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5年ぶりに復活! ジェッジジョンソン藤戸が語る、これからの音楽「当たり前が変わった中でどうするか」

2015年05月31日 18:41  リアルサウンド

リアルサウンド

新作『テクニカルブレイクス・ダウナー』インタビュー

 ジェッジジョンソンがニューアルバム『テクニカルブレイクス・ダウナー』をリリースした。2010年5月のリリース後、中心人物である藤戸じゅにあ(Vo、Gu、Programing、Conmposer、Mixd)の病気療養のために活動を休止していたジェッジ。昨年から、元school food punishmentの蓮尾理之(key)、SCANDALなど多彩なアーティストのプロデューサー・作曲家として活躍する西川響(Bassline)を正式メンバーに迎え、ライブ活動を再開。そして今作のリリースと相成った。“エレクトロロック”という言葉さえ得体の知れなかった2000年前後から始動したジェッジ。休止していた5年間で変化した音楽シーン。伸び伸びと活躍できる土壌が整った今、さらなる飛躍を目指して帰還した藤戸が、時代を読み、これまでとこれからを語ったインタビューを掲載する。


・「心は折れていなかった。必ず戻ってくるって信じていた」


ーー約5年振りのリリースなので、まずは、「おかえりなさい」ですかね。


藤戸じゅにあ(以下、藤戸):ありがとうございます。


ーーリリースされて5日後の取材ですが、既に反響も感じてらっしゃるんじゃないですか?


藤戸:そうですね。正直な話、ここまで売れるとは思っていませんでした。この5年間でCDや音楽状況が変わったと思うんです。それを俯瞰的に見ていて、この世界に戻ってきた時に、他のレーベルの部長さんとかと飲んだんですけど(笑)、まず言われたのが、止めた方がいいんじゃない?って。


ーー率直な意見ですね!


藤戸:はい。ピンとキリが分かれてる辛い状況だって脅されて(笑)。でも、ファンの方が待って下さっていたのか、ソーシャルの力も大きいと思うんですけど、実際にリリースをして、フラゲ日から都内のショップを蓮尾(理之/key)くんと廻ったら、どこも売り切れだったんです。また、リリース当日に、MUSEを予約しようと思ってiTunesストアを開いたら、自分たちが一位だったっていう。


ーー偶然知るって、喜びもひとしおだったんじゃないんですか?


藤戸:はい。今まで一位になかったこともなかったので、嬉しくもあり、驚きもあり。じわじわ反応が形に表れてきて、実感を噛み締めています。


ーー藤戸さんとしては、どんな要因がそうさせたと思っていますか?


藤戸:実際、音を聴ける環境が大きかったのかなと思います。5年前は、試聴機に入っていないと聴けなかったり、文字だけで何かを伝えようとか、聴くまでにワンクッション、ツークッションあったと思うんです。今回は、SoundCloudで一か月前くらいから試聴できるようにして、そこから反応がすごかったです。あとはTwitterのバイラルがかなり凄くて。


ーー5年前はTwitterも、ここまでメジャーではなかったですからね。そんな中で、音楽活動が出来ないことに対して、ジレンマもあったんじゃないんですか?


藤戸:凄くありました。やりたくてしょうがなかったんですけど、病気でずーっとできなくて。正直な話、音を聴くことさえ出来ない時期もありました。生業が音楽だった人間が聴くことを取られちゃって、絶望……どころじゃなかったですね。今まで当たり前だったものがなくなってしまった時の喪失感というか、自分はこれから何をすればいいのか……僕は元々サラリーマンをしながら音楽をやっていて、メジャーデビューした時も続けていたんですけど、音楽を失った時に目的がなくなってしまって。ソーシャルとかで、友人たちがどんどん成功していく姿を見るのは辛かったしもどかしかったし。で、手術をして、ある程度音楽が出来ることになって、嬉しかったし……うーん、まさかまた音楽が出来るとは思っていなかったです。


ーー身体だけではなく、心まで復活するのには、時間が掛かりましたよね。


藤戸:はい。でも、もしかしたら、心は折れていなかったのかもしれません。必ず戻ってくるって信じていましたし、何年かかっても戻るって、SNSでも発言して、自分を奮い立たせていましたし。何より作品を作りたかったですね。手術後は音を聴くことさえ出来なかったので。それでも曲を作っちゃったりDJやっちゃったりしていたんですけど。ダメだったんですけど、ガマンは出来ませんでしたね。


・「次にジェッジが何をやるかも考えないといけない」


ーーやっぱり音楽が好きだ、って改めて感じられた期間だったんじゃないんですか?


