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大型犬に襲われて「脱糞」した豆柴犬ーー哀れな「愛犬」は慰謝料をもらえるの?

2015年05月24日 09:51  弁護士ドットコム

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休日の公園で、気持ちよく散歩していた豆柴犬と飼い主の女性。しかし、そこに突如、リードが外れたゴールデンレトリーバーが現れ、2人(1人と1匹)を追いかけてきたーー。弁護士ドットコムの法律相談コーナーにそんな体験を寄せた女性は、そのときの様子を次のように説明する。


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「とっさに抱き上げましたが、ゴールデンは立ち上がって、私の腕の中の豆柴にケンカを売ってきたんです。さらに、かばおうとした私の腕をつかんで、すごい力で地面に引き寄せ、その際に、私は左足に軽い傷や皮下出血を負いました」



女性は、皮下出血がひどく、医師には完治するまで2カ月ほどかかると言われたが、幸いなことに愛犬にケガはなかった。「臆病な子なので、恐怖のあまり脱糞し、唾液を垂れ流し続けた愛犬の姿を思い出すたび、胸が苦しくなる」と語る。



「リードを放して大型犬を放置した飼い主に対して、せめて、私と犬の受けた恐怖やストレス、外傷、衣服の破損に対する慰謝料をもらいたい」と女性は怒るが、女性だけでなく、恐怖を感じたという愛犬も、慰謝料をもらうことができるのだろうか?



ペット問題にくわしい渋谷寛弁護士に話を聞いた。



●犬にも権利能力が認められるか?


「犬が精神的な苦痛を感じていることは確かですが、その犬が直接、加害犬の飼い主に慰謝料を請求することは、今の法制度では難しいと言わざるをえません。犬には、人間と同じような『権利能力』が法律上認められていないためです」



渋谷弁護士は、そう指摘する。



「ただし、豆柴犬の飼い主さんが、加害犬の飼い主に対して慰謝料を請求することは考えられます(民法710条)。愛犬が不憫な思いをして、精神的苦痛を負っていることを感じ取った『飼い主の精神的苦痛』に対する慰謝料です。



過去には、動物病院での獣医療過誤により愛犬が死亡した事例で、飼い主の慰謝料として50万円の支払いを命じた裁判例があります。また、死亡していない事例でも、獣医療過誤により後遺症が残り、前足を引きずるようになってしまった事例で40万円、交通事故で大ケガをした事例で20万円の慰謝料の支払いを命じた裁判例もあります」



●理論的には「飼い主の慰謝料」は認められる?


今回の事例で、飼い主に対して慰謝料請求した場合、金額はどのくらいになるのだろうか。



「さきに述べた事例に比べて、本件の事例の場合、犬は大きなケガを負っているわけではありません。



理論的に、飼い主の慰謝料が認められる余地はありますが、数千円から数万円の範囲にとどまることが予想されます。裁判官によっては、金銭の支払いを命じる程の損害ではないと評価することもあり得ます。



もっとも、この事例では、飼い主さんが全治2カ月の傷害を負っていますので、そのことに対する治療費や慰謝料を請求することはできます」



渋谷弁護士はこのように述べていた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
渋谷 寛(しぶや・ひろし)弁護士
1997年に渋谷総合法律事務所開設。ペットに関する訴訟事件について多く取り扱う。ペット法学会事務局次長も務める。
事務所名:渋谷総合法律事務所
事務所URL:http://www.s-lawoffice.jp/index.html