マクラーレンは前戦モナコGPで今シーズン初入賞。ホンダは第7戦カナダGPへ、開発トークンを使用した改良版パワーユニットを投入してきた。しかし初日はロングランを行うはずのフリー走行2回目で大雨に見舞われて21周しか走れず、不完全燃焼。迎えた土曜日にホンダを待っていたのは、予期せぬトラブルの連鎖だった。
最初のトラブルはフェルナンド・アロンソに起きた。
「金曜日の夜に、いつも行う確認作業をしていたところ、フェルナンドのICE(エンジン本体)にダメージの兆候を発見した。すぐに止まってしまうようなものではなかったがレースを失うわけにはいかないので(5基目の)ペナルティを受けない範囲でパワーユニットを交換する決定を下しました」と、新井総責任者は語った。
金曜日の夜に「夜間作業禁止令」を破ってパワーユニットの交換作業を行うこともできたが、夜間作業禁止令を破ることができるのは年2回まで。それを超えると2台そろってピットレーンスタートという重いペナルティが科せられる。マクラーレン・ホンダは、すでにオーストラリアGPで1回、夜間作業をしている。パワーユニット交換作業の時間を考えると、なんとか土曜日の朝から作業を開始してもセッション中に作業を終えることができると判断。土曜日のフリー走行3回目は、このような状況下でスタートした。
アロンソがレーシングスーツに着替えていなかったのは、ガレージで作業しているスタッフに余計なプレッシャーをかけたくなかったからなのかもしれない。アロンソの思いが通じたのか、フリー走行3回目が終了する前に作業は完了。チームは残り12分の時点でアロンソをコースへ送り出すことに成功した。ガレージで見ていた新井総責任者は、マクラーレンとホンダのスタッフを讃えた。
新井総責任者が讃えたもうひとりの人物は、アロンソだ。残り12分でコースに出たアロンソが履いていたのはソフトタイヤ。パワーユニットを交換するには、いったんリヤサスペンションを切り離さなければならず、まずはソフトでセッティングの確認をしなければならないからだ。本来なら確認を終えたあとスーパーソフトタイヤを履き替えて、予選へ向けたアタック練習をするところだったが、残り7分で赤旗が出たままセッションが終了してしまった。それでもアロンソは予選Q2へ進出。残念ながらQ3には届かなかったが、10番手で通過したダニエル・リカルドとのタイム差は0.27秒。「Q1からQ2にかけてコンマ8秒ほど速くなっていたから、きちんとセットアップを確認する時間があったらQ3へ進出できたと思う」と、新井総責任者も悔しがった。
残念なことは、まだある。フリー走行3回目の終盤、赤旗の原因となったのはジェンソン・バトン。しかも、原因はパワーユニットのトラブルだった。
「ジェンソンのほうはERSのトラブルで、本人がマシンを止めました。結果的にICEまでダメージが及んでいることがわかったので、予選はあきらめて、レースに向けてパワーユニットの交換作業を開始することになりました」
結果的に2台ともICEを交換、しかしトラブルの原因は、それぞれ違っていた。また、トラブルの原因は今回トークンを使用したことには関係ないと新井総責任者は断言した。
「まだ詳しい原因は特定できていないが、パーツ固有の問題のようだ」
つまりパワーユニットの基本設計に問題があるわけではなく、かつ今回トークンを使用した改良に問題が出たわけではない。だからこそ新井総責任者は「本当に残念です」と大きく肩を落とした。
(尾張正博)