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ORIGINAL LOVE田島貴男が見出した“今やるべきポップス”とは?「Negiccoの仕事はいい経験だった」

2015年05月30日 15:01  リアルサウンド

リアルサウンド

ORIGINAL LOVE・田島貴男。

 ORIGINAL LOVEが、6月10日に約2年ぶりの新作『ラヴァーマン』をリリースする。1994年に発売した『風の歌を聴け』と同じく佐野康夫(ドラム)と小松秀行(ベース)を迎えて制作された本作は、ジャズやファンクのテイストを漂わせつつ、Negiccoへ提供した「サンシャイン日本海」をセルフ・カヴァーしたり、ボーナストラックに『サントリー角ハイボール』のCMソングである「ウイスキーが、お好きでしょ」を収録するなど、エンターテインメント性に溢れた作品に仕上がっている。今回リアルサウンドでは、聞き手に音楽評論家・宗像明将氏を迎え、田島貴男にインタビュー。アルバム制作時のエピソードや田島の近況から、今なお成長を続けるORIGINAL LOVEの音楽性を紐解いた。(リアルサウンド編集部)


・「去年より今年のほうが歌手としては成長している」


――2年ぶりの新作で、1994年の「風の歌を聴け」のリズムセクションである佐野康夫さん、小松秀行さんを迎えたのはなぜでしょう?


田島貴男(以下:田島):このアルバムは数年前に作った「ラヴァーマン」から制作が始まってるんですけど、この曲は手応えを感じていた曲でした。でも最近作ったアルバムには合わなくて温存していたんです。最近ソウル・ミュージックを若い人達が聴く機会が多くなってきたこともあって、タイミングが来たと思ってレコーディングしました。前作の「エレクトリックセクシー」(2013年)を作り終えた後、「風の歌を聴け」の頃のようなORIGINAL LOVEらしいサウンドを聴きたい」という声を聞いて、たまたま「ラヴァーマン」は佐野、小松でレコーディングしたいと思っていたので、なおさら今だなと思いました。「RAINBOW RACE」のツアー(1995年)以来3人で集まってなかったけど、同じエンジニアも呼んで、レコーディングスタジオに集まったんです。あの頃と同じ音が出てきて感動しました。このグルーヴだったよな、と。


――「いわゆる一般的なORIGINAL LOVEらしいサウンド」を求められることに反感はなかったですか?


田島:30歳の頃だと感じていたかもしれません(笑)。でも、「風の歌~」から20年も経って、最近はなんとも思わなくなりましたね。バンドを再結成するようなつもりで楽しもうと。今回のアルバムは、「風の歌を聴け」を彷彿させるところが確かにありますが、やはり似て非なるサウンドだと思います。ORIGINAL LOVEはこの20年の間に音楽の旅をたくさんしてきました。そこで得た蓄積がこのアルバムには集約されています。加えて、ここ3、4年間、弾き語りをやりながら勉強したスライドギター、ジャズギターのテクニックが散りばめられています。以前よりも更に雑食性に富んだ本格的なソウルミュージックになっていると思います。


――「ラヴァーマン」にしろ、南部っぽい「ビッグサンキュー」にしろ、ソウルとしての深みは「風の歌を聴け」より増していると感じました。


田島:歳もとりましたから成熟せざるをえない(笑)。サウンドの成熟度も上がってますけど、あとは歌の変化かもしれませんね。歌は技芸なんです。技芸というのは、一週間練習して自分のものになるものじゃないんですよ。何年もかかって少しずつ自分のものになってゆくのが技芸なんです。歌えば歌うほど歌の面白さに気づかされます。去年より今年のほうが歌手としては成長している気がします。


――歌の技芸が磨かれているからこそ、「水曜歌謡祭」に出演したときの反響も大きかったんでしょうね。


田島:以前の自分の歌だったら、あんなに反響は得られなかったでしょうね。最近になってわかった歌い方が「ウイスキーが、お好きでしょ」のときにあって。そのときにCM制作会社の人が言ってくれたディレクションが勉強になりました。自分の個性をどうやってアピールしたらいいのかわかってきましたね。NHKの「The Covers」など最近はテレビの歌番組の仕事が毎回反響も大きくて楽しいです。今回のアルバムはサウンドもこだわっているけれど、ヴォーカル・アルバムでもあると思います。歌だけで3ヶ月かけてレコーディングしました。すごく疲れました(笑)。歌い方はわかったけど、それをどうやってレコーディングするかが難しかったです。やれるところまでやりましたね。


――難しいなかで、外部のプロデューサーを付けることは考えなかったのでしょうか?


