからこそできた行動である。総選挙を絶対的なものにしない視野を提案してみせたことは、長期的にみても大きな動きだったように思う。


(参考:HKT48指原莉乃はなぜ「頂点」に?


 また今回、すでに卒業を発表している高橋みなみを1位に押し上げようとするファンの高まりがあったことも、メンバーおよびファンの側も含めてのスタンスの多様性をうかがわせた。従来、AKB48の総選挙1位は、次回選抜シングル曲のセンターであると同時に、その先のグループの顔を託す意味合いも込められるものだった。しかし、来年以降グループにいない高橋が1位を取るとすれば、それは彼女のAKB48でのキャリアの集大成かつはなむけとしての意味を持つ。高橋の順位にまつわる盛り上がりは、総選挙にこれまでなかった機能を見出すものだった。


また、今年の選挙期間中に目についたのは、メンバーが上位を目指せば目指すだけ、ファンに「負担」をかけることになるというこのイベントの一側面を、メンバー個々が自覚したような発言の数々だった。開票イベントのスピーチでは、特にアンダーガールズ以下のメンバーがしばしば、自身の獲得順位を「素敵な順位」と表現した。それは上位を目指すこととファンに負担を強いることとの間で揺れる当事者たちの葛藤を感じさせる言葉だった。立候補者数も投票数も巨大化していく中で決定される「序列」は、その数字の意味をどう受け取ればよいのか、年を追って解釈が難しくなっていく。AKB48の総選挙が、しばしば喧伝されるほどシンプルな「戦い」ではなく、参与する人々もまたそうした悩ましさに対して超然としているわけではないことを象徴する一例だったといえる。列記したような事象の数々は、選抜総選挙というものがひとつやふたつのベクトルで解釈できるほどたやすいものでないことを示している。だからこそ、特に近年の総選挙には「祭り」という、殺伐としがちな空気を和らげるような解釈が選ばれることが多くなっているのだろう。


 一方で、16位に入り選抜を勝ち取った武藤十夢は、スピーチでその「祭り」としての見方をはっきりと否定し、上位に食い込んだメンバーがチャンスを掴むという、この総選挙のシンプルかつ重要な役割を強調してみせた。それは総選挙をステップアップの機会にしてきた武藤にとっては自然な視野なのだろう。彼女の迷いのない清々しいスピーチは、選抜総選挙を「祭り」というクッション的な言葉のみでまとめてしまわない説得力があった。このようなメンバーごとの総選挙に対する意味付けはまた、各々のグループ内での、あるいはキャリア途上での現在地を浮き彫りにするものでもある。ようやく主役の一人になる足がかりを掴みつつあるメンバーにとっては、今も昔もこのイベントは勝負をかける重要な大一番である。選抜に食い込み、あるいはトップをうかがおうとするメンバーたちの、己を前面に出す野心的なスピーチもまた印象に強い。「戦い」としての機能は、当然ながらいまだ有力なものである。


 しかし何より、総選挙はAKB48グループの「顔」が現在、どのような形で存在しているのかを指し示す場所である。今年の1~3位は、指原莉乃、柏木由紀、渡辺麻友の3人だった。形式の上ではもちろん、昨年2位だった指原が2年ぶりにトップに返り咲いたことが刻まれるべき結果である。しかし実際にはこの上位3人にとって、数字上の結果は何かを絶対的に決定づけるものではないのではないか。各人がそれぞれを認め合いながら共闘しているような姿に、そんなことを感じた。


 AKB48グループがある意味で日本を取り巻くような超巨大規模になった今、そこでトップをとることは、一組織の中で首位に立つだけの話ではなくなっている。決して小さくない影響力を持つこのグループをいかに位置づけ、維持していくのか。開票イベントでの彼女たち3人の姿勢には、そこまでを含んだ視野が備わっているように見えた。スピーチの際、それぞれに歓喜や悔しさを忍ばせながらも、3人には順位に対する執着がさほどないように見えたことが印象的だった。指原、柏木、渡辺の3人は、それぞれの仕方でアイドルに愛着を持ち、「アイドル」というジャンルに自覚的なメンバーたちである。この3人は個人のパフォーマーとしても、随所にクレバーさを発揮して各々の「アイドル」像を模索し、体現しながら現在のポジションを築いている。ただしまた、48グループの中枢メンバーとしての彼女たちは、個人の数字や序列以上に、この巨大なアイドルグループをどう担い、社会に対してどう見せていくのかを常時意識しているようにみえる。つまり、総選挙という組織の内側のダイナミズムの上では互いに戦うことにはなっているが、より長期的な目標としては、組織を背負って歩んでいくという同一の使命を自覚的に共有しているのではないだろうか。


 それは1位を獲得した指原の言葉に垣間見える。指原はスピーチで、自身のグループ内での来歴を冷静に分析したうえで、もはや現在の彼女にはそぐわない日陰者的なキャラクターを今あえて再度背負い、そんな彼女が1位をとったことの意義を宣言してみせた。それは、選抜総選挙で「指原莉乃」という個人が1位を獲得したというストーリーと、AKB48グループが全体の活動を通じて描くことのできる普遍的な夢とを見事に重ね合わせるものだった。一見、ごくパーソナルなストーリーを語っていたようにも見えたこのスピーチは、決して彼女個人のみに収斂するミクロなものではない。これまでのグループの歴史と総選挙というイベントの大きさを背負って、トップアイドルが世に向けて放った、より射程の大きいメッセージだった。


 前田敦子と大島優子が総選挙で1位を競っていた頃は、1対1という構図も手伝って否が応でも「戦い」としてのアングルが強調されていた。しかし現在の指原、柏木、渡辺の場合、あえて言えば誰が1位になったとしても、3人で背負う役割はさほど変わらない。1位という数字を誰が取るかよりも、この3人で今の48グループを背負い、有象無象の雑音の矢面に立ち、社会の中で勢いを維持するべく立ち回っていく。そんな「3人のトップ」の三者三様のバランスが確かなものになったのが、今回の選抜総選挙だった。そしてまた、逆説というべきか必然というべきか、組織内のみの順位に拘泥しない視野に立った3人だからこそ、他を寄せつけないほどの支持を受け、トップ3を獲得しえたということなのだろう。現在の48グループにとって、中心を託すことのできるメンバーが「束」として存在していることは、何より頼もしいことなのかもしれない。(香月孝史)