超低速の市街地コースであるモナコから、F1の舞台はカナダ・モントリオール、サーキット・ジル・ビルヌーブへと移って参りました。一見して全く特性の異なるコースのように思えますが、ストップ&ゴー、そしてミュー(摩擦係数)の低い路面と似た要素も多く、持ち込まれたタイヤはソフトとスーパーソフトという、モナコと全く同じ組み合わせです。このふたつの“柔らかい”タイヤをいかに上手く使うかが、ここカナダを攻略する上では非常に重要。現に、これまでの歴史の中でも、タイヤが優劣を分けたという例が多いのが、カナダGPなのです。
さて、今年のカナダGPはどういった展開になるのか? 初日フリー走行の結果から、予想をしてみることに致しましょう。
フリー走行2回目(FP2)は、セッション開始直後こそドライコンディションで行われていたものの、開始後30分ほど過ぎた頃からバケツをひっくり返したようなスコールが襲来。この降雨はある程度予想されていたため、各チームはフリー走行1回目(FP1)でもソフトタイヤを履いて、精力的に走行を重ねました。なので今回は、この両方のセッションの結果から、勢力図を分析してみることにします。
結果から言えば、今回も先頭を争うのは、やはりメルセデスAMGとフェラーリの2チームになりそうです。ただ、両者の走行プログラムが違ったためか、単純な比較をしにくく、優劣の判断は頭を悩ませるところです。
まずフェラーリの2台は、FP1でソフトタイヤを履いてロングランを行っています。その時のペースはセバスチャン・ベッテル、キミ・ライコネン共に1分19秒前後で揃えています。デグラデーション(タイヤの性能劣化によるタイム下落の影響)の傾向もまったく見えず、逆に周回数を重ねて燃料が減っていくに連れ、ペースが上がっていきました。一方のメルセデスAMGは、ルイス・ハミルトン、ニコ・ロズベルグ共に速いラップ(1分16~17秒台)と遅いラップ(1分23~24秒台)を交互に繰り返す走行。両チームのプログラムは全く異なっていたようです。
ただセッション序盤、ベッテルもメルセデスAMG同様の速いラップと遅いラップを繰り返す走行を少し行いました。この時の速さは、メルセデスAMGと互角。この点を見る限りでは、両者の戦闘力は非常に接近していると言えそうです。
FP2では最初の30分だけとは言え、両者ともスーパーソフトタイヤを履いて連続走行を行っています。この時のペースは、フェラーリの方がメルセデスAMGよりも0.5~1秒ほど速いものでした。対するメルセデスの2台は、ペースはフェラーリに劣るものの、逆にデグラデーションが非常に小さく、ハミルトンに至ってはほぼ“ゼロ”と言ってもいいものでした。シーズン序盤は“タイヤに厳しいメルセデスと、タイヤに優しいフェラーリ”という印象でしたが、今回はその傾向が逆転している印象です。ただ、ひとつ分からないのはこの時のライコネンのペースです。ライコネンだけがソフトタイヤでのロングランを実施。そして、ベッテルやメルセデスAMGよりも速いペースで走っていました。単に燃料搭載量が少ないだけならばいいのですが、同じような搭載量だった場合、ソフトタイヤを多用した方が、決勝では有利になる可能性があります。
燃料搭載量やプログラムが分かりませんが、一発のアタックこそいつものようにメルセデスAMGに分があるとはいえ、決勝のペースはフェラーリ優勢、しかしデグラデーションはメルセデスAMGの方が小さい……そんなことが言えるかもしれません。今回メルセデスAMGのふたりのドライバーは、「フェラーリは危険な存在」と警戒しています。さて、どんな結果が待っているのか? いずれにしてもパワーユニットをアップデートしてきたというフェラーリが、メルセデスAMGとの差を詰めてきていて、結末を予想するのは現時点では非常に困難、という状況です。
後方に目を転じてみますと、今回上昇傾向著しいのはロータスです。ロータスはFP1でもFP2でも、ロングラン、1発アタックともにウイリアムズを上回る勢いです。今回は完全な3番手チームという印象。ただ、これまでもロータスはかなりのマシンパフォーマンスを秘めていたにも関わらず、決勝でマシントラブルやアクシデントに見舞われ、結果を残すことができていませんでした。今回はしっかりとポイントを持ち帰りたいところです。
モナコで苦戦したウイリアムズは、ここカナダでは4番手というところ。昨年ほどではありませんが、やはり高速性能が求められるコースでは、速さを見せてきます。これに続くのはモナコでセルジオ・ペレスが光る走りを見せたフォース・インディア。ペレスのFP2でのロングランは、特に安定して見えており、決勝での我慢強い走りに自信を見せるペレスの良さが発揮されるレースとなる……かもしれません。
レッドブルとトロロッソのルノー製パワーユニット搭載チームは、今回苦戦している模様。すでに年間で使用可能な最後のパワーユニットを投入してしまっているレッドブルのダニエル・リカルドとダニール・クビアト、そしてトロロッソのマックス・フェルスタッペンは、なんとかエンジン交換を行わずにこのレースを乗り切りたいところで、パワーが求められるカナダでの苦戦は必至でしょう。
彼らよりも今回は、マクラーレン・ホンダの方が速そう。FIAの発表によれば、エンジン本体は今回新しいモノを投入していないホンダ。しかし、ターボチャージャーとMGU-Hに4基目を投入しました。これらのコンポーネントに、トークンを使ったと予想できます。この効果か、ベストタイムは目立つものではありませんでしたが、特にFP2での連続走行ペースは、フォース・インディアをも凌ぐものでした。事前のコメントでは、ドライバーが「カナダでは厳しい」と発言していましたが、このペースを見る限りは、期待して見ていても良い気がしています。
上位争いこそメルセデスAMGとフェラーリの2強争いになりそうですが、その後方はメルセデス製パワーユニットチーム対マクラーレン・ホンダという構図か? タイヤはソフトもスーパーソフトもデグラデーションが非常に小さいようで、その交換のタイミングを見極めることが重要と言えそうです。