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H ZETTRIOが考える“音質”と“楽しさ”の関係「良い音を出し、そこからはみ出す意識も持つ」

2015年06月01日 15:31  リアルサウンド

リアルサウンド

左から、H ZETT M、H ZETT KOU、H ZETT NIRE。(写真=斎藤 大嗣)

 ステージを縦横無尽に駆け回るトリックスターの青鼻ピアニスト・H ZETT Mが、銀鼻ドラマー・H ZETT KOUとと赤鼻ウッドベーシスト・H ZETT NIREを引き連れ結成したピアノ・トリオ、H ZETTRIO。彼らは4月に配信限定で「Trio,Trio,Trio!!!」「Beautiful Flight」「Smile」の3曲をリリースし、そのいずれにもACOUSTIC REVIVE社からレコーディングや楽器演奏に特化した新ブランドとして誕生した「NAKED BY ACOUSTIC REVIVE」の新製品『NAKED DIGI CABLE』」を使用したことで話題を呼んでいる。今回リアルサウンドでは、3人にインタビューを行い、トリオの音楽的コンセプトや配信楽曲の制作秘話、そして6月25日にミューザ川崎シンフォニーホールで開催する超高音質公開レコーディングライブ『H ZETTRIO LIVE LUXURY ~素晴らしきアンサンブルの夕べ~』について、じっくり話を訊いた。


・「NAKEDのケーブルを使わない状態だと、醤油をかけていない冷奴みたい」(H ZETT NIRE)


――まずは、3人がそれぞれH ZETTRIOで出そうとしているものや、別人だとは思うものの敢えて聞かせて頂きますが(笑)、2015年末で解散してしまうPE'Zで演奏しているときとの変化について聞かせてください。


H ZETT M:PE'Zというバンドはかなり硬派ですよね。”自分達はこうであるべき”と貫きオーディエンスに聴いてもらう。なんとなくそのバンドは前から良く知ってるのですが…(笑)。それに比べてH ZETTRIOは楽しさを前面に押し出す、”オーディエンスありきの音楽”であって、「演じる側も聴いて頂く側にも同じ気持ちになれって!(笑)」ことを意識的にやってる気がします。ちなみにソロワークも同様で、“ピアノを弾く”ことに没頭しながら空間全体を包み込みたいイメージですね。


H ZETT KOU:PE’Zの航は “侍ジャズ”を演ずるに値する男気あるプレイで、H ZETT KOUは楽しさやユーモアさ、「みんなといっしょに遊びたいな」という気持ちを前面に出しています。もしかしたらこっちの方が素なのかもしれません。


――あとはプレイスタイルもH ZETTRIOだとスタンディングに変わりますよね。これはドラムプレイにおいてどういう影響を及ぼしていますか。


H ZETT KOU:まず、フィルやリズムパターンが全然違ってくるし、立って演っている方が打ち下ろす感じというか、重量に任せられるのでパワーが増します。あと、気持ちの面ですけど、お客さんを目の前にして座っているのが失礼だと思えるようになってくるというか…(笑)。座って演っているドラムを同じ楽器に見られなくなってきますね。


――「座っているのが失礼」ってドラマーの常識を覆すような発言ですね(笑)。NIREさんはどうでしょうか。


H ZETT NIRE:基本的には年齢的な問題なのか「面白おかしく」をより強調させていく音楽をやりたいと思っていて、その上での手段として「音楽の会話が増える」ことに重きを置いています。「お前がこうだったら、じゃあ俺はこうする」という意思疎通を突き詰めたいし、それがお客さんにも伝わるようして、巻き込んだ上での音楽の会話を追求できたらなと。


――「お客さんを巻き込んだ瞬間」というのは、どういう時に感じるんでしょうか?


H ZETT NIRE:3人が出した、突拍子もない音やパフォーマンスに反応してくれたときですね。メンバー内でも誰かが仕掛けたものを「はいはい」とスルーせずに、精いっぱい広げて面白くしていく。でも、たまには「なにやってるんですか!」とシャットアウトするのも面白い。そうやって普段の会話のような空気感にすることで、お客さんもこちらも笑えるし、雰囲気が良くなる。


――ありがとうございます。今回の配信三部作や直近のライブでは、電源ケーブルをNAKED社のものに変えたことで音に大きな変化があったようですね。そこまでに至った経緯を教えてください。


H ZETT M:NAKED社の親会社である、ACOUSTIC REVIVE社の石黒さんが、たまたまH ZETTRIOの演奏を動画サイトでご覧になって、興味を持ってくれたのがきっかけです。そこからモーション・ブルー・ヨコハマでのライブに来ていただいたり、モントルー・ジャズ・フェスティバルでも協力してもらいました。それ以後、レコーディングにもライブにもNAKED社のケーブルを使わせてもらっています。


