2015年05月25日 14:21 弁護士ドットコム
ようやく仕事に慣れてきた入社半年目に、会社からとんでもない提示を受けた男性がいる。弁護士ドットコムの法律相談コーナーに相談を寄せた男性によれば、会社側は「仕事のミスがある」と男性の非をあげ、次のような条件変更を一方的に通告してきたという。
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・ハローワークの求人票では「社会保険あり」となっていたのに、会社は「社会保険の取り消し」を言い渡し、「病気になったら実費で受けろ」と健康保険証を取り上げた。
・作業日報に記載された「作業時間」のみが賃金の対象で、作業時間にカウントされない「拘束時間」について、会社は賃金を支払わない。そのため、男性の給与は大幅に減ってしまった。
あまりに一方的な内容だが、こんな「条件変更」は法的に認められるのだろうか? また、労働者はどのように対抗すれば良いのだろうか? 労働問題にくわしい上林佑弁護士に話を聞いた。
まず、会社が「社会保険の取り消し」を言い渡し、健康保険証を取り上げた行為には、どんな問題があるのだろうか。
「法人であって常時従業員を使用するものは、強制適用事業者として、社会保険の加入が義務づけられています。そのため、健康保険を含む社会保険に加入させないという扱いは、違法性があります。
また、本件の場合、『社会保険への加入』が相談者と会社の間の労働契約に含まれており、合理的な理由もなく、一方的に労働者に不利益な内容に変更することはできません。そのような観点からも、問題があるといえます」
では、男性はどうすれば良いのだろうか。
「まずは、会社に対し、健康保険証の返還を求めることです。これに応じない場合は、労働基準監督署や会社の所在地を管轄する年金事務所、または健康保険組合に相談してみると良いでしょう」
次に、作業時間にカウントされない「拘束時間」について賃金を支払わないという会社の対応は、どうだろうか?
「会社に賃金の支払義務が生じる『労働時間』とは、労働者が使用者の指揮命令の下に置かれている時間のことを言います。作業時間以外の『拘束時間』がこの『労働時間』といえるかどうかは、労働者に労働からの解放が保障されているか否かを基準に判断します。
拘束時間のうち、労働からの解放が保障されている時間は『休憩時間』として賃金支払の対象とはなりません。一方、労働からの解放が保障されていない時間は『労働時間』となります。
たとえば、お昼の休憩時間に、職場に電話番として1人残るという場合です。休憩時間とはいえ、電話がかかってきたら、これに即時に対応しなければなりません。労働からの解放が保障されているとはいえないので、電話番をしている時間は休憩時間ではなく『労働時間』になります。
したがって、拘束時間のうち労働時間に該当する時間分については、本来支払われなければならない賃金が支払われていない状況といえます。労働者としては、会社に対して、未払賃金の請求をすることできます」
最後に、上林弁護士は相談者に向けて、次のように語っていた。
「労働者に対する賃金の不払いは、労働基準法にも違反する行為であり、罰則も定められています。まず、最寄りの弁護士会や労働基準監督署へ相談してみると良いかと思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
上林 佑(かみばやし・ゆう)弁護士
仙台弁護士会所属。労働問題を中心に、債権回収、その他企業法務一般、交通事故、知的財産権等、広く取り扱っている。
事務所名:三島法律事務所