藤戸:そうですね。音楽に対する愛情が強くなった時期でした。ただ、手術後、いろんなことが変わって。作曲の方法も変わって、難しかったです。


ーーどんなふうに変わったんですか?


藤戸:今までPCベースで作曲していたんですけど、それで曲が作れない時期もあったんです。音が聴こえないので譜面だけで作らなきゃいけなくなって。


ーーそれって、想像で作るっていうことですよね?


藤戸:そうですね。今まではPCの中で曲を完結させていた人間が、初めて譜面を書いたんです。時間はかかりましたけど、作曲の幅は広がりましたね。実際に聴こえるようになって、スコアを見てみると、よく頑張ったなって思いました。まあ、やり過ぎだとも思いましたけど……今回、いろんなことをやり過ぎましたね(笑)。でも、ネガティヴな反応がないのが逆に怖いです。SNSってみんな勝手だから、ネガティヴな反応も出るはずですし、批判も受け入れる覚悟はあったんですけど、今んとこ全くないんですよ。びっくりしていますね。非常にマニアックな方々がマニアックな評価をしてくれるのも、面白いなあって。それも5年前ならなかったかもしれないですね。ユーザーから何かを発信することもなかったと思うし、それを作った本人が目にすることもなかったと思うんです。


ーーやり過ぎっていうところで言うと、18曲も収録されていますよね。


藤戸:これも、今の手法とは真逆のことをやっちゃったんですよね。今ってミニアルバムを小刻みに出すアーティストが多いと思うんです。よく門田(Poet-type.M)と話すんですけど、あいつは真っ先に今の流れと真逆のことをやって、立ち向かおうとしたと思うんです。フェスうんぬんではなく、独演会でクラスターを率いて、どんな音楽を形成できるか声をあげたっていう。楽曲もやり込んでいますし。そんな中で僕も、より作品として出していく手段の方が差別化できるし、こういう人たちがちょっと増えてきたと思い始めていたので。曲多めで自分の世界を見せようと。出来た曲は全て入れた感じです。


ーー元々ジェッジは二部作も多かったですし、作品毎に物語性があるから、曲数が多くなるのは必然だと思いますよ。


藤戸:自分の音楽を表現する場合に、曲が多くないとダメかなって。ジェッジってずっとエレクトロロックって言われてきましたけど、実際はアレンジの一環だと思っているんです。基本はポップミュージックだし。それって短い作品では、かなり理解しがたいと思うんです。もっと言ったら、エレクトロロックってなんだろう、ってなるんじゃないかな。四つ打ちでブチ上げEDMみたいなものもエレクトロロックだし、人力でシンセが乗っかるものもエレクトロロックだし、いろんな形があると思うんです。それを5、6曲で表現するのは難しいし。馬鹿にされていたエレクトロロックを表現するには、この曲数が妥当だと思いました。


ーーエレクトロロックも、この5年間で完全に市民権を得ましたよね。


藤戸:純粋に嬉しいですよね。僕がマッキントッシュを買って音楽をはじめた当初は、ライヴハウスなんか出してくれませんでしたし、ドラムがいないから打ち込みを使っているんだろうってユーザーに思われていたし。その中にも気に入って下さる方はいましたけど。僕自身もやり易い時代になったので楽しいですね。


ーー当初から、こういう時代が来ると思っていました?


藤戸:必ず来るとは思っていました。


ーーだから、馬鹿にされても続けてきた?


藤戸:そうですね。大事なことは、多少辛くても続けることなので。もっと言うと、この先はDTMがなくなるだろうな。アプリだけで完結する時代が来ると思いますし、次にジェッジが何をやるかも考えないといけないかな。今、DTMで曲を作っている人の九割は、恐らく音符を読めないと思いますよ。元々はクラシックで楽曲を共有するために作ったものですけど、PCがあればいらないですし。


ーーそんな時代に藤戸さんは、譜面を書けるようになったと。


藤戸:現代文やりながら古文を覚えた感じですね。


ーー古文を覚えることで、現代文も書きやすくなったんじゃないんですか?


藤戸:そうですね。よりオタクになったのかもしれません。


ーーそして、PC一台だけでステージが完結する今も、バンドを続けているっていう。


藤戸:一人で完結しがちな、内向的に見られたPCミュージックをライヴハウスで表現する、その目的がジェッジだったので。ライヴハウスで育ったDTMですから。


・「バンドのエネルギーとバンドの楽しさを実感している」


ーー今の布陣はどうですか?


