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怒髪天はなぜいつも“想像の斜め上”を行くのか? 主催&出演イベントから独自スタンスを考察

2015年06月05日 19:31  リアルサウンド

リアルサウンド

怒髪天

 今の日本の音楽シーンにおいて、怒髪天ほど異彩を放っているバンドはいないのではないだろうか。“JAPANESE R&E(リズム&演歌)”を称する音楽のみならず、発言もやることも他のバンドとは一味違う。想像の斜め上を行っているのである。そんなつかみどころのない存在を象徴するイベントが2週続けてあった。初夏にふさわしく汗ばむ陽気の5月の日曜日、暑苦しくもゆるいおっさんたちのお祭りである。


(参考:怒髪天・増子直純が明かす31年目の決意「言い訳は通用しない。そういう場所でいよいよ勝負したい」


■2015年5月17日〈大怒髪展 2015 “歌の歓楽街”〉


 昨年春、タワーレコード渋谷店で行われた展示会は続編として今回、渋谷TSUTAYA O-EAST&TSUTAYA O-WESTでの2会場を使い、“ライブ+α”のイベントへと規模が拡大された。さまざまな趣向が盛り込まれた、なんでもありの内容は元より、オフィシャルサイトにて事前にアップされたchan-saka(坂詰克彦)直筆のタイムテーブル。手作り感満載の香りにイヤな予感しかしない… もちろん、期待を込めた良い意味でだ。


 会場には〈大怒髪展〉ののぼりと大きな垂れ幕。よく見ると、去年使用したものに、先頃リリースされたコンピレーションアルバム『怒髪天 酒唄傑作選 ~オヤジだョ! 全員酒豪~』ポスターが文字を隠すように貼られているだけような… 。O-EAST 2Fには写真展『石井麻木の怒髪展』、過去から現在に至るまでの貴重な写真が飾られている。本来なら「あの頃は~」なんて、いろいろと思い出すものだが、今とほとんど変わってないその姿に、ブレない一途なバンドの生き様を感じる。


 O-EASTのサブステージ“煎茶ステージ”に揃いのオーバーオール姿で登場した“怒髪天アコースティックサービス”でイベントはスタート。3年B組宿六先生、水戸黄門、北島三郎…、小ネタとモノマネをしっかり挟み込んでくるのはさすがとしか言いようがない。どこかアクの強さが目立つバンドではあるが、個々の演奏技術とアンサンブル、音楽的な引き出しの多さを実感。祭囃子からランバダまで、笑いを誘いながらも、聴かせる要素はしっかりと。ごまかしの効かないアコースティック編成だからこそ知ることの多い、バンドとしてのレベルの高さである。


 その後、休む暇なくフル稼働のメンバー。増子直純はO-EASTのGEEEN BAR“花林糖広場”で名古屋の名店・ユウゼンの名物「あんかけスパゲティ」の実演販売を。O-WESTの“マカロンステージ”ではアコースティックな弾き語りを主体としたライブ。清水泰次は、松原浩三(MILK&WATER)とのユニット“グリーンハイツ”で休日昼下がりの公園を思わせるゆったりまったりの歌を聴かせる。上原子友康は、上田建司とのユニット“MOIL&POLOSSA”、NAOKI(SA)と佐藤タイジ(THEATRE BROOK)とともに“フォークソング部”として出演。そして坂詰克彦は、菅波栄純(THE BACK HORN)を聞き手に迎え、コヤマシュウ(SCOOBIE DO)曰く、“甘噛み”な、答えになっていない人生相談を。かと思えば、EAST 2Fフロア、日も傾く夕暮れをバックにギターで熱唱。客側からは逆光でほとんど見えなかったのは、演出だったのか予想外だったのか…。どちらにせよ、いろいろ“持ってる”人である。弾き語りは申し分なく、中年男の歌としてグっとくるものがあった。メンバー各自がやりたいことをやりたいようにやる、これぞ怒髪天らしい、なんでもありのゆるい内容だ。


 メインステージのO-EAST“大福ステージ”では、増子曰く「後にやりたくないバンド、2TOP」という、SAとSCOOBIE DOが熱いステージを繰り広げる。タイトなビートのパンクロックと、うねるグルーヴを響かせるファンクロック。硬派な両バンドは怒髪天の方向性とは異なるが、「“仲間のような”じゃねえ、仲間だよ」と増子に言われたことを明かすシュウ(SCOOBIE DO)のMCに、バンドの横のつながり、人望の厚さを垣間みる、このイベントの意味を感じる一幕でもあった。


