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石井岳龍監督が語るbloodthirsty butchersとロック、そして映画「シリアスな現実と娯楽を繋ぎたい」

2015年05月27日 13:21  リアルサウンド

リアルサウンド

石井岳龍監督

 bloodthirsty butchersを題材にした映画『ソレダケ / that’s it』のロードショーが、本日5月27日(水)よりシネマート新宿にて開始した。同映画の監督を務めたのは、ロックミュージシャンを多く起用した『狂い咲きサンダーロード』や『爆裂都市 BURST CITY』といった斬新な作品で知られ、70年代よりロック映画の最前線で活躍する石井岳龍監督。染谷将太、水野絵梨奈、渋川清彦、村上淳、綾野剛といった気鋭の俳優陣が、bloodthirsty butchersが奏でる轟音の中、アンダーグラウンドな青春活劇を繰り広げるという作品だ。


参考:ここには愛しかないーーbloodthirsty butchersのトリビュートアルバムを聴く


 bloodthirsty butchers側からの依頼により撮り始めたものの、ボーカル・ギターの吉村秀樹が2013年5月27日に急性心不全で逝去したため、内容の変更を余儀なくされたという同作は、どんな思いを込めて作られたのか。石井岳龍監督に、自身の音楽観や撮影までの経緯、bloodthirsty butchersへの思いや映画論まで、存分に語ってもらった。


■「音楽の才能が無いから映画を撮ろうって思った」


ーー『ソレダケ / that’s it』は、bloodthirsty butchersの音楽をテーマにした作品なので、まずは監督の音楽観について伺います。最初に買ったロック系のレコードは何ですか?


石井:俺、金持ってなかったし、プレイヤーも持ってなかったんで、ラジオ番組をラジカセで録音したりしてたんだけど、最初に買ったレコードは何だったかな? ロックと言っていいのかわからないけど、頭脳警察とかRCサクセションだったと思う。


ーーその辺のバンドが出たあたりから聞き始めたんですか?


石井:そうですね。でも、中学時代はロックって敷居が高くて、結構大人の音楽だったと言うか、日本語のロック自体もあまり無かったんですよね。その頃はフォークが全盛だったからよく聞いていて、その中でもやっぱり泉谷しげるさんとか頭脳警察とか、メッセージ性の強いモノを歌っている人の方が好きになりました。自分でバンドをやり出してからは、やりやすいキャロルとかね(笑)。最初はみんなレッド・ツェッペリンとかジミ・ヘンドリックスとか、ハードロックをやりたがるんだけど、音を出す場所が必要だから。当時はスタジオとかも無いし、金持ちの坊ちゃんか、ちょっと余裕のあるヤツじゃないと機材のセットを揃えられないので、敷居が高かった。


ーーパンクはいつ頃から知りましたか?


石井:パンクはまさに同世代で、ジョニー・ロットンとかシド・ヴィシャスとか、彼らがああいうことをやりたいっていうのがものすごく良くわかって、自分でもそういうのをやりたかった。たとえば俺はサイドギターなのに、一曲終わる前に弦が無くて手が血だらけになったりとか、ただただ叫ぶだけとか、そういう衝動があったから。でもパンクっていう形がまだ見える前に、音楽の才能が無いから映画を撮ろうって思って、映画に行っちゃったんですよね。


——映画の道に進みながらも、同時代の音楽の影響を受けていた感じでしょうか。


石井:ええ、8ミリで映画を撮り始めたときに、ちょうど雑誌とかでセックス・ピストルズなんかが出てきて、パンクっていうのが流行りだしたんですよね。でも、最初に聞いたときはピンと来なかったんですよ。レゲエとかジャズとか、何でもそうなんだけど、最初に聞いたときは「何か良くわかんねぇな。何でみんなこれで騒いでるのかな?」っていう感じ。でも、何回か聞いていくうちに「これは面白いな! すごいな!」って。セックス・ピストルズとザ・クラッシュ、それからポップ・グループやバースデイ・パーティーなども結構好きでしたね。


