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スーパーフォーミュラ:「攻めようがない」。小林可夢偉を唸らせた石浦宏明の走り

2015年05月26日 11:30  AUTOSPORT web

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石浦宏明と小林可夢偉の“一騎打ち”が終盤20周にわたって繰り広げられた。
2008年以来、実に7年ぶりに開催されたスーパーフォーミュラ岡山戦。天候にも恵まれたこのレースでは、国内での経験豊富な石浦宏明と、昨年までF1を戦っていた小林可夢偉による、国内トップフォーミュラにふさわしいハイレベルな接近戦が終盤の20周近くにわたって繰り広げられた。

 実はこのふたり、キャリアの初期にはともにこの岡山での訓練合宿に臨んだ経験もある。ただ、キャリアの比較的早い段階で海外へと渡った可夢偉に対し、石浦は国内で腕を磨いてきた。それぞれの舞台でそれぞれの経験を積み上げてきたふたりが、ここ岡山でがっぷり四つの一騎打ちを演じ、その速さを見せつけた。

 結果だけを見てしまえば、今回のレースは石浦のポール・トゥ・ウイン。一見、盤石の優勝だったようにも思える。ただ、決勝日朝のフリー走行で石浦は、4周をしたところでなんとコース脇にマシンを止めてしまう。制御系のトラブルが発生したということだが、「車高すらどうしていいかわからない状態だったので、めちゃくちゃ不安でした」(石浦)と、決勝に向けては盤石とは程遠い状況に置かれた。

 幸いにもフリー走行直後に行われたサーキットサファリでは走り出すことができ、決勝前に行われれる8分間のウォームアップでは距離を走ったタイヤを装着するとともに、燃料も積んだ「苦しめな状態」をシミュレーション。グリッドでも車高の変更などを行ったが、「エンジニアにも『あとはわからないからお願い』と言われていたので、開き直った感じ」と、最後は石浦の腕に託される形でスタートを切った。

●可夢偉と石浦の“冷静な”攻防
 一方、決勝では石浦にあと一歩というところまで詰め寄った可夢偉だったが、前日の予選ではトップ3からコンマ4秒引き離されての4番手。ただし、可夢偉のセットアップは決勝を重視したもので、その狙い通り、可夢偉はスタートで3番手まで順位を上げる。前方の石浦、そしてジョアオ-パオロ・デ・オリベイラという国内レースの経験豊富なふたりと遜色ないペースで周回を重ね、ピットストップでオリベイラに先行。アウトラップで迫ってきた野尻の攻撃も、ブレーキングでフラットスポットを作りながらも退け、首位を走る石浦への"勝負権”をもぎ取った。

 対する石浦は、盤石とは言えない中でのスタートとはなったものの、オープニングラップを終えて1秒以上のリードを確保。「一瞬、楽に逃げられちゃうのかなと思ったのですが、そんなに甘くはなかった」と徐々に詰め寄られるが、タイヤ交換後もトップの座をキープし、可夢偉の追撃を受けて立つ形となる。

 47周目、可夢偉がオーバーテイクシステム(OTS)を用いて勝負を仕掛ける。「プレッシャーを与えていったら(石浦は)どれだけ失敗するかなと思ったのですが、まったく失敗しなかった。僕もどれくらいのブレーキで行けるのか測っていなかったので飛び込めなかった」と、先制攻撃は不発に終わった。翌周も立て続けにOTSを使用し、ヘアピンでイン側に並びかけるが、石浦はアウト側からポジションを守る。「しっかりミラーを見ているなということが分かった。なかなかこれは攻めようがないなと」(可夢偉)。

 この時点で残りのOTSは、可夢偉が1回に対して石浦は3回。「1回休んで、普通のペースでプレッシャーをかけて(石浦の)OTSを減らそうと思ったのですが、1秒差より近づこうとするとエアロが足りず、タイヤを壊してしまうので近付けなかった」と、F1で数々のオーバーテイクショーを披露してきた可夢偉でさえ容易に仕掛けることは困難な状況だった。

 追撃を受ける石浦にとってこのコースは、ミドルフォーミュラ時代から多くの周回をこなしているほか、ドライビングコーチとして客観的にも走りを見ている、"知り尽くした”サーキット。可夢偉が後方で冷静に機を窺う一方、追われる石浦も「他のカテゴリーでも最終コーナーや2コーナーで後ろにつくと苦しいので、バックストレートエンドに絞って、そこだけ守れればいいなという感覚でした」と、冷静にディフェンスを展開した。

 最後まで首位を守り切ってチェッカーを受けた石浦だったが、「落ち着いていた反面、かなりいっぱいっぱいだった。ドリンクも飲んでいないし、ラップ数を数えながらミスをしないように最後まで走ったら勝てた、という感じでした」と語るほど可夢偉に追い詰められてもいた。そんな中でも、その腕と経験を最後まで振り絞り、朝のトラブルという苦難をもはねのけて、デビューから8年目、参戦シーズンとしては6年目にして見事初勝利を収めたのだった。

●残り5戦に向けた期待も膨らんだ岡山戦
 今回の岡山戦で繰り広げられたふたりのバトルでは、参戦2戦目にして表彰台を獲得した可夢偉の速さとともに、地の利も活かして冷静に勝利をものにした石浦のレベルの高さも改めて浮き彫りになった。

 もちろんスーパーフォーミュラには、これまでも国内外のトップドライバーが参戦してきており、ニューマシンのSF14によって、昨年も見応えのあるハイレベルなレースが展開されていた。ただし今年は、昨年までF1で活躍し、日本のサーキット、そして日本のレースを良くも悪くも"ほとんど知らない”可夢偉が登場。今回はその可夢偉が暴れたことで、シリーズ全体が良い意味でかき乱された。

 この岡山は可夢偉にとって、これまでSF14で4日間の走行を行っているだけに、比較的経験のあるサーキット。ここできっちりと結果を残した可夢偉だが、可夢偉車を担当する山田健二エンジニアがレース後に「クルマも調子は悪くなさそうでしたし、タイヤの状態も非常に良かったので、やっぱり悔しいですね」と話した通り、もちろん目指すは表彰台のいちばん上だ。今後は走行経験のない、もしくはほとんど記憶にないサーキットも登場するが、その状況の中で可夢偉がどのように暴れ、それによって生じた波に乗って今度は誰がその速さを見せることになるのか。7年ぶりの岡山戦は、今季の残り5戦に向けて非常に期待の膨らむ1戦となった。