ベライゾン・インディカー・シリーズ第9戦“ファイアストン600”の決勝が、テキサス・モーター・スピードウェイでナイトレースとして行われた。イエローコーションが1回しか出ないという、ドライバーの体力的には非常に厳しい展開の中、チップ・ガナッシのスコット・ディクソンが優勝。同じくチップ・ガナッシのトニー・カナーンが2位に入り、チーム・ペンスキーのエリオ・カストロネベスが3位でフィニッシュしている。ポールポジションからスタートしたウィル・パワーは順位を大きく下げて13位フィニッシュ。佐藤琢磨はイエローコーション中にペースカーを抜いてしまったためにペナルティが課せられたこともあり、5周遅れの16位でチェッカーを受けた。
夜の7時50分過ぎにもかかわらず、サマータイムのテキサスにまだ明るさが残っている。そんな状況で248周のレースのスタートは切られた。湿度が低いためか、摂氏33度という数字ほどに暑さは感じない。
「レス・ダウンフォースで行く。終盤の一番大事な時に速さを確保するために」
そう語っていポールシッターのウィル・パワー(チーム・ペンスキー)は、スタート直後こそトップを守ったものの、8周目に予選2位だったサイモン・ペジナウ(チーム・ペンスキー)に先行を許すと、そこからはジリジリとポジションを落として行くばかりとなってしまう。
ただ、ペジナウがトップを走行したのは1回目のピットストップと2回目のピットストップの中間頃まで。この頃からチップ・ガナッシ勢の速さが明らかとなり、予選8位だったトニー・カナーン(チップ・ガナッシ)がトップに立った。
予選5位だったファン-パブロ・モントーヤ(チーム・ペンスキー)は、ピットストップが非常に上手くいき一時トップを走るが、カナーンに豪快なオーバーテイクを決められ、さらにディクソンにも続けて先行を許した。そして、モントーヤもパワー同様に後退して行った。ピット作業時にクルーがウイングの変更を間違い、予定とは逆にしてしまっていたのが、ペースダウンの理由だった。
100周目を迎える頃から、レースは完全にチップ・ガナッシ勢同士のトップ争いとなった。カナーン対ディクソン。ふたりのベテランは、熾烈なトップ争いを繰り広げた。これに決着がついたのは、レースが200周を越えてからだった。
最終的にディクソンは、カナーンを突き放して7.800秒もの大差をつけてゴール。「終盤のピットストップでも、セッティング変更が必要な、難しいレースだった。序盤は大アンダーステアで、ウイングを少しずつ立てて行くと今度はオーバーステアに変わった」とディクソン。これでディクソンは今季2勝目。ポイントスタンディングは3番手のままながらトップのモントーヤとの差は63点から43点に急接近し、2番手のパワーとの差も42点から8点に縮めた。
カナーンは開幕戦セント・ピーターズバーグ以来となる今シーズン2回目の2位である。「タフなレースだった。テキサスではいつものことだ。ペンスキーと我々で、セットアップはまったく違っていた。どちらかが正しく、どちらかが間違っているのはスタート前から明らかだった。大きなダウンフォースを選んだ僕らが正解だった。勝てなかったが、素晴らしいレースを戦えた」と、レース後のカナーンはコメントしている。
4台すべてをトップ5で予選通過させながら、チーム・ペンスキーはエリオ・カストロネベスによる3位がベストリザルトだった。ペンスキー勢の中で一番ダウンフォースを大きくしていたのがカストロネベスだったが、それでもまだ不十分だったのだ。
ポイントリーダーのモントーヤは、4位でのゴールとなった。「僕らは速かったが、ピットでウイングセッティングのミスがあった。寝かせるはずが逆の変更を施したためにオーバーステアが出て、次のピットストップまでにコース半周もリードされてしまった。あのミスがなければ勝てていたかもしれないのに……」とモントーヤは悔しがる。しかし、今日のレースでパワーが後方に沈んだため、モントーヤはポイント2位のパワーとの差を35点に広げる格好に。しかし、前述のとおりディクソンが改めてチャンピオン争いに名乗りを上げたため、チャンピオン争いはまだまだ混戦の印象だ。
ホンダ勢トップはマルコ・アンドレッティ(アンドレッティ・オートスポート)の5位。6位にカルロス・ムニョス(アンドレッティ・オートスポート)が入った。どちらも燃費をセーブする作戦で、他より1回少ない4ストップでゴールを迎えた。
佐藤琢磨(A.J.フォイト・レーシング)は16位。13位だった予選順位より3つ後ろの順位でゴールとなった。ペナルティを取られたペースカー追い越しは、ペースカーが規定以上にスピードを上げたことが原因。ペースカーの前に出るのは十分可能なはずだったが、それが狂ったためにスピードアップした結果、琢磨はペースカーを追い越すこととなってしまったのだ。このペナルティは確かに痛かったが、全体的にペースが遅かった。それはダウンフォース設定の読みが外れていたためだ。「自分たちのダウンフォースは全然足りてなかった。序盤は踏ん張り、終盤で速くなるのを目指したが、序盤からタイヤが持たず、早めのピットを繰り返す展開に陥っていた」と琢磨は状況を説明した。
次のレースは1週間後の6月14日。カナダ・トロントで行われる“ホンダ・インディ・トロント”である。
■インディカー第9戦テキサス“ファイアストン600”決勝結果
1. S.ディクソン(チップ・ガナッシ/シボレー)248周
2. T.カナーン(チップ・ガナッシ/シボレー)248周
3. H.カストロネベス(チーム・ペンスキー/シボレー)248周
4. J-P.モントーヤ(チーム・ペンスキー/シボレー)248周
5. M.アンドレッティ(アンドレッティ・オートスポート/ホンダ)248周
6. C.ムニョス(アンドレッティ・オートスポート/ホンダ)247周
7. C.キンボール(チップ・ガナッシ/シボレー)247周
8. R.ブリスコ(シュミット・ピーターソン/ホンダ)247周
9. J.ジェイクス(シュミット・ピーターソン/ホンダ)247周
10. G.チャベス(BHA/ホンダ)246周
11. S.ペジナウ(チーム・ペンスキー/シボレー)246周
12. S.カラム(チップ・ガナッシ/シボレー)245周
13. W.パワー(チーム・ペンスキー/シボレー)244周
14. S.ブルデー(KVSHレーシング/シボレー)244周
15.G.レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン/ホンダ)243周
16. 佐藤琢磨(A.J.フォイト・レーシング/ホンダ)243周
17. P.マン(デイル・コイン・レーシング/ホンダ)242周
18. R.ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート/ホンダ)241周
19. S.コレッティ(KVレーシング/シボレー)239周
20. T.ボーティエ(デイル・コイン・レーシング/ホンダ)156周
21. J.ニューガーデン(CFHレーシング/シボレー)149周
22. E.カーペンター(CFHレーシング/シボレー)147周
23. J.ホークスワース(A.J.フォイト・レーシング/ホンダ)62周
(Report by Masahiko Amano / Amano e Associati)