田島:プロデューサーをつけたいなと思っていた時期もありましたけど、この歳まで一人でやってきたので「どっちでもいいや」と。セルフ・プロデュースはすごく大変ですね。でも「プロデューサーを付けるのが似合わない」と言われて、このスタイルになりました(笑)。Negiccoの現場では、いいプロデューサーが何人もいて羨ましいと思いました。僕はひとりで格闘していて、「自分がもうひとりいたら楽かな」とよく思います。でも、その分個性が強い作品にはなっているのかなと。


――Negiccoの「サンシャイン日本海」(2014年のシングル)を今回セルフ・カヴァーされていますが、アイドルのプロデュースを経験してみていかがでしたか?


田島:すごく楽しかったし、いい経験でしたね。今のアイドルの知識は全くありませんでしたが、connieさん(Negiccoのプロデューサー)の話を聞きつつ僕なりにがんばって作りました。すごく気に入ってます。そして、今のポップ・ミュージックとの接点が見つかりました。「光のシュプール」(2014年のNegiccoのシングル。田島貴男がアレンジ)では、connieさんに「昔のORIGINAL LOVEを思いっきりやってください」と言われて全力でやってみて、それが評価されて、「今のポップスとして通用するんだ」と自信になりましたね。だからなおさら「ORIGINAL LOVEをやってやろう」という気持ちになりました。Negiccoをきっかけにネオ渋谷系と言われる人たちの音楽を聴いて刺激を受けました。ORIGINAL LOVEは、渋谷系であって渋谷系ではないですけど(笑)。渋谷系の人がアイドルに楽曲を提供できるのは、楽曲主義の人が多かったからだと思うんです。アーティスト性よりも、曲の構造を極めていく人が多かったんです。ポップスというのは、歌詞や作品性、物語の世界をとっぱらっても構造が美しい。それに気づいてるのが渋谷系で、バート・バカラックは構造としてもレベルが高かったんです。


・「渋谷系はスリー・コードでやらないでしょ?」


――田島さんが「ORIGINAL LOVEは渋谷系ではない」と言ってきたのはなぜでしょうか?


田島:僕はスリー・コードでも良かったんですよ。アーティスト性や物語性もポップスには重要だと思っています。渋谷系はスリー・コードでやらないでしょ? でも僕はチャック・ベリーが好きで、戦前ブルースも大好きです。楽曲の構造は単純でも歌い手が素晴らしいなにものかを表現していればいいんです。僕には楽曲主義的な考え方とアーティスト主義的な考え方の両方がある。だからヴォーカリストとしてもお仕事をいただけるようになった。両方をがんばってやってきて出来上がったのが「ラヴァーマン」というアルバムなんです。個性的なアルバムだから、パッと聴いてわからないかもしれない。でも楽曲も歌もポップです。今は「いいね!」の時代で、SNSがあるから即効性がないと置いていかれる。価値観が拡散性にシフトしていて、そこへのアンチテーゼなのかもしれないですね。作品性にあえて重きを置いたのが「ラヴァーマン」ですね。作ってるときはわからなかったけど(笑)。


――「今夜はおやすみ」ではブラジルのトロピカリア、「きりきり舞いのジャズ」ではカエターノ・ヴェローゾを聴いているような感覚になりました。


田島:でも、「今夜はおやすみ」も「きりきり舞いのジャズ」もブラジルは全く意識せずに作りました。そう聴こえるかもしれないけど、最近はそういう風には音楽は作ってないです。ブラジルよりライ・クーダーに近いかもしれない。昔なら「きりきり舞いのジャズ」をカエターノ・ヴェローゾを意識して作るような作り方をしていたかもしれないけど、今はジャズの理論を勉強しながら、自分の曲に学んだことを当てはめるような作り方をしています。


――「きりきり舞いのジャズ」の「ジャズ」も、一般的なジャズのイメージとは異なりますね。


田島:ジャズ的なスケールやコードを使っているけれども、ジャズじゃないんです。でも、ジャズを勉強してそれを意識しながら曲を作っているところが「風の歌を聴け」の頃との違いかもしれない。ジャズを勉強したことでアメリカン・ミュージックの懐の深さがよりわかってきたんです。ライ・クーダーやマイケル・ジャクソン、スティーヴィー・ワンダーにもジャズの要素が入っていることが分かって、また新鮮に聴けるようになった。「今夜はおやすみ」もジャズのコードを所々に使ってます。そこにハワイアンっぽいスライド・ギターを入れました。エキゾティックなポップ・ミュージックに仕上がったと思います。


――「きりきり舞いのジャズ」がひとりで演奏されていることにも驚きました。田島貴男名義で、ギターとハーモニカ、ループマシーンを使った弾き語りツアーをされた経験が反映されている部分はありますか?


