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Galileo Galileiの音楽はなぜアニメと相性が良い? 『台風のノルダ』主題歌で見せた新境地を分析

2015年06月08日 13:41  リアルサウンド

リアルサウンド

『台風のノルダ』主題歌で見せたGalileo Galileiの新境地

 Galileo Galileiが6月10日にシングル『嵐のあとで』をリリースする。同作の表題曲は、6月5日に公開された映画『台風のノルダ』の主題歌として書き下ろしたものであり、映画・楽曲ともに早くも話題を集めている。


 というのも、同映画を手掛けるのは、ショートアニメ『フミコの告白』で第14 回文化庁メディア芸術祭優秀賞他数々の賞を受賞した石田祐康をはじめ、20代を中心とした新進気鋭のクリエイターが集結する、“ネクストジブリ”ことスタジオコロリド。そして、スタジオジブリで『借りぐらしのアリエッティ』『コクリコ坂から』『風立ちぬ』にアニメーターとして参加した新井陽次郎氏の劇場作品監督デビュー作だからである。さらに、アニメ作品と相性の良いGalileo Galileiが主題歌を手掛けているということもファンの期待をあおる要因のひとつだ。


 先日、3年ぶりの新作アニメ映画『バケモノの子』の主題歌をMr.Childrenが担当することを発表したばかりの、細田守監督の代表作『サマーウォーズ』とその主題歌である山下達郎「僕らの夏の夢」や、新海誠の監督作『秒速5センチメートル』とその主題歌の山崎まさよし「One more time, One more chance」など、社会現象的なアニメ映画のヒット作には相性の良い主題歌も同時に思い浮かぶ。そしてそれらに続くと目される『台風のノルダ』では、近年ポップシーンで活躍するバンドの中でも特にアニメと相性が良いGalileo Galileiがその境地に挑戦することとなった。先述したアーティストには、一度聴いたら耳から離れない声が特徴として挙げられる。それは個性的な声質ということだけでなく、歌声そのものが持つ力強さが、アニメの壮大な世界観を補完しているとも言えるだろう。そして、数多くの映画音楽を手掛け、世界で活躍する音楽プロデューサー・菅野よう子も惚れ込んだという尾崎雄貴の歌声は、ロックの垣根を越え、先の山下達郎や山崎まさよしらのように、長く聴き継がれるボーカリストになっていくのではないだろうか。


 Galileo Galileiとアニメの関わりは、バンドの変遷を振り返るうえでも大きなポイントだ。今回は代表的なケースを紹介しつつ、彼らの音楽性の変化を記してみたい。


 まず、彼らが初めてアニメ主題歌を務めたのは、『おおきく振りかぶって ~夏の大会編~』(MBS)のオープニングテーマであり、初期Galileo Galileiの代表曲といっても過言ではない「夏空」だ。2008年にオーディションイベント『閃光ライオット』の第一回に出場し、見事グランプリを獲得した彼らが、新進気鋭のギターロックバンドとして名刺代わりにリリースした同曲は、バンドの瑞々しい演奏と、尾崎雄貴の声が持つ少年性、アニメが描き出すひと夏の野球ドラマが見事にマッチした名曲だ。


 そして彼らとアニメの歴史を紐解くうえで欠かせないのが、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の主題歌に起用された「青い栞」(アニメオープニングテーマ)と「サークルゲーム」(劇場版主題歌)だ。同アニメは深夜帯での放送にも関わらず高視聴率を記録し、作品の舞台となった埼玉県秩父市を聖地巡礼するファンも続出。また、テレビ番組にもこぞって取り上げられるなど、社会現象に近い盛り上がりが巻き起こっていたことも記憶に新しい。同作のファンが「アニメのイメージを増幅させている」と口々に述べる「青い栞」は、バンドが拠点を北海道に戻し、ベッドルームレコーディングによって制作され、現在の若手バンドに大きく影響を与えている名盤『PORTAL』の顔とも言える曲。この作品で、彼らが前作までギターロックとしてアウトプットしていた瑞々しさは、当時のNMEチャートと並列に聴いても遜色ない、打ち込みの無機質さとバンドサウンドの温もりが同居したグローバルなグッドメロディに昇華されていた。


 再び3人体制に戻り、ニューヨークを拠点に活動するバンドPOP ETCのクリストファー・チュウがプロデュースを務めた「サークルゲーム」では、尾崎雄貴の持つ憂いと温かさが混じったボーカルを前面に出した、ポップとロックを行き来するサウンドを展開。この2曲で、アニメの描きだす非日常の温かさと、ふと現実に引き戻されたときの残酷さを表現してみせた。なお、『あの花』の映像作品は3万1000枚という驚異的な初動売り上げを叩き出し、平成23年度『文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品アニメーション部門/長編』に選出されるなど、社会現象的なヒットを記録し、バンドとアニメ、双方のファンが互いを高く評価していることからも、その相性の良さが伺える。


 バンドが3人組としてダイナミックな表現を手にした2014年が過ぎ、2015年最初のシングルとなったのは、『まじっく快斗1412』のエンディングテーマとなった「恋の寿命」だ。同曲はバンドが温め続けていた恋愛ソングで、<ああもういいや なんだったっけ 話してたら朝になって そんな風に 僕らはじゃれていたいだろ>と、靄が掛かった音像の向こうで歌われる半速球の恋愛観が、ミステリアスなアニメの主人公・快斗の魅力をさらに引き出している。


 そして今回『台風のノルダ』にバンドが書き下ろした曲「嵐のあとで」は、彼らの表題曲としては異例のバラードナンバー。アークティック・モンキーズ、The 1975等のプロデュースで世界的に知られるマイク・クロッシーは、尾崎雄貴の歌声とその音楽性の水準の高さを感じたと絶賛し、今回のオファーを快諾。ミックスを手掛けた同曲は、野外フェスの一番大きなステージが似合いそうな、広がりのある音像と繊細なドラムサウンドが特徴だ。また、この曲では、先の変化を経たことでボーカリストとして大人っぽさと少年性の両方を手に入れた尾崎雄貴が、表立った爽やかさとそこに隠された憂いを同時に表現しており、成長した姿を見せてくれている。


 若手ながら、すでに大物の風格さえ漂い始めている同バンドの新曲。映画のヒットとともにより多くの人へと届けられ、観客は改めてGalileo Galileiとアニメ映画の相性の良さを体感することになるはずだ。(文=中村拓海)