H ZETT NIRE:聴いた感じもすごく違うなと思うんですけど、一番変わったのは、自分のいい音に関する意識。こんな世界もあるんだな、というのをどんどん知るきっかけになりました。あと、弾き方も変わっちゃいましたね。ケーブルは今まで何回も変えているんですけど、初めて「丁寧に弾かなきゃいけない場所は、より丁寧に。思いきり行く場所はより勢いよく」という意識になりましたし、その違いがハッキリ音として出るようになった。


――プレイしている側としても、一聴すればはっきりわかる変わり方ですか。


H ZETT NIRE:とにかくベースは全然違いますね。楽器があって、ケーブルを使ってアンプとか、PAにつなぐわけで、ケーブルは楽器の一部みたいなものなんですよ。スタッフに話をしたんですけど、もはやNAKEDのケーブルを使わない状態だと、醤油をかけていない冷奴みたいな。味がよくわからない(笑)。


(一同笑)


H ZETT M:私は冷奴に醤油かけないですけどね。


H ZETT KOU:私はネギをかけます。


H ZETT NIRE:まぁ好みは人それぞれですが(笑)、違うものとして認識したということです。


H ZETT KOU:あと、石黒さんは少年のような良い瞳をしていまして(笑)。その出会い以降、ライブのリハーサルでも「こうするともっといいのかな、これはどういう音なのかな」とコミュニケーションを取ってくれたり、良い音にすごく一生懸命だと感じるんです。そういう意味でも、気持ちの面でサポートされてますね。


H ZETT M:僕は小さいころからピアノを習っているんですけど、先生に言われていたのは「良い音を意識するのがまず大事」ということ。でもそれって、生楽器で聴く人・弾く人に対して有効な話なんですよ。その価値観が、良いケーブルや良い電源タップが出来たことによって、録音環境にも活かされるようになってきた。それって面白い状況ですよね。


・「もう20年近くやっているような感覚で『ガンダム』でいうところの“ニュータイプ”に近い(笑)」(H ZETT KOU)


――今回配信でリリースした「Trio,Trio,Trio!!!」「Beautiful Flight」「Smile」の3曲について訊かせてください。まず「Trio,Trio,Trio!!!」は、自己紹介的なラップを繰り広げる楽曲で、インストゥメンタルだと思い込んでいたので不意を突かれました。


H ZETT M:「一人が一人を紹介していくラップみたいな曲があれば面白いのにな」と思って作りました。3人編成はフットワークが軽いですし、やりたいと思ったらすぐ行動に移せるんです。まずは自己紹介的な曲を作ろう…そんな想いがあって生まれた楽曲です。


H ZETT KOU:H ZETTRIOって、結成してからまだ数年なんですけど、もう20年近くやっているような感覚で、『機動戦士ガンダム』でいうところの“ニュータイプ”に近い(笑)。第六感的に伝わってくるのを感じます。


H ZETT NIRE:KOUさんが『ガンダム』の例え(笑)。そういう引き出しも持ってたんですね。


(一同笑)


H ZETT NIRE:最初こそラップに対して「大変だろうし、精神的な負担が意外と高いのかも」と思っていたんですけど、いざやってみたら「自由になっちゃってもいいのかな」と感じました。3人でやっていくうえで「これはちょっと無理だよね、これはダメだよね」みたいなのは無い方がいいと思っていて、「この3人だったら、やっちゃって楽しいことなら、何でもやっちゃえばいいよ」って感じですね。


――それがさっき話していた「楽しい」に繋がってくるんでしょうね。レコーディングは観客が前に居ない分、どうやって楽しさを表現していますか?


H ZETT M:レコーディングでの「楽しい」は、笑うとかじゃなく、血がドクドクする、興奮するような感覚ですね。アドレナリンが出るというか。プレイヤーとしてワクワクすることで楽しさを表現できているんだと思います。


――続いて「Beautiful Flight」は、今回配信リリースした3曲の中でも、一番ポップで突き抜けている楽曲ですね。間奏や終盤にプログレッシブなフレーズ入れ込みつつ、抜けの良いサビが印象的でした。


H ZETT M:結果的にタイトルを含めて“飛んでる感じ”になったんですけど、音の楽しさと音の強さ、我々も聴き手もこの曲を体感したら雄大な景色が見れる。 3人で出来ることを突き詰めたら、ここまで強度のある曲が出来ました。