ーーそうした音楽体験が、ご自身の音楽映画作りにも繋がってきた、と。


石井:『狂い咲きサンダーロード』(1980年)の頃までは、音楽は聞くだけにしていたんですけど、『爆裂都市 BURST CITY』(1982年)で、音楽に対する欲求が「もう我慢できない!」って爆発しちゃって。それがひとつの映画として認められたというか、大きい会社からお金を出してもらったということがあったので、そこで初めて、自分のずっと聞いてきた音楽を使って、本格的に音楽映画に取り組んでみようと思いました。


ーー『爆裂都市』には、ロッカーズやルースターズ、スターリンなどのバンドが出演していましたね。


石井:スターリンはずっと付き合いがあったんですよ。ベースのシンタロウが福岡出身で、みんなが集まる「勝手にしやがれ」っていう喫茶店っていうか、溜まり場みたいなのがあって、そこにロックの連中とか演劇の連中とか、俺みたいに映画やってる連中とかが集まってて、そこでシンタロウと知り合った。その頃、まだ彼は大学生で「東京に出て来て面白いバンドやってるから観に来ない?」って誘われて見に行ったのが、本当にまだレコードも出す前のスターリンだった。ロッカーズとルースターズに関しては、初期の頃の攻撃的なパンクロックをやっているところがものすごく好きだったので、やはり注目していましたね。


ーーそれが自分のやりたいものとぴったり重なって、ああいう映画に仕上がったと。


石井:そうですね。町田町蔵君もそう。


ーー町蔵さんが出ているのに、スターリンが「メシ食わせろ!」ってやっているのはすごいですよね。これいいのかな?って思ったりしました(笑)。揉めたりはしなかったんですか。


石井:まぁ、あの2人は和気あいあいとはしてないでしょうけど、尊敬はし合ってたんじゃないですかね。


■「前向きな姿勢で進めていた中、吉村君が亡くなったことは衝撃的でした」


ーー今回の映画『ソレダケ』はどんな経緯で、bloodthirsty butchersを題材にすることになったのでしょう。


石井:ルースターズがフジロックの再結成解散コンサートの前に、LOFTでやったシークレットライブに吉村秀樹君が出ていて、「ああ、この人面白いな」って思ったので、自分のDVD BOX発売記念ライブに出てもらったのが、知り合ったきっかけですね。そこから知り合いを通じて雑誌の対談に出たりもしたかなぁ。前の映画『生きてるものはいないのか』では、田渕ひさ子さんのバンドの音を使わせてもらったりもしました。bloodthirsty butchersは田渕さんが加入してからしか体験していなかったので、激情の男子3ピースバトルと、それを支えかつ無敵に広げる田渕女子の存在はとても刺激的でした。その後、bloodthirsty butchersの方から「新しいアルバムを普通に出すんじゃつまらないので、先に全曲使って何か映画を作ってほしいって依頼があったのですが、彼らの楽曲は一曲一曲に独特の世界が出来上がっちゃっているから、それに絵をつけるのは大変難しいし、無理だって最初は断ったんです。でも、「なんとかならないのか?」っていう打診が何度もあったので、「ライブを全部撮って、ライブとドラマが同時進行するようなものだったら出来るかもしれない」って応えました。それから脚本を書き上げて、色々とテスト撮影もして、役者も今回の染谷将太君と渋川清彦君と村上淳君が決まりました。ドラマのパートは、もともとはbloodthirsty butchersを模した四人の話だったんですよ。


ーーもともとは違うストーリーを想定していたということですか。


石井:ええ。田渕さん役の女の子はそのときまだ決まってなかったんですけど、染谷君が吉村君の役で、渋川君はドラム叩けるんで小松正宏君で、村上君がベースの射守矢雄君、というところまで設定していました。その四人が精肉工場で働いている、まさに本物のブッチャーズ=肉屋で、でも金も無いし、みんなずっとバンドをやりたいと思っているんだけど、やりたくても出来ないっていう。そういうどうしようも無いヤツらのドラマが、bloodthirsty butchersのライブとどんどんシンクロしてきて、最後は四人がステージに立つという話になる予定でした。だけど撮る準備をしていたら、吉村君が突然亡くなってしまって……。


