「家族ほどしんどいものはない」
「子離れができない家族は見苦しい」
「孤独死は不幸ではない」
発売2か月で発行部数35万部のベストセラーとなっている「家族という病」(幻冬舎新書)にある言葉だ。著者の下重暁子さん(79)は、5月31日放送の「新報道2001」(フジテレビ)に出演して自身の考えを語っていた。
「なんでも家族に任せる」やり方は酷すぎる
この本が売れている要因を司会に問われると、下重さんは「やはり家族で悩んでいる方が多い」と切り出し、核心に触れるような発言をした。
「家族は良くあって欲しい、というのが理想ですよ。でも実際は、家族ほど一番近くて一番分からないものはない」
そして、家族に対する自身の複雑な思いを明かした。
「父母や兄みんな死んでしまってから、父が何を考え、母が私を溺愛して、兄が妹の私をどう思っていたか全然わからないんですね。そういうことを話したこともない。家族というのはいかに理解しあえていないか、理解したような錯覚を持っているだけで。むしろ友人のほうが理解している」
下重さんにとって家族は葛藤の大きい存在だったらしく、「家族という理想」や「既存の家族像」に対して疑問を呈する言葉が番組内で何度も聞かれた。
日本の社会は、仕事や家事、育児、介護などにおいて女性の負担が大きく、その理由は「なんでも家族に任せる」考え方があると説明。これは「いかにも酷であると思う」と批判し、日本の高額な教育費についてもこう問題点を指摘している。
「(負担が)家族に押し付けられているという感じがします。それはもともと日本の家族主義がみんなの頭のなかにあるせいだと思う。変に家族を美化して信じて、そこに行けばすべてがうまく行くという考え方がある」
日本の家族は「役割」だけで「個人」がない
下重さんの発言に、住職の千葉公慈氏が賛同した。現在の家族のイメージの歴史は決して長くないものではなく、江戸時代には男性の1人暮らしが多かったことを挙げて、
「父母がいて子がいて、という家族のイメージは、つい最近、近代化に向かう日本の経済構造のなかでできあがってきたもの」
と語った。これを受けて下重さんは次のように主張した。
「1人や2人の家族があったっていい。(渋谷区の同性婚の例もあるように)同性同士でもいい、いろんな形の家族が考えられる。現代はいろいろな形で多様化してきているわけですから」
さらに「家族といえば『お父さん・お母さん・子ども』という形しかない。個人としてその人たちの違いを大事にして、お互いぶつかり合って生きていくんじゃなくて、どうも『役割』でできているって感じがする」と続けた。
「楽になった」「目からウロコ」という読者もいるが
番組には文部科学大臣も出席し、「家族」や「子どもの貧困」など幅広く議論を行ったが、下重さんは一貫して「近代以降に形成された家族観の息苦しさ」に絡めて訴えかけていたようにも見える。
著書「家族という病」のネット上の感想にも、「家族に捉われていたが楽になった」「理想を抱いていた自分は目からウロコ」など共感の声が寄せられている。
しかしその一方で「家族論というより自分史、ただのエッセイ」「これを読んでも家族の悩みは何一つ改善されない」という否定的な意見も多かった。
下重さんは、「家族団欒という幻想」を捨てて「一人ひとりの個人」を取り戻すことが、「ほんとうの家族を知る近道」と主張しているが、個人で生きることの心細さをカバーするために家族がいるという考え方もあり、納得できない人もいるようだ。(ライター:okei)
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