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人口減少時代のモデル、夕張市「コンパクトシティ計画」 20年かけ住民集約実行中

2015年06月08日 06:00  キャリコネニュース

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北海道・夕張市は、日本で初めて財政破綻した地方自治体。負債額は353億円にものぼる。その市を率いるのが、2011年当時に全国最年少の市長となった鈴木直道さん(34歳)だ。2015年6月4日放送の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)は、人口減少を見据えた街づくりを行う鈴木市長を紹介した。

鈴木さんは夕張の出身ではなく、もとは東京都の職員。2008年、財政破たんで職員が減った夕張市に応援として派遣され、2年2カ月働いた。派遣期間中、ボランティア活動などで積極的に市民のなかに入って行った鈴木さんは、夕張の仲間から熱い信頼を寄せられるようになっていた。

最盛期には12万人いた人口も1万人を割る

市長選への出馬を要請した荒館康治さんは、鈴木さんをこう絶賛する。

「2年間突っ走っていく姿を見ていると、彼の発想力、行動力がすごい。僕らの中ではピカイチだった」

当時29歳の鈴木さんは、周囲の期待に迷いながらも「迷うということはやりたいってこと」と出馬を決意。2011年の市長選で見事当選を果たす。

夕張市はかつて映画「幸せの黄色いハンカチ」でも有名な炭鉱の町として栄えた。閉山によって労働者たちが住んでいた団地はほとんどが空き家になったが、住人が1人でもいれば市は水道などのライフラインを維持しなくてはならない。

年間2億円近い負担があり、最盛期には12万人いた人口も1万人を割っている。更に全国トップクラスの高齢化率で人は減るばかりだ。

これに対し夕張市は「コンパクトシティ計画」を打ち出し実行中だ。広く分散している空き家の多い住宅を、市の中心に20年かけて集約。市役所や商店を一か所に集めることで市民は暮らしやすくなり、市は維持管理費を削減できる。

新しい公営住宅には子育て世代の入居も進め、高齢者と子どもたちが共に暮らす地域社会を目指している。4年で207世帯が引っ越し、人口減少時代のモデルとして全国の自治体の注目を集めている。

吊し上げにも「子どもの時代にはいい形になる」と説明

一見良いことばかりのようにも見えるが、縮小される地域からは当然反発がある。鈴木さんは「新しい地区への引っ越しは住民が納得したうえで」を最低条件に、根気強く時間をかけて住民と話し合いを続けている。

財政破たんによって行政サービスの負担は住民に大きくのしかかり、東京都と比べて住民税は500円高く、ゴミ出しは有料、下水道代は2倍以上だ。鈴木市長は「ご迷惑をおかけしている」という意識で「疑問には市長がいつでも説明に行く」という制度を設けている。

いつでも市長を呼べるので、最初は吊るし上げのために呼ばれたという。当時の経験を、鈴木さんはこう振り返る。

「3時間も4時間もずっと『これはどうなっている』という話になるが、1時間半ぐらい怒鳴っていると疲れてくる。やがて『お前も大変なんだな』という話になった」

説明に耳を傾けてくれるようになり、「今は我慢してもらいますが、子どもの時代にはいい形になります」と言うと「納得いかない」とは言われたが、呼び出しは来なくなった。最初は反発していた住民も、丁寧に説明する鈴木市長の姿勢に納得し、新しい公営住宅に移りつつある。

月収は26万円。2期目は無投票で再当選

「なぜ都の職員から夕張市長になろうと思ったか」という村上龍の質問に、「東京都職員は16万人いる。大きな組織の小さな歯車としてやりがいはあったのですが」と前置きし、胸の内をこう明かした。

「夕張では必要とされた。自分が生きていて、存在を認められ必要とされるのは、あるようでないことです。市長にならないとできないこと、やりたいことがあった」

2期目の市長選は他に立候補者がなく、無投票で再選が決定した。市長の月収は26万円。重責の割に低い報酬だが、それが他に候補者の立たなかった理由ではないだろう。若いと言っても頼りなさは微塵も感じない鈴木市長に対する信頼、この人に任せようというはっきりとした市民の意思を感じた。(ライター:okei)

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