ーー本当に突然でした。


石井:それでその話は立ち消えてしまって、しばらくは呆然としていたんですけど、プロデューサーの方から「せっかくだから何かやるべきではないか」と言われて、今回の話を急遽作りあげたんです。メインの俳優さん達は一年待ってくれて、その間に水野絵梨奈さんも決まって。その経緯は非常に長いストーリーでした。ある意味、映画よりもドラマティックだったかもしれない。本当に撮影の二ヶ月ちょっと前ぐらいですね。吉村君が突然いなくなっちゃったのが。丸1日スタジオを借りて、そこにお客さんを入れて撮影することも決まっていて、前後にドラマを撮るスケジュールも決まっていて、あとは女優さんを決めるだけ、という段階でした。


ーー監督ご自身にとっても、かなり思い入れの強い作品なのでは。


石井:何度か断って、一生懸命考えた末のゴーサインだったので、力は入ってましたね。久しぶりに音楽映画を撮るんだったら下手は打てないし。そう考えていた矢先だったこともあって、吉村君の死は衝撃的でした。まず、映画が出来る、出来ないの話の前に、吉村君が亡くなったこと自体がショックだった。突然だもん。前向きな姿勢で、結構みんなと頻繁に会ってましたからね。リハーサルも何回もやって、ライブシーンも自分で何回も撮っていたし。


ーーでは、作品中で流れてる電話の着信音とか、ノイズみたいな効果音は、リハーサルなどで撮っていた音ですか?


石井:今回の企画のリハで録ったものではなくて、これまでのバンドのライブ音源の中で吉村君が演奏の合間に出したりする音とか鳴らしているノイズとかを音楽担当スタッフが丁寧に拾ってくれたんです。加工しているのもありますけど、全部そうです。悪いヤツらがワーッと出て来るときの音は、曲のエンディングでメチャクチャやってる一番激しい部分で、bloodthirsty butchersの一番激しい部分のフィードバック音を使っています。


ーー南無阿弥役の水野絵梨奈さんがアカペラで歌ってる曲も?


石井:吉村君がライブシーンで歌っているのと同じbloodthirsty butchersの「襟がゆれてる。」っていう曲です。


ーー映画で使われている音楽、音という音のすべてはbloodthirsty butchersのものなんですね。


石井:はい、そうです。


■「水野絵梨奈さんは怖いぐらい役に入っちゃって、すぐには抜けれない感じがあった」


ーー今回の作品は役者さん達もすごく面白いですね。『爆裂都市』や『狂い咲きサンダーロード』での泉谷しげるさん然り、こういった個性的な役者さんはどういった基準で選ぶのでしょう?


石井:泉谷さんは俺が大学一年の19歳のときに撮った8ミリ映画を観て、向こうから電話がかかってきて「お前面白いから一緒に何かやらないか?」って言われました。それはすごく驚いたし、嬉しかったですね。たかだか8ミリ映画撮った若造に自分から連絡をとってきて「一緒にやろう」って、すごく感激するじゃないですか。それでやり始めたのが『狂い咲きサンダーロード』です。そういう経験があったから、オファーするときはいつも、基本的に自分が好きな人や気になる人に「一緒にやりませんか?」って誘う感じですね。今回もまったく同じ感覚で、当初の設定を踏まえたうえで、ロックバンドの経験があるひとにオファーをしました。恵比寿大吉役の渋川清彦さんはドラマーで、ちょっとロカビリーパンクみたいなバンドをやっているんです。すごく面白いバンドで、どっちかっていうとハードコアっぽい感じもある。ボーカルのひとは全裸で歌ってましたからね(笑)。


ーーこの人めちゃめちゃイイ味出してますよね。素晴らしいですよ。この役柄みたいな人、ライブハウスによくいます(笑)。


石井:ははは、いるんだよなぁ。


ーー『爆裂都市』では、ほとんど素人の人達も出ていました。


石井:たまたま爆裂都市はロックバンドの話で、その前のサンダーロードは暴走族の話なので、やっぱりそういう匂いというか、通じるものがあるヤツじゃないとダメだと思うんですよ。今回の映画の千手完役の綾野剛君も、バリバリのロックマンですからね。イケメンでかっこいいんだけど、中身はロックマンです。


