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Mr.Childrenはいま何を目指すのか? 全国ツアーと最新アルバムが示した可能性

2015年06月06日 13:21  リアルサウンド

リアルサウンド

2015年のMr.Childrenが目指すもの

 今年3月から6月にかけて行われた約2年ぶりの全国ツアー「Mr.Children TOUR 2015 REFLECTION」、そして、前作『[(an imitation) blood orange]』以来、約2年7か月ぶりのオリジナルアルバム『REFLECTION』のリリース。これらの活動においてMr.Childrenは数多くの新しいトライを行った。本稿では、その意図と成果を検証してみたいと思う。


 最初のアクションはシングル『足音~Be Strong』のリリースだった。ドラマ「信長協奏曲」の主題歌として制作されたこの曲は「もう怖がんないで 怯まないで 失敗なんかしたっていい」というフレーズが印象的なロックバラード。何と言っても注目すべきは、この曲がバンド史上初のセルフプロデュース作品だということだろう。ご存知の通りミスチルは、デビュー以来、小林武史氏のプロデュースのもとで数多くのヒット曲を生み出してきた。ここ数年は小林氏自身もステージにも上がり、第5のメンバーというべき存在だったわけだが、彼がミスチルの制作から離れるというのは、これまでもっとも大きな変化だと言っていい。


 ドラマ「信長協奏曲」の主題歌発表時、『足音~Be Strong』に関して桜井和寿は、「このドラマの背中を押したくて また自分達にも、新しい風を吹かせたくて気負い過ぎていたのでしょう。。何曲作っても納得できなくて、何度も何度も手直しして、やっと『これだ!!!』って曲が完成しました。」


 とコメントしているが、この言葉からも“新しいミスチルを表現したい”という並々ならぬ決意が伝わってきた。実際、『足音~Be Strong』はこれまでのミスチルとは一線を画す楽曲に仕上がっていたと思う。軸になっているのは、ギターを中心としたバンドのアンサンブルとエモーショナルなボーカル。そう、彼らはこの曲をきっかけにして、ロックバンドとしての生々しさを取り戻そうとしたのだと思う。


 そのスタンスは全国ツアー「Mr.Children TOUR 2015 REFLECTION」にも反映されていた。まず特筆すべきは、このツアーのセットリストがニューアルバム『REFLECTION』を中心に組まれていたこと。筆者が観させてもらった5月28日(金)の横浜アリーナ公演では、アンコールを含んだ全22曲の中、じつに13曲が『REFLECTION』の収録曲。その大半はライブで初めて披露される曲という、攻めの姿勢としか言いようがない内容だったのだ。このツアーの趣旨について桜井は、MCのなかでこんなふうに説明していた。


「レコーディングを2年間くらい、ずっとやっててね。曲ができるたびに“早く聴いてほしい”と思って、やっとこの日が来たよ!」「新しいアルバムの曲をお届けしたいと思ってます。聴いたことのないメロディだったり、“歌詞、何て言ってるかわかんない”ということもあるかもしれない。“ツマンナイー”ってならないように万全の準備をしてきました。ときには聴覚を、ときには視覚を、ときには嗅覚を研ぎ澄ませて、僕らのオッサンくささではなくて、人間くささを感じてもらえたらと思っています」


 この発言が示す通り、新曲を披露する際には映像、照明を駆使しながら、その世界観を表そうとしていた。ライブ本編のラスト7曲がすべて新曲(!)という振り切った構成だったせいもあり、盛り上りに欠けるのでは?と感じる場面もあったが“新しいミスチルを見せる”という意思は貫徹できていたし、ライブの完成度自体はかなり高かったと思う。何よりも印象的だったのは、メンバー4人の楽しそうな表情、そして、個々のプレイヤビリティを存分に活かしたバンドサウンドだ。サポートキーボーディストとしてSunnyが参加していたが、ライブの中心はあくまでも4人の音とアンサンブル。ここ数年のミスチルのライブはキーボード、ストリングのサウンド、いわゆる“同期もの”の音がふんだんに取り入れられ、ポップスとしてのクオリティはきわめて高いものの、ロックバンドとしてのダイナミズムに関してはやや物足りない場面もあった。個人的には「4人だけのミスチルによる、もっと生々しいライブを観てみたい」と感じることも多かったが、今回のツアーはその期待にも十分に応えるものだったと思う。また、いつになく笑顔が多く、開放的な雰囲気も強く印象に残った。


 ツアー最終日(6月4日/さいたまスーパーアリーナ)に発売されたアルバム『REFLECTION』のリリース形態にも新たな試みが取り入れられている。注目すべきは、2013年の初めから始まったレコーディング期間中に制作されたすべての楽曲(23曲)が収録された{naked}(MP3(320kbps)+ハイレゾ(96khz/24bit)それぞれの音源で収録されたUSB)。レコード会社の資料によるとこの形式は「“すべてのMr.Childrenを聴いて欲しい!!”というバンドの願いを実現すべく、CD収録可能時間(約79分)をはるかに超えた全23曲(111分)を『1枚のALBUM』として収録する方法を模索し、辿り着いた」ということだ。14曲を厳選した{Drip}(CD)もリリースされるので、ファンは自分のリスニング環境などに合わせ、好きなほうを選ぶこともできる。日本を代表するスーパーバンドであるミスチルの可能性を模索する姿勢は本当に大きな意味があると思う。


 Mr.Childrenは7月18、19日の福岡ヤフオクドームを皮切りに、9月18、19日の京セラドームまで続く「Mr.Children Stadium Tour 2015 未完」(全10会場16公演)を開催する。約2年7か月にわたり、自らの新たな音楽の可能性を探求し続けたミスチル。今回のアリーナツアー、アルバム『REFLECTION』、そして、この後に行われるスタジアムツアーという一連のアクションによって彼らは、新しいMr.Childrenの在り方を体現することになるはず。新曲「未完」のなかで桜井は「さぁ行こうか 常識という壁を越え」「未来へ続く扉 相変わらず僕はノックし続ける」と歌っている。この曲はアルバム『REFLECTION』を象徴していると同時に、現在の4人のモチベーションをもっとも強く反映しているのだと思う。メジャーデビューから20数年が経過した現在も、音楽マーケットの変化に対応しながら、刺激的なトライアルを止めないーーそのアティチュード自体が、2015年のMr.Childrenの魅力なのだろう。(文=森朋之)