田島:4年前から「ひとりソウルショウ」や弾き語りをやって芸の幅が広がったんです。バンド芸とひとり芸は芸としてまったく違うジャンルなんです。だからギターの演奏や歌をもう一回見つけ直さないといけなかった。ひとりソウルショウのコンセプトは「ひとりでダンス・ミュージックをやる」。YouTubeを見たら、ブルース・マンがひとりでダンス・ミュージックをやっていたんですよ。ブルースはロックンロールの原型で、ダンス・ミュージックで、ギターを叩いたりして独創的なことをしてるわけです。デルタブルースのギタースタイルは、ひとりで歌いながらギターを弾くために考え抜かれていて、一時期そればかり聴いてました。ハワイアンのスライド・ギターにも興味をもって少し勉強しました。


――「フランケンシュタイン」の複雑なリズムにも変化球を感じます。


田島:今思えば、あの曲でやりたかったのはカーティス・メイフィールドだったのかとしれない。カーティスは大好きですけれど、彼の影響を受けて作ったような曲はあまり書いてこなかったんですよね。だからここでカーティスをガツンとやってみました。


――ボーナス・トラックとして「ウイスキーが、お好きでしょ」が収録されています。これを入れたのは、新しい歌い方が見つかったからでしょうか?


田島:「ウイスキーが、お好きでしょ」の仕事が、今回のアルバムの前哨戦みたいになって巡り巡ってフィットしていて、まったく違和感がないんです。全部つながったんですよ。いろんな歌い方でたくさん歌わされて、完成テイクがあれになって、時間が経ってからあの歌のテイクのチョイスが正しかったとわかったんですよ。「こんなに良くなるんだ」って教えていただいた気がして。だからアルバムにピッタリとハマったんです。


――ORIGINAL LOVEは前身のThe Red Curtainから数えると結成30年です。振り返っていかがですか?


田島:ポップ・ミュージックは常に「今」なんですよ。いかに自分のキャリアを背負わずに、今の音楽としてゼロから始めるか。その連続でしたね。ポップスはしんどいんですよ。


――そのキャリアの中で、新作の位置付けはどんなものでしょうか?


田島:ORIGINAL LOVEとして今やるべき一番正しいポップスを作ることができたんじゃないかな。ジャケットも今までと違うぞ、と。前作や「ひとりソウルショウ」、「ウイスキーが、お好きでしょ」やNegiccoの仕事を経て今回のアルバムがある。聴いてすぐわかる作品じゃないかもしれない。この間、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』という映画を見てすごく共感したんですよ。SNSの即効的な価値観もあるけど、本当の感動は情報の手がおよばない人間の丸裸の「おバカさん」な部分なんです。その悲しみや喜びの深さを芸術作品が描いて残していくのは大事なことです。


 ポップスも、スタンダードとして残るのは、曲の裏に謎があるものなんですよね。「ダサい」「カッコイイ」を超えた魅力がある。それが作品の強さなんですよね。たとえば、松任谷由実さんや桑田佳祐さんが作られてきたポップスもそうなんじゃないかな。「接吻」(1993年のシングル)もそういう要素が含まれていたと思います。そういう意味で「接吻」は渋谷系の曲ではないと思うんです。だって、渋谷系はひたすらかっこいいだけの音楽でしたから。それと、流行り言葉で消費されるのは嫌だったから、「渋谷系とは違う」と言ったりもしました。僕も小西さん(小西康陽。田島貴男が1990年まで在籍したピチカート・ファイヴのメンバー)もスタンダードを作りたかったんです。ピチカートも渋谷系と言われるけど、小西さんだって実は昔から真っ当なポップスを作りたかったんだと思うんです。ピチカートで、僕と小西さんと敬太郎さん(高浪敬太郎。ピチカート・ファイヴのメンバー、現在の表記は高浪慶太郎)はスタンダードはどうやって書くことができるのか、過去の音楽をいっぱい聴いて学んでいたんです。(取材・文=宗像明将)