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YouTube再生回数は楽曲ランキングにどう反映? ビルボード総合チャートの新指標導入を読む

2015年06月08日 13:41  リアルサウンド

リアルサウンド

AKB48『僕たちは戦わない Type A【初回限定盤】』(キングレコード)

 国内唯一の複合音楽チャートとして知られる「Billboard Japan Hot 100」が、新たにYouTubeの国内再生回数および歌詞表示サービス「プチリリ」による歌詞表示回数から推定するストリーミング数を指標に加え、6月3日より公開している。あわせて、複数のデータの関連性を示すため、チャート解析サービス「CHART insight」をフリーミアムで開始した。


参考:ビルボードジャパンが「複合チャート」を作る意味とは? 担当ディレクターに狙いを聞く


 これまで同チャートは、サウンドスキャンジャパンによるリアルストア・Eコマース約3900店舗における パッケージ実売データをもとにした全国推定売上枚数、ニールセンが提供するダウンロード回数、プランテックの提供する全国主要エリアAM/FM32局のラジオ放送回数、PCでCDを読み込んだ際にグレースノート・メディアデータベースにアクセスするLook Up回数、NTT データの提供する楽曲とアーティスト名のツイート数の5つを指標としていたが、マーケット動向を見守るうえで、リスナーがYouTubeを通じて音楽と接触する機会も重視したいとの考えから、今回のリニューアルが実施されたという。


 6月3日に公開されたランキングのベスト10は以下となる。(参考:Billboard Japan Hot 100/2015年6月8日付け)


1位:「シュガーソングとビターステップ」UNISON SQUARE GARDEN
2位:「僕たちは戦わない」AKB48
3位:「僕の言葉ではない これは僕達の言葉」UVERworld
4位:「SUN」星野源
5位:「SISTER」back number
6位:「Beautiful」Superfly
7位:「Rally Go Round」LiSA
8位:「私以外私じゃないの」ゲスの極み乙女。
9位:「Anniversary!!」E-Girls
10位:「HER」Block B


 「Billboard Japan Hot 100」のこうした取り組みは、音楽シーンにどのような影響を与えるのか。音楽チャートに詳しいライター・物語評論家のさやわか氏は同チャートを次のように分析する。


「このチャートは売上げだけに偏らない結果が出ているのと、各指標それぞれの順位も出ているので、いろんな観点からチャート動向を分析できるのが良いですね。これまでのチャートは基本的に盤の売上げを重視しているものがほとんどでしたが、このチャートではラジオのオンエアの回数とかPCへの読み込みの数まで集計し、音楽との“接触”という新しい観点を提供しています。アメリカのビルボードはジュークボックスの再生回数の集計から始まっているチャートで、販売数を重視してきた日本のチャートに対し一日の長があるので、学べるところは多いでしょう」


 実際、このチャートからは様々なことが読み取れるという。


「たとえば2位のAKB48「僕たちは戦わない」は、ちょうど総選挙の時期だったので、そのためにみんながCDを買っていると思われがちですが、実はPCへの取り込みもちゃんとされている、つまりは音楽としてちゃんと聴かれているということが推測できます。総選挙などで販売数を伸ばすのは“AKB商法”などと揶揄されたりもしますが、この複合チャートを見ると多くのリスナーは必ずしも選挙のためだけにCDを買っているというわけではないことがわかり、そうした偏見が少しは是正される可能性もあるでしょう。一方、8位のゲスの極み乙女。「私以外私じゃないの」は、売上げは発売時からだんだん下がっていっていますが、取り込み数やYouTubeの再生回数は高いままで、これは曲自体がちゃんと支持されているということの現れだと考えられます。これまではロングヒット=ロングセールスだったのですが、YouTubeなどの再生回数やTwitterへのつぶやきを集計することで、新たなロングヒットの指標ができたといえるのではないでしょうか。また、UNISON SQUARE GARDEN「シュガーソングとビターステップ」が1位になっているのも興味深いところ。この楽曲は平均的にいろいろな指標で上位になり、結果として1位になっているのかと推測していますが、新しい音楽シーンの動向を世に示すという、チャート本来の役割が機能していることを伺わせる結果といえるでしょう」


 また、同チャートが世に浸透すると、音楽シーンやアーティストの作品にも影響を与える可能性があると、同氏は続ける。


「現在、人々による音楽の消費行動はかつてと異なり、多くの人がCDを買わなくなったものの、かといって日本ではまだダウンロードやストリーミングの時代へ本格的に意向しているわけでもなく、その結果としてYouTubeやライブなどで音楽と接触する機会が増えている状況です。にも関わらず、日本ではいまだに盤の販売数が指標としてもっとも支持されているという捩じれた構造になっていて、それを巧く利用してプロモーションに使ったのがAKB48やEXILEでした。CDの販売数が重視されるからこそ、彼らはCDの販売数を増やす施策を取り、音楽シーンで存在感を示すことができました。しかし、このチャートが浸透して音楽との接触が重視されるようになれば、特典などで販売数を重ねる必要はなくなるのかもしれません。これはアーティストや所属事務所、プロモーターにとっては喜ばしいことでしょう。しかし、レコード会社やレコード屋などのCDベンダーにとっては、ソフトウェア産業として成り立たなくなってしまうので、大きな方向転換を迫られるかもしれません。おそらくはアニメ産業などと一緒で、ネット配信で十分な利益をあげることができなければライセンスビジネス、グッズビジネス、イベントビジネスに転換していくしかないのではないかと思います」


 リスナーの消費行動が変化している今、CDの売上げを重視してきた日本の音楽シーンにとって、新たな指標となる可能性を持った「Billboard Japan Hot 100」。同チャートが浸透し、社会的に信頼性の高いランキングとして人々に重視される日も近いのかもしれない。(松田広宣)