トップへ

居酒屋チェーン「庄や」が労基法違反――時間外労働「月90時間」はアウトなのか?

2015年06月06日 12:11  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

居酒屋チェーン「庄や」で働く社員に月90時間を超える時間外労働をさせていたとして、庄やなどの外食チェーンを展開する「大庄」と店長ら2人が5月下旬、労働基準法違反の疑いで書類送検された――。


【関連記事:18歳男子と16歳女子 「高校生カップル」の性交渉は「条例違反」になる?】



このように報じたのは、産経新聞の記事(5月28日付)だ。それによると、大庄は2013年10月、「庄や 有楽町店」で調理を担当していた20代の男性社員に計93時間、欧州料理店「マ・メゾン 小平店」でも調理担当の40代の男性アルバイトに計90時間の「時間外労働」をさせていた疑いがもたれている。



東京労働局が2013年9月に監督調査を実施し、是正勧告をおこなった。しかし、改善が見られなかったとして、同年12月に本社と店舗への強制捜査に踏み切ったのだという。



今回の産経新聞の記事の見出し(ウェブ版)は、<「庄や」居酒屋バイトに時間外労働90時間 チェーン展開、本社など書類送検>というものだ。これだと、バイトに「月90時間」の時間外労働をさせると「法律違反」になってしまうようにも見える。



だが、本当にそうなのか。月90時間以上の残業をしている労働者は少なくないとみられるが、すべて違法なのだろうか。労働問題にくわしい波多野進弁護士に聞いた。



●「36協定で定めた時間を超えて時間外労働をさせていた」


「法律上、会社は、労働者に法定労働時間の『週40時間』を超えて労働させることが禁止されています(労働基準法32条)。



週40時間を超えて、時間外労働をさせるには、労働者の過半数を代表する者などと書面による協定を結ぶ必要があります(労基法36条)。これを『36協定』といいます。



36協定が結ばれていないにも関わらず、労働者に時間外労働をさせていた場合、労基法違反になります」



波多野弁護士はこのように述べる。



「また、36協定が結ばれていたとしても、下記のようなケースでは、労基法違反となります。



(1)時間外労働が、36協定で定めた時間内に収まっているが、残業に見合うだけの時間外割増賃金を支払っていなかった


(2)時間外労働が36協定で定めた時間を超えていた」



弁護士ドットコムニュースが東京労働局に確認したところ、今回のケースは、(2)にあてはまることがわかった。また、現在ではすでに、同社の(2)の問題は改善されているという説明があった。



●「健康被害や過労死が起きてもおかしくない状況にあった」


それでは、仮に36協定で定められた時間外労働時間が「100時間」だったとしたら、今回のケースは問題なかったのだろうか。



「そうとは思いません。今回のケースでは、時間外労働がそれぞれ月90時間と93時間でした。



これらは、脳・心臓疾患の労災認定のための基準や、精神障害の認定基準の判断に際しての指標をオーバーしています。(前者はおおむね月80~100時間程度、後者も月100時間程度)。



労働者は当時、いつ健康被害や過労死にあっても、おかしくない状況だったといえるでしょう」



今回のように書類送検にまで至るのは、よくあることなのだろうか。



「労基法違反で強制捜査がおこなわれたり、書類送検されるというのは、件数でいえば少ないと思います。



時間外割増賃金の未払いなど、労基法違反があったとしても、まずは指導や是正勧告がおこなわれます。そして、会社から是正の報告をさせながら、労働基準監督署が状況を確認し、改善されたと判断できたら、そこで終わるのが通常だからです。



今回は、指導や是正勧告が、何度か積み重なっても改善されなかったことから、書類送検にまで至った可能性が高いと思います」



今回のケースにかかわらず、長時間労働やサービス残業が当たり前のようになっている企業があるというが・・・。



「会社側は、



(a)サービス残業をおこなわせることは労基法違反になる


(b)労働者に犠牲を強いることは不当なことである


(c)最悪の場合、死にも繋がる重大なことである



という認識を持つべきでしょう」



波多野弁護士はこのように述べていた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
波多野 進(はたの・すすむ)弁護士
弁護士登録以来、10年以上の間、過労死・過労自殺(自死)・労災事故事件(労災・労災民事賠償)や解雇、残業代にまつわる労働事件に数多く取り組んでいる。

事務所名:同心法律事務所
事務所URL:http://doshin-law.com