ーー水野絵梨奈さんの演技も素晴らしいですね。


石井:彼女は身体能力がすごいので、観ていて気持ちいいですよね。もともとE-girlsのリーダーとしてダンサーをしていたんだけど、いまはより俳優業に専念していきたいと聞いています。彼女は回し蹴りとかのアクションが瞬時に出来るんですよ。立ち姿とかカッコいいし、演技の入り方も尋常じゃない。


ーー主人公の染谷将太君とケンカするシーンはリアルでした。


石井:ふたりとも演技がうまくて素晴らしいです。ただ彼女はちょっと怖いぐらい役に入っちゃって、すぐには抜けれない感じがあった。


ーー昔の役者さんみたいですね。


石井:そうですね。全身全霊でぶつかって行くタイプだから。今回出演した四人の男性は、日本の映画界で最も演技がうまい人達なので、新人で彼らにぶつかって行くのは相当プレッシャーだったと思う。でも、彼らに負けないくらいよくやってくれて、僕も観ていてすごく感動しました。彼女の熱演にはぜひ注目して欲しいです。


■「シリアスな現実と娯楽をどうやったら繋ぐことができるのかはひとつのテーマ」


ーー今作は世界観もすごく興味深かったです。“戸籍の無い人間の話”という設定は、どんな発想から生まれたのでしょうか。


石井:最近、自分がもう本当に幽霊になったみたいな気分がしていたんですよね。この世の中を動かしている連中のやっていることがまるでわかんなくて。少し前までは「馬鹿野郎!」って怒ってどうにかなることもあったんだけど、もはや俺がどんなに叫んでも届かないっていうか、違う世界に生きているんじゃないかっていう感覚があったんです。この作品は一種のファンタジーだとは思うんだけど、登場人物は全員、親が居ないヤツなんですね。そういうヤツらって今はいっぱいいるし、男は犯罪者になって女は風俗やるしか無いっていう世界は現然としてあると思う。でも一方で、ものすごく当たり前の世の中が当たり前に存在して動いていて、そういう人達はいないも同然というか、見ないようにされてる。その辺のギャップに対するやりきれない思いが自分の中にすごくあって、それを普遍的に映画で表現できないかと考えた結果、“戸籍のない人間”という設定を思いつきました。


ーーなるほど。


石井:もちろん本当に辛いヤツらは映画館とか来れないと思うし、彼らの生き抜いている地獄というか、戦場はものすごいと思うから「こんなの甘いよ」って思うかもしれないんだけど、普通の現実とそういう世界を繋いで世に知らしめるのは、ロックとか映画の役割のひとつだと思うんです。加えて、映画は娯楽だとも思うので、シリアスな現実と娯楽をどうやったら繋ぐことができるのか、あるいは自分が納得出来るのか、というのは、自分にとってひとつのテーマでもあります。映画館で観てほしいのはもちろんだけど、たとえばレンタル屋でふと手に取ったとか、何かの拍子にでたまたま観てしまったりして、「日本映画でこんなのがあるんだ」「こういう表現が出来るんだ」と感じてもらえたりしたら、すごく嬉しいですね。


ーー監督の映画を初めて観たときはまさにそんな感じでした。仲間内で「これ観てみろよ、すげぇから!」って回していました。


石井:そういうのが嬉しいですよ、本当にね(笑)。


ーーでは最後に、監督が映画を撮る上でいちばん大切にしていることを教えてください。


石井:「自分が本当に心の底から撮りたいと思うかどうか」でしょうね。どんなに素晴らしい依頼があっても、相通じるものがないとやはり出来ないです。自分に嘘はつけないので。一方で、どんなにくだらなかったり、恥ずかしいと思うことでも「これは俺は絶対やっておきたいんだ」っていうものがあれば、それは撮ります。今回の映画は、映画館の音響をフルに使ってライブハウス並みの音を出していて、立体感のあるbloodthirsty butchersの音像を楽しめるので、音楽好きの人にはもちろん体験してほしいんですけれど、映画自体も色んな作り方していて意外性のある作品になっていると思うので、普段はあまりロックを聴かないような人々にも、ぜひ一度観てほしいです。(取材・文=ISHIYA/写真=リアルサウンド編集部)