藤戸:凄い良いと思います。長い旅路の果てに見付けたメンバーなので、何年も音楽をやってきて、今、初めてバンドを体験している気がしますし、サポートも含めて、メンバーでそれぞれ意見を言い合って、バンドのエネルギーとバンドの楽しさを実感しています。今いるメンバーも恐らく同じ意見なので、それが楽曲にも表れていると思います。「KRUNK」とか蓮尾くんがやりたい放題やっていますけど、プレイヤーとして天才だし、いい曲を昔から書くし、その彼を如何にコントロールするかっていう、役割分担が出来ているのかな。


ーーその「KRUNK」の歌詞は、藤戸さんの心境が想像出来るような、混沌としたものになっていますね。


藤戸:僕に重ねることもできるし、結構広めに受け取れるようにしていますね。はじめから考えていたのは、英詞でやってしまおうと。英詞だと歌詞より先にメロディが入ってきて、ユーザーに届くかなって。それで興味を持って和訳を見た時に、こういうことを歌っているんだなって気付くっていう。ソーシャルの時代ならではの、見て調べてググって戻ってきてもらうっていう、そういうことをしてもらいたかったんです。


ーー歌詞という以上に、仕掛けがあると。


藤戸:謎解きではないんですけど、興味を持った人間がさらに楽しめるような仕掛けはたくさんちりばめてあります。薄く聴かれるのではなく、気に入った人間が如何に満足できるか、そこに今回は特化しました。もちろん大前提は僕がやりたいことをやるっていうことなんですけど、自分がこうだからわかってねっていうことではなく、僕もあなたと一緒で、こういうことがありましたっていう発信ですね。重要なのは、どの曲も当たり前のことを歌っているんですよ。J-POPにありがちな言葉も意図して使いましたし。当たり前のことは当たり前じゃなく、絶対なんてこの世にはない、当たり前が変わった中で次にどうするのか、それを曲の中に入れてみました。この曲たちがユーザーにとって励みになってくれたら、生活の中で大事な曲になってくれたらいいなって思います。


ーー西川響(Bassline)さんは、藤戸さんにどんなものをもたらしてくれましたか? SCANDALなど、正直対極にいるポップなアーティストに関わっている方ではありますが。


藤戸:響先生がジェッジでやりたかったことは、わかりにくいことをどれだけわかりやすく見せるかっていう。ジェッジジョンソンは細か過ぎて伝わらない選手権なので(笑)。トッド・ラングレンやXTCを今やったらどうなるのかっていうところみたいです、彼の言葉を借りると。例えば「ソナチネ」は、歌詞もメロディもちょっと昭和っぽいんですけど、のっけてるのは強烈なオルタナな音なんです。こっぱずかしいくらいのわかりやすさを、カッコいいサウンドに乗せるっていう提案したいと、彼は考えていたようですね。


ーー他のメンバーにとっても、ジェッジは挑戦できる場所なんですね。


藤戸:メンバー内では牧場と言われていますからね(笑)。それぞれいろいろやっているんで、ジェッジはバンドというよりプロデューサー集団で、目標は、みんなが外の世界で経験したことをジェッジでどうプレゼンして形にするかっていう。実は今作は、レコーディングで一回も全員スタジオなどに集まっていないんです。LINEと共有のページを立ち上げて、データをやり取りして作っちゃったっていう。僕のスタジオも遠隔操作で、ドトールとかにいながら自分のPCをいじれちゃうんで、そうやって仮のデモ音源とかを投げていますし。一切顔を合わせずに作った、面白いアルバムなんです。次もそれを突き詰めてみようかなと思っています。


ーー既に展望もあるんですか?


藤戸:年末には新しいのが聴けるかな。


ーー早いですね!


藤戸:今作っているのは、インディーズの時のベストですね。今の音と、今のメンバーで作り直してみようっていう。あとは完全な新曲ですね。


ーー楽しみにしています。では最後に、リリース後だからこそ言っておきたいことなどありましたら、お願いします。


藤戸:まず、iTunesでオルタナ一位をとれたのは、みなさまのおかげです! これで名前も広がり始めていますし、目標だったので。一気に世界が変わるわけではないと思いますけど、着実に進んで行ければと思います。7月17日のワンマンもいらしてください! 20時からなので、仕事の後からでも間に合いますよ(笑)。平日の20時からのライヴが広まっていけば、もっと音楽も広まるんじゃないかなあって思います。来てくれるまでの障害は、全て取り除きたいですね。 


(取材・文=高橋美穂)