H ZETT KOU:僕の鼻ってシルバーなんですけど、この曲はシルバーバック(ゴリラの一種)…というより『スター・ウォーズ』のチューバッカ的なプレイングを意識しました(笑)。野性的な、本能で叩いたというか。


H ZETT NIRE:チューバッカは賢いキャラクターですよね(笑)。僕は結構音数が多いんですけど、計算しないで小さく収まらないようにと思って演奏しました。楽曲自体はパワフルさと繊細さの両方を持ち合わせているので、その両方を活かすことを心がけつつ、抜けのあるサビ部分では、本当に“飛んでいるような感じ”を表現するように意識しました。


――3曲目、高速シャッフルビートが楽しさを演出する『Smile』はどうでしょうか。


H ZETT M:お祭り気分といいますか、どんな時でも前向きになろう。という思いが表れた曲ですね。さっきのKOUさんじゃないですけど、野性的な面を忘れたら小さくまとまってしまうので、ちょっとはみ出すぐらいの勢いを意識して取り組みました。


H ZETT KOU:これは韓国の『ソウル・ジャズ・フェスティバル』でも演奏したんですけど、一体感と温かい雰囲気がしっかり生まれて、お客さんがH ZETTRIO4人目のメンバーとして反応してくれたように思えました。


H ZETT NIRE:みんな手拍子で応えてくれて、良い空気感になりましたね。


――いまライブでの反応について語ってもらいましたが、他2曲はライブでどういう反応を受けたのでしょうか?


H ZETT NIRE:「Trio,Trio,Trio!!!」を初めて演奏したのは、全国ツアーの仙台公演だったんですけど、爆発的な反応がありまして(笑)。曲の最初に「トリオ、トリオ、トリオー!」って言うところで、バカ受けしました(笑)。


H ZETT KOU:その時はまだ発売されていなかったから。さっき言ってくれたことじゃないですけど、今までの曲のなかでも一番言葉が入ってるので、不意を突かれた部分もあるんでしょうね。良い歳した大人が(笑)。


H ZETT NIRE:こちらとしては嬉しいというか「してやったり!」という気持ちでした。


H ZETT M:そうですね。やっぱり曲っていうのは、人前で演奏して初めて完成するんだなと改めて思わされました。やればやるだけ曲が成長していきますし、馴染むことによって「ここが良いんだな」とわかる。


――ちなみに『ソウル・ジャズ・フェスティバル』での手ごたえはどうでしたか。


H ZETT KOU:アツかったですね。仁川空港からソウルに行ったとき、北海道に緯度が近いから寒いのかなと思ったんですけど、すごく暑くて。でも、夜はシベリアの寒気が入ってきて、結構寒い。


H ZETT NIRE:気温の話ですか(笑)。お客さんはみんな曲を聴いてちゃんと知ってくれているし、熱狂的な反応でした。僕はヤキモキしながら、ハングルでMCするか、英語でMCするか迷ったあげく、英語でMCしたんですけど、客席から「カッコイイー!」って声掛けられて「日本語わかるじゃん!」ってツッコんだりしましたね(笑)。


・「基本的に良い音を出すという意識と、あとちょっとはみ出す意識」(H ZETT M)


――『ソウル・ジャズ・フェスティバル』の余韻を引きずりつつ、6月25日にはミューザ川崎シンフォニーホールで超高音質公開レコーディングライブ『H ZETTRIO LIVE LUXURY ~素晴らしきアンサンブルの夕べ~』が行われます。この会場を選んだ理由は何でしょうか。


H ZETT M:じつはスイスの『モントルー・ジャズ・フェスティバル』がキッカケなんです。『モントルー・ジャズ・フェスティバルin川崎』というイベントをやるくらい、川崎市と非常に関係がありまして。川崎市の関係者が現地で我々のステージを観てて、そこからお話を頂きました。KOUさんがモントルーの往復飛行機で隣の席になった方が川崎市のお偉い方だったらしく。その方も推薦してくれてたようです。


H ZETT NIRE:下見に行った時にも、KOUさんだけ「お待ちしていました!」みたいな感じになって。KOUさんの乗っていた車だけ遅れていたんですけど、「ドラムの方まだですか」って向こうの人が(笑)。


H ZETT KOU:30秒ぐらい抱き合ったままでしたね(笑)。


H ZETT M:ホールの方も、普段クラシックやジャズで大人に主な会場なので若い人達にも観て頂くキッカケになってほしいという気持ちがあったようです。こちらとしても広い世代に受け入れて頂きたい音楽をやりたいと思ってたので「ぜひ!」ということで。


――ミューザ川崎シンフォニーホールは普段、クラシックの演奏を主に実施しているホールですが、下見で実際に音出しはしてみましたか?


