今年のモナコは、あちらこちらで親子ドライバーの姿が見られた。幸運な勝利とはいえ、見事3連勝を成し遂げたニコ・ロズベルグのもとには、1982年のF1チャンピオンである父親ケケの姿があった。モナコGPで3連覇を達成したのは、アイルトン・セナ5連覇(1989~93年)以来の偉業。これでルイス・ハミルトンとのポイント差は10点となり、タイトル争いは風雲急を告げてきた。もし今年ロズベルグがチャンピオンになれば、グラハム・ヒルと1996年に王座についたデイモン・ヒル以来の「親子チャンピオン」となる。
史上最年少でF1ドライバーとなったマックス・フェルスタッペンの父親ヨスは、今シーズン毎戦グランプリを訪れ、息子の活躍を間近から見ている。今年モナコに参戦した20人のうち、ただひとり他のカテゴリーでもモナコ市街地を走った経験がなかったのがフェルスタッペンだ。しかし、その走りにはハンデを感じさせない輝きがあった。
レースでは、その勢いの良さが仇となったのかロマン・グロージャンに追突。重いペナルティを科せられるホロ苦いモナコ・デビューとなったが、レース後の父親は実に冷静だった。
「マックスに欠けているのは経験だけ。結果は残念ではあるが、マックスにとっては、とてもいい経験となった。だから決して悪い一日ではない」
もうひと組の親子は、ジャン・アレジと長男のジュリアーノだ。母親の後藤久美子さんにも似た端正な顔立ちは今年3月に鈴鹿サーキットで行われたイベントでも話題になったほどで、華やかなモナコのパドックでも目を引いた。
「初めてF1を生で観戦したのが、2年前のモナコだった」というジュリアーノがカートを始めたのも、同じ年のことだった。
「父に勧められたわけではないけれど、レーシングドライバーの父親を見て育ったわけだから影響がないわけではない」
初めてF1を生観戦、カートを始めてから2年後、15歳になったジュリアーノは今シーズン、フランスF4選手権に参戦。いきなり開幕戦でポール・トゥ・ウィン(ファステストラップも独占する完勝)を達成して、大器の片鱗を覗かせている。すでに9レースを戦い、2勝を記録。速いだけでなく、8レースで完走。「リタイアは1回だけで、それもスタート直後の1コーナーでアクシデントに巻き込まれたもの」だという。カートを始めてから、わずか2年で4輪にステップアップした少年の成績とは思えないほど速く、かつ安定している。
F1パドックで取材を受けるときも、落ち着いてしっかりと受け答えしていた。そして傍にいるアレジはマスコミを遠ざけることなく、途中で口を挟むようなこともなく、自由に取材させていた。それは「F1ドライバーにとって大切なことは、コース上で速いだけでは足りない。F1関係者やメディアと、きちんとコミュニケーションがとれる力を自分の力で磨いてほしい」という無言の教えのように感じた。
将来の夢は「お父さんと同じようにF1ドライバーになること」と笑顔で語ったジュリアーノ。いつかレギュラードライバーとして、パドックで再会するときを楽しみに待ちたい。
(尾張正博)