トップへ

アジカン&PHONO TONESのドラマー、伊地知潔の縦横自在なドラムプレイを分析

2015年05月29日 19:01  リアルサウンド

リアルサウンド

PHONO TONES『Along the 134』

 5月27日にASIAN KUNG-FU GENERATION(以下、アジカン)がニューアルバム『Wonder Future』を、6月3日にはアジカンのドラマーである伊地知潔が参加している4人組インストバンドPHONO TONESがニューアルバム『Along the 134』を発表する。そこで今回は、ドラムに関してある意味両極端とも言えるこの二作品から、伊地知のプレイを分析してみようと思う。


 アジカンの『Wonder Future』は、ロックという歴史の大河につながるため、アメリカでのレコーディングを敢行した意欲作。当初は後藤正文が編集長を務める『The Future Times』の表紙を飾った縁もあって、Foo Fightersのデイヴ・グロールにプロデュースを依頼し、結局それは叶わなかったものの、Foo FightersのプライベートスタジオであるLAの「Studio 606」で録音が行われ、ナッシュビルでのミックスは、Foo Fightersをはじめ、Evanescence、Marilyn Manson、Deftonesなどを手掛ける名エンジニア、ニック・ラスクリネクスが担当と、強力な体制で制作が行われている。


 そして、本作のドラムの特徴はずばり8ビートである。アルバムのオープニングを飾る“Easter / 復活祭”や、中盤の“Planet of the Apes / 猿の惑星”を筆頭に、多くの曲で推進力のある縦ノリの8ビートが楽曲を引っ張っているのだ。Nirvana時代のデイヴ・グロール、Foo Fightersのドラマーであるテイラー・ホーキンス、さらには、以前からアジカンとの交流が深く、ニック・ラスクリネクスがエンジニアを担当した名盤『Meltdown』を残しているAshのリック・マックマーレイなどが連想されるが、彼らとの共通項はメタルへの愛情であり、そこがダイナミックなプレイの背景になっていると言えよう。


 もちろん、8ビートと一言で言っても細かいパターンは曲ごとに使い分けられているし、“Winner and Loser / 勝者と敗者”では、パートごとにコロコロと変わる拍子をスムーズに繋ぎ合わせてもいる。また、アルバムの後半には多彩なリズムパターンの曲が並び、不穏な雰囲気を煽る重心低めのタム回しから、細やかなハイハットの刻み、さらにはリムショットと変化していく“Prisoner in a Frame / 額の中の囚人”や、キメキメのモチーフから一転、間奏でシャッフルビートへと大胆に展開する“Opera Glasses / オペラグラス”など、多彩な引き出しを披露。デビュー10周年を経て、フレッシュな8ビートのロックに回帰しつつも、要所からはドラマーとしての確かな実力が感じられる。


 一方、PHONO TONESはといえば、アジカンとは違って16を意識した横ノリの曲が多いのが基本。また、今回はGrateful DeadやPhishのファンであることを公言しているペダルスチール担当の宮下広輔が作曲面をリードしたこともあって、ジャムバンド的な長尺曲が増えているのも特徴だ。とはいえ、セッションによって自由に作られたという感じではなく、曲構成は綿密に練られていて、伊地知は一曲の中で同じリフに対して複数のリズムパターンを見事に叩き分けている。


 一番顕著なのは、アルバムの中でも最も長尺の8分半に及ぶ大曲“at the break of dawn”で、この曲で伊地知は他の楽器と絡み合いながら、4つ打ち、8ビート、16ビートとリズムパターンを使い分け、一曲の中で様々な風景、感情を描いていく。実は、こうしたプレイはもともと伊地知の得意とするところでもあって、アジカンで言えば『ファンクラブ』の時期が「複数リズムパターン期」にあたる。それは“ワールドアパート”や“ブルートレイン”といった当時のシングルを聴くだけでもすぐに頷けるはずだ。


 また、フュージョンっぽい要素のある“frankenstein”や“tobira”あたりのファンキーなプレイ、“four”の16を基調とした派手目なプレイもPHONO TONESならでは。さらにミックスに関しても、録り音を重視して、楽器のいい音をストレートに鳴らしたアジカンに対し、シンバルを左右に振ったり、ドラムを奥に配置したりと、所々で細かなミックスの遊びが感じられるのも、PHONO TONESの特徴だと言っていいだろう。


 メインストリームのロックシーンでシンプルな4つ打ち主体のバンドが人気を獲得する一方、インディーシーンではブラックミュージックからの影響を感じさせるファンキーなバンドが増え、さらには現行のエレクトロニックミュージックを消化し、より先鋭的なリズムを志向するバンドも増えつつあるなど、リズムへのアプローチがより重要な意味を持ちつつある昨今。『Wonder Future』と『Along the 134』のリリースが続くこの機会に、日本のロックシーンを牽引し続けるバンドのドラマーによる、縦横自在のプレイをぜひ堪能していただきたい。(金子厚武)