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動員力と“2016年問題”にみる、アイドルとコンサート会場の関係 鍵を握るのは「地方アリーナクラス」?

2015年05月30日 20:01  リアルサウンド

リアルサウンド

横浜アリーナ

・指標としてのコンサート会場


 昨今のアイドル業界を見るにあたって1つの指標となるのが、コンサートの動員力である。スタジアム・ドームクラス(3万~7万人)だとAKB48、ももいろクローバーZ、Perfumeなどがあげられ、アリーナクラス(6000人~2万人)だとでんぱ組.inc、BABYMETAL、私立恵比寿中学などなど。会場の規模によってそのアイドルの人気や現在地などを測ることが多くなった。特に日本武道館は数多くのアイドルが目標とする会場であり、武道館公演を行うことは1つのステータスとなっている。そんななか、最近では会場のキャパシティに見合った動員を見込めないものの、その会場でライブを行ったという「実績」を得るためにライブを行うというアイドルグループも出てきており、各グループがいかにライブとその会場を重視しているかがわかる。ただ、この「スタジアム・ドームクラス」や「武道館・アリーナクラス」という分け方の中でも細かく見てみると違いが出て来る。見方のポイントとなるのは関東意外の地域での会場規模だ。


・地方主要都市で測るアーティストの動員力


 ここで一つの指標となるのが、『関東のみで「武道館・アリーナクラス」をやっているアーティスト』と『地方主要都市でもアリーナクラスでライブができるアーティスト』という分け方だ。たとえば、でんぱ組inc.や私立恵比寿中学は前者にあたり、(アーティストではあるが)E-girlsは東名阪福でアリーナツアーを行っているため後者にあたるといえる。武道館や横浜アリーナ、さいたまスーパーアリーナ、代々木第一体育館などでの公演を成功させたアーティストに対し、ファンは次にドーム公演を期待しがちだが、東京ドームとアリーナではキャパシティが3~4倍に増えることを考えると、まず現実に目指すべき方向は、地方でのアリーナ公演を実現させることだ。実際、2014年~2015年で地方主要都市でのアリーナ公演を実現させているアーティストは、前述のE-girlsとNMB48、HKT48、乃木坂46しかいないのである。


 また、『ドーム・スタジアムクラス』についても触れておくと、AKB48は2013年に5大ドームツアーを行い、2013年には日産スタジアム、2014年には国立競技場、味の素スタジアムと、主要な大会場でのライブを実施している。なお、ももクロは、日産スタジアム、国立競技場、そして今年福岡ヤフオク!ドームでのファンクラブイベントを行っているが、意外にもドームツアーは未実施。ライブに定評のある彼女たちからすれば、十分に動員を臨めるはずではあるが。Perfumeは2013年に東京ドーム・京セラドーム大阪で公演を行っているが、昨年は地方主要都市でのアリーナツアーを行っている。彼女たちの場合は海外へ目線を向けていることもあり、今後無理に東京大阪以外でドームツアーを行うことはあまりないかもしれない。


 さらに、地方主要都市でのライブを行えるアーティスト同士を比べる1つの指標となりえるのが、北海道でのコンサート動員だ。アイドル界の頂点に立つAKB48でさえ、札幌ドーム1day公演に苦戦をしており、乃木坂46も2年前のZepp Sapporo公演以来、ツアーで北海道公演を行っていない。逆に言えば、主要都市のなかでも札幌を埋められるようになればそのグループが全国的に一定の人気を得ていることの証明にもなるのである。


・48グループのコンサート事情


 AKB48とその姉妹グループはひとまとめにされがちがだが、姉妹グループごとに見てみると、それぞれの事情に違いがあることがよくわかる。ここでは各グループのコンサート事情に触れておこう。


 AKB48は前述の通りすでに5大ドームツアーまで経験済みだが、必ずしも全会場全公演が満員御礼だったというわけではない。今年の12月8日に結成10周年を迎えることや、総監督・高橋みなみの卒業を控え、グループにとって大きな節目となるため、大きな稼働が今後予想される。果たして今回は2年前のドームツアーを超えるような動員を達成することができるだろうか。


 SKE48はすでに地元最大規模のナゴヤドームでの公演を成功させているが、地元以外だと東京で武道館や横浜アリーナ、さいたまスーパーアリーナで単独公演を行い、関西では神戸ワールド記念ホールでコンサートを行っており、東名阪のアリーナクラスまでは押さえた印象だ。そして現在は2014年11月から始まっている全国47都道府県を周るホールツアーを行っており、地方への人気をさらに拡大すべく全国へ脚を伸ばしている。


