2015年06月04日 14:31 弁護士ドットコム
うつ病で休職した人が会社へ復帰する際には、しかるべき労働環境が望まれるはずだ。しかし、過労が原因でうつ病となったある男性が、職場への復帰を申し出たところ、会社側から返ってきたのは「休職前と同様に深夜残業・休日出勤ができるようになってから復帰してください」という思いもよらない反応だったーー。
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弁護士ドットコムの法律相談コーナーに相談を寄せた男性によれば、主治医が記した「過重労働をしない限りで就労可能」という診断書を会社に提出したところ、人事担当者は「条件付きの就労は認めない」として、上記のように伝えたのだという。
男性は「通常どおりのフルタイム勤務での復帰を希望しており、あくまで『普通に』働きたいのです。ただ、休職前と同じような条件で働くことは無理です。会社は法的な根拠があって、私の復職を無理と言っているのでしょうか?」と問いかけている。
こんな当たり前に思える願いは、叶うことはないのだろうか? 労働問題にくわしい谷口真理弁護士に話を聞いた。
「ご相談のケースでは、従前と同様の勤務形態で復職すればうつ病が再発する可能性が高く、もしそうなれば会社の法的責任も問われうる状況です。復職にあたり、会社がそのような条件を設けることには、問題があると思います」
谷口弁護士は、会社側の対応に疑問を投げかける。
「傷病による休職後の復職にあたっては、一般的に、傷病が『治癒』したことが必要とされます。しかし、必ずしも休職前と同じ業務に復帰できる程度に回復していなくても、復職が認められる余地があります。
判例では、職種・職務内容を限定しない雇用契約の場合には、休職前の職務の遂行が十分に行えなくても、現実に配置可能な業務が存在していれば、復職が認められうると述べています。
また、裁判例では、職種・職務内容を特定して雇用されていても、就業規則で他の職務への変更が予定されていて、配置転換が可能な場合や、復帰当初に軽易な職務に就かせれば、程なく通常業務に復帰できる程度に回復している場合には、復職を認めるべきとも示されています」
では、今回の相談者のケースはどうだろうか。
「ご相談のケースでも、休職前と同じ業務に復帰できなくても、配置転換等により復職が認められるべきとされる余地があります。この場合、会社に復職や就労を拒否する法的根拠はなく、相談者の側に雇用契約の債務不履行(ここでは、正当な理由なく働かないこと)があるとはいえませんので、会社が賃金支払義務を負う可能性があります。
まずは、雇用契約や就業規則の内容を確認したうえで、配置転換等による復職の可否について、賃金支払請求等も視野に入れ、会社と交渉を重ねるなどの対応が考えられます」
このように谷口弁護士は述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
谷口 真理(たにぐち・まり)弁護士
第二東京弁護士会所属。一橋大学卒業後、司法試験に合格。
一般民事案件を中心に企業法務案件にも携わり、東京都千代田区内の2ヶ所の法律事務所での勤務を経て、桜花法律事務所を開設。著書「新・労働事件法律相談ガイドブック」(第二東京弁護士会・共著)
事務所名:桜花法律事務所
事務所URL:http://www.oukalaw.jp