メルセデスAMGのルイス・ハミルトンが、完勝とも言える内容で制したカナダGP。2位でフィニッシュしたチームメイトのニコ・ロズベルグとの差は非常に僅差だった上、燃料も99%以上を使うというレースであり、決して余裕のある勝利ではなかったものの、しっかりと自らのマシンを労り、ペースを保持し、後続との差をキープしながら走行。ライバルたちに付け入る隙をまったく見せませんでした。
レースのペースを分析してみると、ロズベルグがハミルトンを抜くのは、非常に難しかったのがよく分かります。ふたりの差は非常に小さいものでしたが、ハミルトンは常にロズベルグのペースを把握し、ギャップを保つようにペースをコントロールしていたように見えます。
ロズベルグがハミルトンに勝つためには、コメントで言っているように“不意打ち”しかなかったわけですが、チームメイト同士ではなかなかそうするわけにもいかず……結果的にはハミルトンの“完勝”という形となったわけです。
3位でフィニッシュしたのは、ウイリアムズのバルテリ・ボッタスでした。昨年大躍進を果たしたウイリアムズですが、今年のパフォーマンスは昨年ほどではなく、これが今季初の表彰台。確かに今回のウイリアムズは、序盤戦と比較して戦闘力を上げてきた印象ですが、フェラーリの“自滅”がなければ、5位が精一杯だったはずです。
フェラーリは初日のフリー走行1回目と2回目で、メルセデスAMGに匹敵するロングランペースを披露していました。実際、決勝でもセバスチャン・ベッテルは、メルセデスAMGの2台と同等のペースで走行。彼は予選でトラブルが発生しQ1落ちを喫してしまい、後方からの追い上げを強いられましたが、もし予選での問題がなければ、メルセデスAMGと優勝を争っていたはず。少なくとも3位表彰台はベッテルのモノだったと言えると思います。
キミ・ライコネンも、順等に行っていれば、ボッタスの前でフィニッシュできたでしょう。ライコネンは最初のピットストップからコースに復帰したその周に、ヘアピンでスピンを喫したのが痛かった。これを見たボッタスは翌周すぐにピットインし、ライコネンの前に出ることに成功しています。
ライコネンはボッタスにすぐ追いつきますが、なかなかオーバーテイクすることができず……本来ならば最後まで走りきれるはずのソフトタイヤを僅か14周で捨て、スーパーソフトタイヤで勝負を挑む作戦に切り替えます。結局ライコネンはボッタスの背後に追いつくことも叶わずに、レースを終えてしまうわけですが、このライコネンの“2ストップ作戦”は正しかったのでしょうか?
今季のウイリアムズは、非常にタイヤに厳しい傾向にあり、多くのマシンが1ストップで難なく走り切ることができたこのカナダでも、不安を抱えていたはずです。ライコネンの攻撃から解放された後のボッタスは、タイヤを労るかのとうに、ハミルトンがロズベルグのペースに合わせたのと同じく、ライコネンとの差を見て自らのペースをコントロールしていたように見えます。そもそもピットに入れば、ライコネンは20秒近くボッタスから遅れてしまうわけですから、残り28周でその差を埋め、ふたたびオーバーテイクにチャレンジする戦略が正しかったのかどうか、非常に疑問に思うところです。
今回のカナダでは、ソフトとスーパーソフトの性能差は1周あたり0.8秒程度と言われていました。つまり、計算上では追いつくので精一杯だったはず。しかもデグラデーション(タイヤの性能劣化によるペースへの影響)は少なかったとはいえ、スーパーソフトには若干のデグラデーションの傾向が見られます。追いついても、ボッタスにチャレンジできる力が残っていたかどうか……。であるならばライコネンは、2回目のタイヤ交換を行わず、ボッタスの背後につけてプレッシャーをかけ続けた方が、表彰台を獲得できる可能性が高かったのではないでしょうか。
今回のフェラーリには、ひとつの特徴がありました。それは“ウイリアムズを恐れていた”ということ。しかもウイリアムズに“抜かれること”を心配していたわけではなく、彼らを“抜けないこと”を、必要以上に心配していたように見て取れるのです。ボッタスを抜くのを諦めピットインしたライコネンの例はそうですが、ベッテルもフェリペ・マッサに追いつくと見るやピットに入ってタイヤを換えるという行動を見せました。しかも、2回も。これには伏線がありました。
話はバーレーンGPに遡ります。このレースでは、メルセデスAMGとフェラーリが早く、両陣営の一騎打ちといった情勢でした。しかしレース終盤、ウイングを壊してピットに入ったベッテルは、ボッタスの後ろでコースに復帰することになります。このレースのフェラーリとウイリアムズのペース差は1周あたり1秒以上、デグラデーションの差も非常に大きなモノだったのですが、ついぞ抜くことができず……結局5位でフィニッシュすることになってしまっています。
フェラーリのマシンは確かにレースペースは非常に優れており、メルセデスAMGに次ぐ位置にいます。しかし、コース上でのバトルに対する戦闘力は、あまり高くないということなのでしょう。カナダでも、マクラーレンのフェルナンド・アロンソや、フォース・インディアのニコ・ヒュルケンベルグを抜くのに苦労したシーンがありました。ウイリアムズはフェラーリとのラップタイム差はもっとも小さく最高速も速いため、特にオーバーテイクが難しい相手であるということは間違いないでしょう。しかし、フェラーリはそれを必要以上に恐れ、策に走ってしまった印象を受けました。後方から追い上げなければならないベッテルにとっては最善の策と言うこともできるかもしれませんが、ライコネンには別の選択肢があったように思います。
フェラーリは、コース上でのバトルに対する強さを向上させることは急務でしょう。しかし策を重視しすぎず、もっとドライバーの腕を信用してもいいのではないかと感じられた、今年のカナダGPでした。
なお今回のレースでは、ロータスの2台が戦闘力を上げてきた印象です。メルセデスAMG、フェラーリ、ウイリアムズからはまだまだ劣っていますが、それでも4番手チームの地位を、確固たるものとしてきたようです。ただ、今回もロマン・グロージャンが周回遅れのウィル・スティーブンス(マノー)に接触してしまうなど、ドライバーのミスが多すぎるのが実に勿体ないところです。
(F1速報)