 NMB48は大阪城ホールでのライブは経験済みだが、京セラドーム大阪での公演はまだ行えていない。ドームの中でも比較的キャパシティの少ない同会場なので、今年春にアリーナツアーを成功させた勢いからさらに加速させ、地元でのドームコンサートを実現させたいものだ。HKT48は福岡でアリーナ公演はまだ行っていないものの、海の中道海浜公園(福岡)での野外ライブや台湾や香港でのライブも行っている。AKB48のシングル曲で渡辺麻友と共にセンターに立った宮脇咲良や劇場支配人を務める指原莉乃の影響もあり、関東でも順調に人気を集めている印象で、これからの伸びに期待ができそうだ。


 姉妹グループではないが、関連グループということで乃木坂46にも触れていく。彼女たちは上記の姉妹グループとは異なり劇場が無いため、グループとしての年間のライブの本数も必然的に少なくなる。そんな彼女たちは、CDの売上という面では去年に入ってSKE48を抜き3枚のシングルで50万枚を超えるセールスを記録しているが、実は48関連グループの中で現在最も集客力があるグループもまた彼女たちなのである。すでに発表されている今年のツアーでは大阪・名古屋・福岡・広島・仙台でのアリーナ2days公演、そして神宮球場での2days公演と地方主要都市でのアリーナクラスと関東でのドームクラスの公演を切っている。彼女たちの動員力の理由は様々あるだろうが、大きな理由としては、劇場が無いことでコンサートの本数が少なく、1つ1つの公演価値が高まっているからであることは間違いないだろう。また、現在進行形で会場規模を大きく出来ていることで、ファンはメンバーと共に前進している感覚を味わえるという点もあると考える。


 そして、新たな姉妹グループとしてNGT48が新潟で発足することも決定済みだ。新潟はアリーナクラスだと朱鷺メッセ、スタジアムだとビッグスワンといった会場が十分に揃っているが、同時にここ数年多くのアーティストが動員に苦しむ都市の一つでもある。しかし、アルビレックス新潟も地元で盛り上がりをみせ、横浜DeNAベイスターズの本拠地移転先として一時報道されるなど注目度も高く、今年に入って北陸新幹線も開通している。Negiccoという先駆者もいるため、この場所には現在、勝負する価値が十分にあると考えていいだろう。


・「2016年問題」をアイドルたちは乗り越えきれるか


 一部では、2020年の東京オリンピックに向けての改修工事を主な理由として、関東のアリーナクラス、ホールクラスの改修工事、建て替えが2016年にピークを迎えるといわれている。決定しているだけでもさいたまスーパーアリーナ、横浜アリーナ、渋谷公会堂、青山青年館などが挙げられ、代々木第一体育館、日本武道館、中野サンプラザなども改修工事や建て替えの予定があるようだ。この「2016年問題」によってどのような問題が生じてくるのか。


 まずはアリーナクラスの会場が関東の中で減ってしまい、安定して同クラスを埋められるものの、ドームまではまだ及ばないグループや、念願の武道館公演を終えて次のステップへ進もうとしているアーティストたちのための会場が一時的に減り、取り合いになってしまうこと。そして同時に、Zeppクラスからアリーナクラスへと上り詰めようとしている発展途上のグループも同様の状況に直面することになるのである。ライブアイドルが中心の今、単純にライブが出来なくなってしまうことは大きな痛手だ。そうなると彼女たちに残された道はやはり地方への進出ということになる。ただ、関東で武道館が出来るからといって、大阪城ホールや名古屋の日本ガイシホールといったアリーナクラスで同じような集客が臨めるとは限らないし、必要に応じて会場規模を落とすことも考えなければいけないだろう。それでも地方公演を組んでいかないといけないのは、前述の通り「ライブが出来なくなってしまうこと」それ自体が大きな痛手であり、この関東のライブ会場が足りなくなるという問題は、アイドルに限らず全てのアーティストに共通の問題になってくるからだ。


 ツアーのスケジュールは約1年前から組まれ始まるので、ちょうど今ごろ来年に向けてツアーのスケジュールなどが協議され始めているかもしれない。来年こそはアイドルブームは終わるだろうと言われて久しいが、結局AKB48は最新シングル『僕たちは戦わない』で過去最高の初動売上枚数を記録しているし、PerfumeとBABYMETALは海外での活動の幅を広げ、ももいろクローバーZを要するスターダストプロモーションが売り出す新人たちは、驚異的なスピードで成長している。アイドルは一過性の「ブーム」から一つの「文化」になろうとしているという声も聴こえてきているが、とは言え全国区の人気を集めるアイドルグループの数自体はまだそれほど多くはない。次にスターダムを駆け上がるのは果たしてどのグループか。カギを握るのは「地方」だ。(ポップス)