 そして、怒髪天に欠かせないもの、酒である。O-WEST入り口には“振る舞い酒”がある。ステージ進行の被りはほぼないのだが、隙間のないタイトなタイムテーブルのため、すべて観ようとするのは大変だ。だが、酒を片手に自由きままに、まったりと2会場を行き来する幅広い来場者に、このゆるいイベントらしい光景を見た。


 最後を飾るのはもちろん、怒髪天のステージだ。「酒燃料爆進曲」「押忍讃歌」と序盤から盛り上げ、「トーキョー・ロンリー・サムライマン」での女王・八代亜紀の登場に会場全体が沸く。まさに〈昭和のメロディー道連れに 平成の風を肩で斬る〉ような八代&増子のデュエットは、声の相性ともに意外?にもバッチリである。カトウタロウ(Gt.)と奥野真哉(Key.)をサポートに迎え、会場一体のフリつき大合唱の『雨の慕情』。「八代さんとの共演はボーカリストとして苦行ですよ」「無粋な者は引っ込みます」といいながらも、イントロに合わせて「歌は世につれ世は歌につれ、昭和が生んだ演歌の女王・八代亜紀さんが今宵、大怒髪展のために歌います、曲は『雨の慕情』」と浜村淳風の曲紹介ナレーションをしっかり務めてからはけていく。さすが増子である。


増子「子どもの頃から聞いてます!」
八代「子どもの頃?!」
増子「大人になってから聞きました!(汗) 最近ですもんね!!」


 誰もが知る名曲「舟歌」で演歌の神髄を見せ、再び増子とのデュエット「Fly Me to the Moon」。「いやぁ、今年も終わった、いい年だったねー、来年もよろしくねー」演歌の女王降臨による壮大な年末感で大団円を迎え、バラクーダのカバー「日本全国酒飲み音頭」、バカ騒ぎの〈酒が飲める 酒が飲める 酒が飲めるぞ!〉大合唱でイベントは幕を閉じた。


 余談だが、この日同じく渋谷のクラブクアトロでは交友の深い、ザ・コレクターズのワンマンライブが行われていた。あちらは17時スタート。怒髪天のステージは19時10分~だった。終演後にクアトロからO-EASTへ来た来場者がどれほどいたのか解らないが、この被らせない細かい配慮に、加藤ひさしも「増子は良いヤツだよ」と自身のポッドキャスト番組で語っていた。


■5月24日〈ハロー西荻〉


「普通はこういう仕事してるとどこ住んでるとか言わないのに、“西荻住んで25年”とか言っちゃってるからね」(増子)


 ファンにとっては、“聖地”としてお馴染の街、西荻窪。この日は地元のお祭りイベント〈ハロー西荻〉への出演、高井戸第四小学校校庭でのアコースティックライブだ。サッカーゴールポスト前に設置されたステージ、校長先生が立つ朝礼を思い出すような光景である。電源が安定しないため、増子が持ち前の巧みな話術でその場をつないでいく。「荻窪と吉祥寺は家賃が高かった」「若者が少ない」「普段何してんだろっていうおじさんが昼間から“戎(西荻の名物やきとり店)”で飲んでて、すげぇ街だなと思ったけど、今やその1人になってます」「オレの声聴いて美しい声だなぁと思ったら耳悪いんで、山口耳鼻科行って下さい、いい先生だから。内科もあります」流暢に語る西荻地元ネタは、初めて怒髪天を観るであろう家族連れや地元の人たちにも好評だ。


 “シャレオツ”な感じの「オトナのススメ」、NHKアニメでお馴染みの「団地でDAN ! RAN !」、ディスコ~ランバダの「己ダンス」。いつもと違う環境とお客さんを前に、炸裂する怒髪節。決して耳馴染みがよいとも、ポップとも言いがたい歌だが、なぜか親しみを覚えてしまうのが、不思議な魅力である。


 通常ロックバンドのアコースティック編成といえば、バラード調であったりと、ゆったりしたアレンジをしっとり聴かせる場合が多いのだが、怒髪天のアコースティックは実に騒々しく、にぎやかである。出番前にチンドン芸能社が「日本全国酒飲み音頭」で校庭をぐるりと回り盛り上げたが、まさに“ちんどん屋”に通ずる、お祭り騒ぎなのである。


 「もうちょっとやりたいけどダメなんだって。怒られるんだって。来年50歳になるからあんまり怒られたくない(笑)」


 〈西荻に日が昇る~〉と老若男女が盛り上がった「ニッポンワッショイ」でライブは終了した。


 渋谷と西荻窪、両極端ともいえるこの街を、カッコつけることも媚びることもなく、どちらも自分たちのペースで、自分たちの色に染めた。こんなおっさんたちが、楽しそうにライブやって酒呑んでバカ騒ぎしてるのだ。日本のロックシーンに怒髪天がいることを誇りに思えた二日間であった。


 (文=冬将軍)