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嵐・相葉雅紀の演技が評価を高めている理由とは? 『ようこそ、わが家へ』好調の背景を読む

2015年06月06日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『嵐はなぜ史上最強のエンタメ集団になったか』

 嵐の相葉雅紀が主演を務めるドラマ『ようこそ、わが家へ』(フジテレビ系)が、初回放送から毎週10%を越える高視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)をキープし、俳優としての相葉に改めて注目が集まっている。同作は「ストーカーの恐怖」と「会社の不正」に立ち向かう倉田家の姿を描いた、サスペンスタッチのホームドラマだ。


(参考:嵐の5人はどう信頼関係を築いたか


 相葉が連続ドラマの初主演を果たしたのは、2009年放送の『マイガール』。嵐のメンバーの中ではもっとも遅かったが、ここにきて『ようこそ、わが家へ』がヒットし、俳優としての評価が高まったのはなぜか。本稿ではその理由を探ってみたい。


 相葉は、1997年放送の『ぼくらの勇気 未満都市』(日本テレビ)でドラマデビューを果たしており、同作で松本潤が気弱な少年・モリを演じたのとは対照的に、少年グループのリーダーの下で威張るアキラ役を演じていた。書籍『嵐はなぜ史上最強のエンタメ集団になったか』に掲載された佐野華英氏のコラムによると、当時の相葉は、松本や二宮和也と同じく事務所から“役者推し”をされていたという。翌98年には近藤真彦主演の『ドンウォリー!』(フジテレビ)や、少年犯罪を扱った裁判ドラマ『少年たち』(NHK)に出演していたことからも、それは伺えるだろう。


 しかし、2004年より『天才!志村どうぶつ園』に単独でレギュラー出演し、バラエティー番組に活路を見出したこともあってか、松本や二宮のように俳優として抜きん出た実績を残してきたわけではなかった。『マイガール』では、ある日突然、幼い娘の父親となった青年役を演じ、ハートウォーミングなキャラクターは相葉のほのぼのとした気質とマッチしていたものの、代表作と呼べるほどの作品にはならなかった。続く『バーテンダー』(2011年/テレビ朝日)、『三毛猫ホームズの推理』(2012年/日本テレビ)、『ラストホープ』(2013年/フジテレビ)では様々な職業の役柄を好演したが、いわば当たり役を“探っている”との印象も強かった。


 一方、今回の『ようこそ、わが家へ』では、多少のぎこちなさはあるものの、気弱な青年がストーカーから家族を守るため、次第に強くなっていく様子を熱く演じており、ファンからも評判が良い。これまでの作品では相葉の繊細で優しい一面にスポットを当てるような作品が多かったが、むしろ精神的な強さを相葉の中に見いだそうとしたところが、今作の画期性であり、スマッシュヒットに繋がった要因ではないか。


 そこで連想するのは、2014年に行われた嵐のハワイツアーの模様を収めた映像作品『ARASHI BLAST in Hawaii』における、ドキュメンタリー映像内での相葉の発言だ。相葉は嵐結成から10年前後が経ち、グループが本格的なブレイクを迎えていた頃、目まぐるしく過ぎていく日々に焦りを覚えていたという。「ものすごく自分の中のスピードがあがって、本当に生き急いでいるみたいになっちゃっているときがあって。毎日、刺激的なところに立っていて、楽しいんだけど、精神的には出す一方だったから。入れるものがなくて、このままじゃヤバいかもなって思っていた」と、過剰なアウトプットに疲弊していたことを明かしている。しかし、11年、12年と年月を重ねることにより、そうした焦りは次第に消えていったそうだ。


「なんとなく自分の中でペースを掴めるようになったというか。それは大きいかもしれない。いまはすごく気持ちにゆとりがあるというか、そのなかでちゃんと仕事に向き合えるし、追いかけられるんじゃなくて、追いかけることができる。(中略)それは仕事の内容どうこうじゃなくて、自分の中の精神的なものなんだけど」と語る彼の顔には、精悍ささえ漂っていた。


 相葉は、歌が抜群に巧いわけでもなければ、人並みはずれてダンスに秀でているわけでもない。演技に関しても、天性のアクターとは異なるだろう。そのうえ、2002年と2011年には気胸を患うなど、身体も強いほうではない。だからこそ、相葉の魅力はすぐには伝わりにくく、遅咲きになった部分もあるだろう。しかしながら、嵐の一員として必死に仕事に向き合った日々は、彼を確実に成長させ、精神的にたくましい男へと変えたに違いない。


 『ようこそ、わが家へ』が人々の心を掴むのは、ごく普通の、どちらかといえば華奢な青年が、大事な人を守るために戦おうと決意して強くなっていく姿が、相葉がアイドルとして成長してきた軌跡に重なり、勇気を与えられるからではないか。30代となり、精神的なタフネスさを備えた相葉は、同作でどこまで化けるのか。次回放送を楽しみに待ちたい。(松下博夫)