H ZETT M:しました。ピアノだと、マイクを立てなくてもポンッと押すだけで、一番後ろの席までフッ、と届くんです。


H ZETT KOU:音の通りもそうなんですけど、会場の客席の作りも、一番後ろでも遠すぎないっていうか。うまく計算されてそれぞれに届くように出来ている印象を受けました。「ワーッ」というより、「ダッ」と響くというか…。しっかり鳴ってくれる感じですね。


――ほぼすべての客席に均等に届く感じというか。


H ZETT NIRE:はい。ホールって場所によってはモワモワしたりするんですけどね。あとはビジュアルとサウンドがすごく一致しているというか。きっといい音がするんだろうなってイメージした音がちゃんと出てくるというか。ちゃんと計算して作ってあるんだなと思って。


H ZETT KOU:当日はドラムの音だって、たぶん地音でそのまま行くと思う。ベースもだよね?


H ZETT NIRE:そうですね、アンプの地音でいける。


――ライブに関しては、クラウドファンディングで支援を募り、ライブ音源のプレゼントも行う予定ですね。


H ZETT M:ケーブルもホールも良いのはすでにわかっていますから、あとは我々の演奏にかかっているわけで…(笑)。


H ZETT KOU:今回はレコーディングでもお世話になっているエンジニアの三浦(瑞生)さんにもお願いしていますし、音質に関しては間違いないですね。僕はドラムがちょっとうるさいので、他の人のかぶりを計算しなくちゃいけません。


――音が響きやすいところだと、冒頭に話していた「繊細にやる」ことがより重要になってきそうですね。ライブハウス、ホール、フェス、それぞれどういう風に違いをつけていくのでしょうか。


H ZETT M:基本的に良い音を出すという意識と、あとちょっとはみ出す意識を持っておくというのは、共通していて一緒だと思います。でも、場所によってネクタイを強く締めたり、緩めたりみたいな、その場に溶け込む何かっていうのは必要でしょうね。「ライブハウスではこういう音を出して~」というよりも、基本的には一緒で、その場の空気を感じて、表現することが大事になりそうです。


――空気とセッションするような感覚でしょうか。


H ZETT KOU:そうですね。ドラムプレイにおいては、ブレイクをどう感じさせるか。あとはどれだけ動きや唸り声もそうだし、叩いた時に出るスペースも、ライブハウスとホールだとまた違うので、そのなかでどう見せていくかですね。


H ZETT NIRE:自分で演奏していて感じるのは、2人は地の利を活かしているなと。KOUさんは前が空いていたら出てきて床を叩いたりするし、H ZETT Mさんは、ショルダーキーボードで自由に動き回るし。僕はそれを見習いたいなと思っているんですけど、なかなか動くのは難しいんですよね。あと、「ここはこうだから、こう」と、やる前に考えることはないですね。今日はホールだから、ライブだから、フェスだからと意識することはないし、なにか考えていたとしても、出て行ったら絶対に印象は変わる。


――川崎のライブ後も、活動はずっと続いていきますね。現在も新作の制作をしているということですが、どういった作品にしていきたいですか。


H ZETT M:今後も血が沸騰するようなものを基本として、やっていきたいですね。もうハッキリとは見えているんですけど、すごいものじゃなかったら出さないという気持ちです。


H ZETT NIRE:でも、川崎でのライブでは、その曲をライブで演奏できるかも。あとは「夏」というキーワードも関連してくるかも…。


――夏で「楽しい」となるとサンバ調などでしょうか?


H ZETT NIRE:いいですね、それ、頂きます(笑)。さっき「Smile」で訊かれたときに答えましたが、感情のシンクロをメンバー間だけじゃなくてお客さんとも取れるような曲をもっと作りたい。そしてその曲をもっとライブでやっていきたいですね。


H ZETT KOU:僕も、基本的に楽しく、ハッピーな感じで行ければいいなと思っています。色んな所で活動できればいいなと思っていますし、ジャンルも得意なものを個々で持ちつつ、「どんなところでもできます! なんでも来い!」という構えで。


H ZETT NIRE:そうですね。韓国に行ったばかりですけど、海外のお客さんに向けて演奏するのは自分たちの原点というか、「話している言葉も違うのに、音楽で分かり合えちゃうんじゃないか」と思わせてくれるし、ワクワクする。だからもっと海外で演奏してみたいですね。


(取材・文=中村拓海)