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テイ・トウワ、真価発揮の新アルバム『CUTE』完成! 小野島大が音楽的背景を読み解く

2015年06月04日 01:11  リアルサウンド

リアルサウンド

インパクトの強いアルバムジャケットの原画は、五木田智央が描いている。

 テイ・トウワの通算8枚目となる新作アルバム『CUTE』が完成、7月29日にリリースされることが決まった(先行配信は7月1日より開始)。細野晴臣、高橋幸宏、砂原良徳、LEO今井、UAなど多彩なミュージシャンを迎えて制作された本作では、まさに“CUTE”と形容したくなる繊細かつ魅惑的なダンスミュージックが展開されている。今回ご紹介するのは、音楽評論家の小野島大氏が、テイ・トウワ本人に行なった取材をもとに本作の魅力や背景について詳しく論じたオフィシャル記事。リアルサウンドでは後日、本インタビューの完全版を掲載する予定だ。(リアルサウンド編集部)


 テイ・トウワの8枚目のアルバム『CUTE』を聴く。


 音が弾んでいる。軽やかである。踊るような足取りでどんどん前に出てきて、自在に空間を行き来している。自由奔放であり、風通しがよく、開放的で、かつ緻密に計算されたレイヤード音響が構成されている。なによりPOPであり、MODERNであり、そしてCUTEである。


 「やっぱり<音楽が一番CUTE>(CD帯のコピーより)なんですよ。みんな(CDを)買わなくなったというけど、なんだかんだいって音楽は拡散力あるし、意外なところで意外な瞬間に聞こえてきて。飽きないですよね。だから僕は音楽をやり続けたいし聴き続けたいし作り続けたい。表現をし続けることが自分の今のポリティクス。作り続けることがね。僕がいなくなったあとも息子や孫に聴けるものを残せる。こんなものもやってたんだよっていう証を残せる。それが音楽の魅力なんですよ」


 ディー・ライトでデビューし、いきなり世界的な大成功を収めてスーパースターになった。ふつうの音楽家が最終的な目標として掲げるような望みを、キャリアの最初であらかた達成してしまった。今さら野心や欲では動けない。だからテイ・トウワは、自らの活動のモチベーションは「音楽を作り続けること」そのものなのだと言う。『LUCKY』から『CUTE』と、いかにも軽いタイトルが続くが、テイは真剣だ。音楽を作る喜び、音楽を聴く喜び、そんなものが『CUTE』にはあふれている。


 前作『LUCKY』から2年。その間にテイは、25年以上続けてきたDJの仕事を大きくセーブした。はやりすたりを気にして、最新流行をチェックして、トレンドのクラブ・ミュージックをこまめにトレースするような、そんな生活に別れを告げた。そこにはEDMが主流となっている現在のクラブ・シーンへの違和感がある。


 「最新の流行とかトレンドとか、むしろもう、何もわからなくてもいい、できればわからなくなりたい、ぐらいで。どこぞのセレクトCDショップの激ヤバマストとか、がっかりさせられることが本当に多い。そんなハイプだったら知らなくてもいい。ある程度経験を積むと、"なんだこれ?"と思ったものが、時間がたってみたら"あ、これがネタだったんだ"って気づくとか、あるじゃないですか。20代の時にすげえって夢中になったものが、モロパクリじゃん、みたいなことに30代40代になって気づいて幻滅したりね(笑)。アンテナを張り巡らせて作るような音楽とか、はやりを分析して真似てるような音楽はもうどうでもいい。もちろんその都度いいなと思ったり、入ってきてひっかっかった音楽を自分なりにフィルタリングして公約数を見つけていく作業はあるんです。でもその音楽を見つけていく努力とか作業はあまりしなくていいかなって。画期的な新情報・最新流行なんてものよりも、自分が次に何をやるか、何をやりたいか、何を聴きたいか、音楽で何を言いたいか。その方がずっと大事ですから」


 自分の音楽はダンス・ミュージックではあるけどクラブ・ミュージックじゃないんだ、とテイはいう。


 「クラブ・ミュージックというのはもっとシャバいというか(笑)。そういうところでかかる音楽がクラブ・ミュージックだとするならば、僕がダンス・ミュージックと言ってるのはもっと広いもの。それこそアメリカの南部の田舎で爺ちゃん婆ちゃんが踊るようなものでもダンス・ミュージックだと思うんで」


 とはいえテイは浮き世離れした仙人のような音楽をやっているわけではない。テイが東京を離れ軽井沢に引っ越したとき、彼の音楽から現場感覚や同時代性のようなものが失われてしまうことを危惧する声は多かったという。だがテイは「自分がもっと音楽好きでいるために、音楽を作りたい自分でいるために」、せわしないトレンドの最前線から離れたのだ。流行に左右されず、自分の生活感覚に密着した、本当に自分が聴きたい音楽を作りたい。その結果できあがった作品が、きちんと今の音になっているのは、テイの鋭敏な時代感覚以外のなにものでもないだろう。


 前作に続き高橋幸宏が参加、『LUV PANDEMIC』で洒脱なヴォーカルを聴かせるほか、「TRY AGAIN」では、METAFIVEのメンバーでもあるまりんこと砂原良徳が、いかにも彼らしいサウンド・トリートメントを施している。3曲に参加して、その繊細で魅力的な声を存分に聴かせるLEO今井は本作のキーパーソンのひとりだろう。個人的には『SOUND OF MUSIC』で今井とデュエットを聴かせるUAの声に魅せられた。久々に聴いた彼女の官能的な声と、テイのPOPでCUTEな音作りの相性は抜群である。UAは、今度テイのプロデュースでアルバム1枚作るべきだ、とさえ思う。


 テイは、自分のミュージシャンとしての強み、言い換えると<自分らしさ>は、「ミュージシャンとしてダメなところ」だという。


 「音楽のスキルとかセオリーで言ったら、僕は何も知らないですよ。楽譜もコード譜も読めないし。でも自分が足りないおかげで、こうしていろんな人たちとやれている、というふうに捉えてます。自分を高めてくれる相手とね。考え方ひとつなんですよ。音楽との付き合いでいえば、僕は16歳ぐらいからずっと手は動かしてるんで相当長いですけど、最近になってやっとフォーマット完了、芯ができてきたかもな、という気がしています」


 昨年ソロ・デビュー20周年を迎え、今年ディー・ライトでデビューして25周年を迎えたテイ・トウワ。だが彼の真価が発揮されるのは、これからなのかもしれない。そんな予感さえ感じさせる傑作『CUTE』の誕生である。(小野島 大)